腰痛のせいでゴルフをやめたくない… “練習・ラウンドをしながら”治療・リハビリが受けられる画期的プログラムとは?
腰痛、関節痛などの身体的なトラブルにより、ゴルフを断念してしまうゴルファーも少なくありません。そうした問題をゴルフ場に滞在して治療し、クリアしていく画期的な試みが小淵沢カントリークラブ(山梨県)の「IKIGAI GOLF Academy」でスタートしました。
プロ、アマ問わず抱える腰痛ゴルファーのジレンマ
小淵沢カントリークラブ(山梨県)の「IKIGAI GOLF Academy」で、画期的な試みがスタートしました。その名も「PREMIUM MEDICAL SUPPORT」(プレミアム・メディカル・サポート)。ゴルファーの健康をサポートし、できるだけ長くゴルフが楽しめる環境を整える“IKIGAI”のコンセプトに合わせたものです。
腰痛、関節痛などの身体的なトラブルにより、ゴルフを断念してしまうゴルファーも少なくありません。そうした問題をゴルフ場に滞在して治療し、クリアしていくというのが今回導入されたプラン。担当医がそれぞれの症状に合ったメニューを作成し、コース内のあらゆる設備を使いながら回復に向かっていく驚きの現場をリポートします。
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「これはいいですね!」。今年オープンしたばかりの芝から打てる300ヤード超のドライビングレンジで、満面の笑みをうかべたのが飛ばし屋として知られる小溝高夫プロ(63)。その腰にはゴルフ用に作られた超短波治療器が貼られていました。
2014年の「マイナビシニア&レディースカップ」では53歳という年齢を感じさせない300ヤード超のショットを連発し、見事優勝を飾っている小溝プロ。しかし、このところ深刻な腰痛に悩まされ、プレーもままならない状態に追い込まれていました。
そこで今回、このプロジェクトの担当医である杉本和隆氏(苑田会人工関節センター病院長)が小溝プロのためにオリジナルメニューを作成。症状を改善し、トーナメントに復帰していくためのサポートを行っていました。
標高1150メートルに位置する小淵沢CCを心地よい秋風が吹き渡っていました。合宿の行われていた今年11月の初旬は、ラウンドに最適な気候。まず小溝プロのメニューを見て行きましょう。
小溝プロはクラブハウスに直結しているロッジに宿泊。起床後にまず杉本医師の直接指導のもと、ストレッチポールなどの器具を使ったストレッチで体をほぐします。その後、個々に合ったリハビリテーションメニューのトレーニングを約1時間半行います。
朝食を取った後はドライビングレンジに行き、超短波治療器を装着しながら特殊な練習機械を使ってのショット練習を1時間。「腰をほぐしながら練習できるのは大きな利点です。ラウンド前だけでなく、疲れがたまってくるラウンド後にも有効です」(杉本医師)。
その後完備されたアプローチ、バンカーエリアへ。さらに練習グリーンでパッティングを行ってからラウンドプレーへスタートします。当然のことながらここででも杉本医師とトレーナーが同行。ショットごとに痛みを感じたか否かなど、症状などの聞き取りを行いながら、0.5~1ラウンドを消化していきます。
その後は温泉につかり1日の疲れを取ります。理学療法士やトレーナーからストレッチの指導やマッサージを受けた後、夕食という流れです。
小溝プロとともに、このメニューをこなしていたのが修徳高(東京都葛飾区)の先輩で、ジャンボ軍団でも、ともに汗を流した高見和宏プロ(64)。
レギュラーツアーでは1995年のフィランスロピーなど5勝、シニアツアーでもファンケルクラシックに2度優勝と、輝かしい実績を持つ高見プロですが、首痛や肩のケガ、腰痛など多くの故障にも悩まされてきました。
「腰が痛いままゴルフをしていたんですが、下肢の神経の不全麻痺も発症し手術もしたんです。脊柱狭窄症の手術をしていただいて、今は大分よくなりました。こんなに至れり尽くせりの環境はどこにもないと思います」と、練習場でも豪快なショットを連発していました。
高見プロの口をついて出た「至れり尽くせりの環境」。「IKIGAI GOLF Academy」はまさにそうした条件を備えた施設です。八ヶ岳を背後に抱き前方に南アルプス、富士山も望める標高1150メートルの高原にあるのが小淵沢CC。自生する美しいカラマツにセパレートされたコースはマイナスイオンが満ち溢れ、クラブハウスを出た瞬間から、心身ともに解放される環境なのです。
ここで腰椎・腰ヘルニアなどの手術を受けたゴルファーたちを、ゴルフを楽しめる状態へと回復させるプログラムを作成し、現場でサポートしてくれるのが杉本医師というわけです。
その杉本医師は、今回のゴルフ合宿立ち上げのきっかけを、こう明かしてくれました。
「アマチュアでもプロでも『ゴルフをやりたいんだけれども、腰が痛くてできない』と悩みを訴えてくる方が多いんです。そのうちに肩が痛くなってヒザも痛くなるんですね。負のスパイラルに入って、体が痛いから動かない。動かないから筋力も落ちる。『でもゴルフはやりたい』というジレンマを皆さん抱えていらっしゃる。そうした時、もちろん病院のリハビリとかトレーニングもいいんですけども、実戦で使えるのかどうかを確認するためにはゴルフを並行してやらなきゃいけない。病院がゴルフ場の中にあればいいですけど、そうもいかないので、やはりこういう合宿という形がベストということになります」
重篤な腰痛の原因となるのは大きく3つ
それにしても、腰痛に悩むゴルファーのなんと多いことか。杉本医師は、その原因についても解説してくれました。
「日常生活では歩いたり座ったりは普通にできても、ゴルフでは7番ホールで歩けなくなっちゃうケースもあるわけです。原因は3つあります。まずは『アクシデント』。ラグビーの選手がぶつかって怪我したりとかするイメージです」
「次は『オーバーユース』。要するにやりすぎです。ゴルフで言うと、練習のしすぎとかがオーバーユース。部位とか筋肉とか、あげくに骨を使いすぎてなっちゃう。プロの場合は『球数打ってない』って本人たちは言うんですけど、実は打ってるんですよね。感性のスポーツでもあるので、自分が納得するまで打ちたいところがあるし、良くなってきたらそれを維持したいから打つという感じです」
「アマチュアの場合は、朝の練習とかはウォーミングアップが多いですけれども、プロの場合は、その日の球筋とかを感じたりとか、自分の調整とかバロメーターにも使って打たないわけにいかない、というケースですね。からだのどこかが悲鳴を上げているという場合は、代償筋、すなわち代わりの筋肉を、どれだけうまく使えるかっていうのが、すごく大切なんです。でも病院のリハビリ施設とかトレーニングジムで直線的なトレーニングばかりやってると、ここの筋肉だったらこっちを使おうとか、そういうことができないんです。高見プロが『上半身ばかりで打っちゃっていた』とおっしゃっていました。代わりの筋肉を使っていければ、オーバーユースにならないわけですよ」
「『ミスユース』が3番目。小学生にゴルフクラブを渡しておけば、勝手に球遊びをします。何の知識もなく、体と自分の感性に基づいてやるから意外と怪我しないんですよ。でも、ある程度大人になってくると知恵がついてきますし、人のものを見てこうしたいなとか、いいなとか思ったり、最近はYouTubeのゴルフもすごくあるので無理な動きをするケースが多いんです」
「例えばシャローイング(通常よりクラブが寝た状態でインパクトするスイング。シャローは日本語で『浅い』という意味)とかって言葉が2、3年前から流行りましたけど、それで本当に大怪我してる人をたくさん見てきました。それがたまたまハマってる場合はいいし、普通に振ったらシャローイングになっているだけの話の人も多いんですよ。でもシャローイングを求めてやるのは間違っています。パワーが絶対的にある人ができることで、日本人の骨格と筋肉ではやろうと思ってもできるはずがないんですよ。ある大学のゴルフ部の学生なんかは骨盤骨折してきました。『先生、やっと球が右に行かなくなったのに、ここで折れちゃいました』って。『アメリカのPGAツアーのプロがやってるからやらなきゃ』みたいなスイッチが入ったりすると、そういうことになる。やっぱり自分で感じてやってもらう、というのが一番いい」
多くの事例の原因を見極めたうえで柔軟に対応し、一旦はあきらめたゴルフを再開してもらう。そのために全力でサポートする体制が整っているのが「IKIGAI GOLF Academy」の「PREMIUM MEDICAL SUPPORT」であるというわけです。第1回はゴルフ場に重点を置きました。第2回は、他の施設の充実したサポート体制についてものぞいてみましょう。
取材・文/小川朗
日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。
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