「自分がヘタに感じる」佐藤心結を初優勝へと導いた先輩らの金言 海外挑戦も視野「やっとスタートライン」

「スタンレーレディスホンダ」最終日は通算11アンダー首位で並びスタートした佐藤心結(さとう・みゆ)と河本結(かわもと・ゆい)、2打差で出た尾関彩美悠(おぜき・あみゆ)の最終組3人を中心にした大激戦が繰り広げられた。

一度優勝争いから脱落しかけたが……

◆国内女子プロゴルフ

スタンレーレディスホンダゴルフトーナメント 10月4~6日 東名カントリークラブ(静岡県) 6610ヤード・パー72

 あふれる涙に苦しかった時間がにじみ出す。佐藤心結が激戦を制してツアー初優勝を飾った。
 
 最終日は通算11アンダー首位で並びスタートした佐藤と河本結、2打差で出た尾関彩美悠の最終組3人を中心にした大激戦が繰り広げられた。

佐藤心結が悲願の初優勝を遂げた 写真:Getty Images

佐藤心結が悲願の初優勝を遂げた 写真:Getty Images

 今季7勝と絶好調の竹田麗央による4打差から首位に並ぶ猛追などもある中、佐藤は一度優勝争いから脱落しかけた。

 2番で3パットのボギーを叩き、その後はパーを重ねた。「(パー5の)8番でバーディーが来たらまだ行けると思ったけど獲れなくて、正直なところ厳しいと思いました」と吐露する。

 バックナインに入り、11番パー5で3メートルを沈めて「まだいける」と気力を取り戻したが、続く12番でチャンスをはずしてしまう。

 アマチュア時代の2021年、4人プレーオフの末、渋野日向子に敗れ号泣した大会だが「リベンジしたい気持ちでは臨んでないです。目の前に集中しようと思っていた」。その裏にはこれまでの苦しかった日々がある。

 シーズン終盤に差し掛かる中で、大会前のメルセデス・ランキングは84位。プロ入り後、22、23年と維持してきたシード獲得が危うい状況だった。「全部ネガティブになっちゃってました。自信がないんです。周りのプロがすごい上手く見える。自分がヘタに感じるんです。ポジティブ(な気持ちは)全く出てこない。『なんでこうなっちゃうんだろう?』ってクエスチョンマークだらけでした。自問自答しても何も解決にならなくて……」と、自分と向き合えば向き合うほど追い詰められていった。

 そんな中、8月「日本女子オープン最終予選」で一緒にプレーした米山みどりから、プレー後に技術的なアドバイスをもらってショットが上向きになったこと。先輩プロの葭葉ルミ工藤遥加から自信を持って楽しくプレーするように言われたこと。キャディーを務めたいつもポジティブな兄、俊貴さんから「シンプルに考えたほうがいい」と、再三言われたことなどが重なって、予選落ち続きの日々を脱出。長いトンネルから抜け出して7試合目が今大会だった。

 14番のバーディーの後で、15番でも連続バーディーを獲った時には、通算13アンダーで最終組の3人が首位に並んだ。「そこまでは緊張していたけど、すごく楽しくなってきた。ワクワクしました」と、気持ちが上向いた。

 パー3の16番では7Iのティーショットがグリーン奥にこぼれたが「エッジとラフの境目から6~7メートル」を58度のウェッジでチップイン。バーディーで抜け出した。

「17番獲れたら優勝が近づくなと思った矢先にセカンドショットをミス。しかし、タッチ合わせるのが精一杯でした」という10メートルがカップに吸い込まれて4連続バーディー。通算15アンダーまでスコアを伸ばした。

 初優勝がかかる最終ホールで強烈なプレッシャーが襲いかかる。「手も足もがくがくになっちゃって。緊張するとリズムが速くなってミスをするので、それだけは気を付けました」と、パーで切り抜けて河本、尾関に2打差をつけて初優勝をもぎ取った。

 勝利が決まった瞬間から涙が止まらなかった。グリーン上でキャディーと抱き合い、祝福を受けた後、グリーンサイドに応援に来てくれた、同期の竹田や川崎春花、ブリヂストン契約の先輩・桑木志帆の姿を見てまた涙。アマチュア時代から一緒にゴルフをし「お姉さん的存在」という高木優奈に祝福されさらに感極まった。

 涙の初優勝の後、笑顔で宣言したのは将来の海外挑戦だ。「やっと1勝できたからスタートラインです。日本で2勝、3勝して、最終的には海外に行きたい。今年(米ツアーの)最終予選会(QT)にエントリーしている人が多いのが刺激になってます」。

 もがいて苦しんで、やっと前を向き、目指すことができるようになった世界の舞台。悔し涙と自分自身と向き合った時間は、そこに向かうための大きな糧になるはずだ。

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