「判定決着は許されない」“キレキレ”井上尚弥の肉体が“9.3”ドヘニー戦へ向けてさらにモンスター化していた!

プロボクシングのスーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)が21日、横浜の大橋ジムで元IBF世界同級王者、TJ・ドヘニー(37、アイルランド)との防衛戦(9月3日・有明アリーナ)に向けての練習を公開した。驚いたのは、さらにモンスター化した肉体。ドヘニーは当日計量でリミットより12.6キロにも及ぶ増量をしたことがあり、そのスーパーウエルター級に相当するパワーだけが懸念材料だったが、対抗できる強力なフィジカルを作りあげた。井上は「判定決着は許されない」との決意を語っっている。

 

「疲労はピークですよ」
 ドヘニー戦の2週間前。まだ疲労を抜く時期でもない。世界王者にとって一番つらい時期である。それでいてモンスターが見せた3ラウンドのシャドーは『キレッキレッ』だった。ここまでの89ラウンドに及ぶスパーリングをチェックしてきた大橋秀行会長が「調子いいんじゃない?」と思わず聞き返す回数が過去最多だったという。
 どのパンチが当たっても倒れそうだ。
「右ストレート、左フック、ボディ。どれでもね」
 大橋会長がニヤつく。
 今回は、前半、後半に分けてタイプの違うメキシコ人パートナーを2人づつ計4人も招聘したが、スパーで倒すシーンも見られたという。
 そしてTシャツを脱ぎ、上半身を裸になって行った2ラウンドのサンドバッグでさらに驚かされることになる。肩回り、発達した大胸筋と胸厚、脇から背中にかけての筋肉が浮き上がっていた。その肉体は、明らかにでかくなり、モンスター化していた。もうスーパーバンタム級の肉体ではない。
「変わった気がする。気のせいかもしれないけど、そこはわからない。ただ筋量的には少し増している」
 井上自身は、そう返すが、「フィジカルトレーニング、トータルのラウンド数も増えた」という成果が、肉体に反映されている。
 大橋会長も「体が全然違いますね。スーパーバンタム体になってきた。筋肉の質が違う」と証言した。
 30戦26勝(20KO)4敗と高いKO率を誇るドヘニーはパワーが武器。当日に大増量してくることで知られ、昨年11月、井上のスパーリングパートナーだったジャフェスリー・ラミド(米国)を1回TKOで倒した試合では、なんと12.6キロを増量し、当日は67.8キロでリングに上がった。6階級上のスーパーウエルター級に相当する体重だ。井上も当日に5キロは増やし、スーパーフェザー級に相当する体重にはなるが、それでも4階級上。だが、この肉体があれば対抗できるだろう。
「判定決着は許されない。流れをしっかりとつかんで、仕留めるべき瞬間に仕留められるのがベスト」
 ありきたりのKO宣言よりも、さらに自らにプレッシャーをかけるような井上の決意だった。

 

 5月6日の東京ドームで4万人を超えるファンの前で“悪童”ルイス・ネリ(メキシコ)を6回TKOに葬った。歴史的なビッグイベントの後に、元IBF王者とはいえ、37歳で、当初対戦予定とされていたWBO&IBF1位のサム・グッドマン(豪州)に判定負けを喫してるドヘニーが、防衛戦相手に指名され、海外メディアに「役不足だ」と酷評された。英ブックメーカー「ウィリアムヒル」のオッズでは、なんと井上勝利が1.02倍。ほぼ賭けの成立しないオッズで、一方のドヘニー勝利が15倍となっている。父で専属トレーナーの真吾氏は「周りが言っているような(楽勝の)イメージは持っていない。元王者で体もフィジカルも強い」と冷静に分析していて、大橋会長も「ある意味ネリ以上に危険な相手」と気を引き締めるが、どうしても世間の楽勝ムードは井上にも伝わってくる。だからこそより自分を追いつめた。
「周りの(楽勝の)雰囲気は一番感じる。自分自身にそういう気がなくても緩みが出てくる。過去の経験から振り返ると、そういう瞬間があった。だからこそ、自分の中で気を抜かないための意識で練習した。一番よく練習したという自負がある。かなり追い込んだ、言動だったり、内容だったりをより心掛けた。練習内容とラウンド数。ネリ戦以上を意識している」
 「ネリ以上」がテーマだった。
 怖いのは、自分を追い込みすぎてのオーバーワーク。
「まだまだトレーニングはしたいが、疲労を持ちこさず、9月3日に最高の状態に持っていけるようにするための調整が難しい。やることは、ほぼほぼすべてやってきた。少しの油断が怪我につながる。少しのズレもなく仕上げていく」
 日本列島を襲った記録的な酷暑。あまりにも気温が上昇する場合にはロードワーク時間を夜に変え、「体に無駄な疲労を蓄積しないため」に直射日光を浴びることも避けた。この日の公開練習ではサンドバッグを打っている際に、近くでフラッシュをたかれ「フラッシュはやめてください」と珍しく依頼をした。そういった細心の配慮が油断という2文字を打ち消していくのだ。
「東京ドームの試合が、大橋ジム、自分にとっても歴史的な試合だった。でも、そこで燃え尽きるんじゃなくて、先に加速させていく、一戦のひとつとしてとらえている。自分でもどこが完成なのかわかんない、まだまだ完成しなければならないところはる、まだまだ進化する姿を見せされる。ギアを上げた井上尚弥を楽しみにしてもられればいい」
 “シン”イノウエ・ナオヤが9.3有明からまた新たな衝撃を世界へ発信するだろう。

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