上田桃子が“最後の会見” 盛大なセレモニーに涙も「多分クラブを置くことはない。練習に行くと思う(笑)」

上田桃子(うえだ・ももこ)がツアーの一線から身を引く事実上最後の試合となった「大王製紙エリエールレディス」2日目。88位タイで予選落ちとなった上田に、盛大なセレモニーが行われた。

「一日一日を精一杯生きてきた」

◆国内女子プロゴルフ 第36戦

大王製紙エリエールレディス 11月14~17日 エリエールゴルフクラブ松山(愛媛県) 6575ヤード・パー71

「これが最後か…」。「大王製紙エリエールレディス」2日目、18番のグリーンに向かう上田桃子は少し感傷的になっていた。それでも最後はカップに入れることしか頭にない。気持ちのこもった最終18番の5メートルのバーディーパットはオーバーし、返しのパーパットも入らず苦笑い。それでも大勢のギャラリーと選手たちが見守る中、最後のパットを沈めると大きな拍手が会場に響き渡った。

金田久美子(左)も赤く目を腫らして上田桃子を見送る 写真:Getty Images

金田久美子(左)も赤く目を腫らして上田桃子を見送る 写真:Getty Images

 この日は、今季で第一線を退く上田の最後のラウンドとなった。今大会2日間を通算4オーバーの88位タイ。決勝ラウンドには進めなかったが、最後はグリーン上で歓声と拍手に笑顔で手を上げて応えた。クラブハウスに向かう道を後輩選手たちとギャラリーが拍手で出迎えた。

 ホールアウト後はクラブハウス前で盛大なセレモニーが行われた。ほとんどの選手たちが上田が上がってくるのを待った。上田のプレー写真がプリントされた特製Tシャツが用意され、選手たちはそれを着用。花束やプレゼントを手渡し、多くの選手が涙する姿を見て、上田も泣かずにはいられなかった。

「感謝の気持ちしかないです。(プロゴルファー)20年って聞いたら長いけれど、自分的には一日一日を精一杯生きてきました。ここに残っている後輩の選手や先輩プロもきついこともあると思いますけれど、プロゴルファーやってて良かったなと思う日が来ると思うので、みんなのこれからの活躍を応援しています。たくさん仲良くしてくれてありがとうございました」

 上田自身、最後にみんなに迎えられるこの光景をまったく想像していなかったという。

毎試合、帯同する母への気持ちを語り涙…

 メディアとの会見もこれが最後。上田は開口一番、「自分は(昨年日本ツアー引退した)ボミとはキャラも違うのに、これだけたくさんの選手が待ってくれていると思いもしなくて、正直ビックリしました。16番、17番からついてきてくれる後輩たちもいて、ただただビックリとうれしかった」と笑顔を見せた。

 それこそ20年もストイックにプロゴルファーを続けてきた証だ。後輩たちは上田のゴルフに対する取り組みや姿勢をよく見ている。「自分はお手本のようになるような選手ではない」と謙遜していたが、むしろお手本になる存在でしかない。

「自分のいい背中を見せるとか、そういう姿は自分では見せられないと思っていました。でも泣いている選手がいたり、最後まで残ってくれる選手がいて、少しは頑張ってきたところは見てくれていたのかな。そこは本当にうれしいです」

 そして毎試合、帯同してくれた母・八重子さんへも感謝の気持ちを語るときは涙が止まらなかった。

「きついことや大変なことがあっても弱音を吐かない母親。私が悩んでる姿とか解決できない問題とかいろんなことで見守るしかなかったと思います。自分のゴルフはこうなんだとか、そういう相談ばかりしていたので、そういう弱音をはかなくていいので、これからはもう少し楽しかった思い出を振り返ろうと思います」

 さらに20年間のプロゴルファー生活で誇れることは「精一杯、うまくなろう、強くなろうと考えていたこと」と言い切る。「試合には出ないけれど、どれだけでもうまくなれるスポーツ。自分の中ではゴルフが消えるわけじゃない」とゴルフに対するストイックさはツアーから離れたあとでも変わることはないだろう。

「女性として、社会人として生きることも新しいチャレンジ」

 現在の心境については「明日からゴルフのことを考えない時間がくるんだなというのが自分の中では非現実的というか、それがないんだなという寂しさはあります」。ただ、次のステップに進むことを決めたからには、それなりの覚悟がある。

「これからは何事も挑戦。どんなことでも自分の中では新しいチャレンジ。女性として生きることも、社会人として生きることが私にとってはゴルファーとして生きるよりも、もっと大きな世界でがんばっていかなくちゃいけないこと。今まで以上に大変なステップだと考えています」

 これで一旦はゴルフから離れる。明日からゴルフクラブを握らない考えがあるのか聞くと、思った通りの答えが返ってきた。

「練習したいと思う気持ちと、やっても意味ないしなという思う気持ちと両方あります。でも多分、クラブを置くことはないんだと思います。練習は行くと思います(笑)」

 うまくなりたい気持ちが今もあるのであれば、クラブを握らなくなることはないだろう。もしかしたら数年後にはツアー復帰のニュースが飛び込んでくるかもしれない。

“事実上の最後の試合”は思った通りのプレーができず、ほろ苦さもあった。それでもクラブハウスにたくさんの若い選手たちが上田に駆け寄り、最後まで別れを惜しむ光景こそが、彼女が女子ツアーに残した大きな遺産だ。

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