「天才」という表現に違和感… ゴルフにおける“天才少年・少女”の定義ってなんですか?

女子プロゴルフツアーに、13歳の須藤弥勒選手が出場したことが話題になりました。“天才少女”と呼ばれる須藤選手ですが、そもそも「天才の定義」とは何なのでしょうか?

「天才」という言葉は果たして適切なのか

 女子プロゴルフツアーに13歳の須藤弥勒選手が出場したことがきっかけで、「ゴルフにおける“天才少年”、“天才少女”とは一体何なのか」と、考えることがありました。

ゴルフを練習する少女 写真:PIXTA

ゴルフを練習する少女 写真:PIXTA

 アマチュアゴルファーの須藤弥勒選手が女子ツアーの出場条件である13歳以上の年齢制限をクリアし、「ニトリレディス」と「ゴルフ5レディス」に出場しました。結果は前者が初日13オーバー「85」、2日目6オーバー「78」、通算19オーバーの118位タイで予選落ち。後者が初日6オーバー「78」、2日目3オーバー「75」、通算9オーバーの100位タイでこちらも予選落ちでした。

 彼女がまだ13歳(2011年8月6日生まれ)であることを考慮すると、中学1年生がプロの試合に出場して70台のスコアで回るのは立派という見方もできます。しかし、今回の挑戦が彼女にとって成長の糧になるのか、苦い経験になるのか、判断がつきませんでした。

 須藤選手には常に“天才少女”という肩書がついてまわりますが、筆者はこれまで彼女が18ホールをプレーする姿を見たことがありませんでした。今回初めてDAZN(ダゾーン)のインターネット配信でプレーを見守りましたが、彼女が“天才少女”なのかどうかよく分からなかったのです。

 そもそも天才の定義とは何でしょうか。辞書で調べると「生まれつき備わっている、並外れて優れた才能」とあります。別の言い方をすると、「努力によって獲得した能力ではなく、努力では適わない能力が生まれつき備わっている人」です。

 彼女のスイングやプレーを見ても、それが「生まれつき備わっている」才能なのか、「努力によって獲得した」才能なのか区別がつかず、むしろ「これって努力によって獲得した才能じゃないのかな」とも感じました。

 過去に“天才少年”、“天才少女”と呼ばれた選手のプレーを見たときも同じ印象でした。「ゴルフを始めた年齢が早かったから、幼いころからいいスコアで回れるようになっただけで、果たして“天才”という呼び方が正しいのだろうか」と思わずにはいられなかったのです。

 日本女子ゴルフ界で最初に“天才少女”と呼ばれたのは宮里藍選手だったか、金田久美子選手だったか議論の余地はありますが、宮里選手が00年6月の「サントリーレディス」で樹立した史上最年少予選通過記録(当時)は14歳11カ月。金田選手が02年6月の「リゾートトラストレディス」で記録を塗り替えたのは12歳298日でしたから、“天才少女”という印象が強かったのは金田選手でした。

 しかしながら“天才少女”が天才のままプロになったかというと、そんなことはありません。金田選手は11年4月の「フジサンケイレディス」で初優勝を挙げてから22年10月の「樋口久子 三菱電機レディス」で2勝目を挙げるまで、10年以上の月日を要しました。

 日本男子ゴルフ界でも“天才少年”と呼ばれた選手が過去に何人もいましたが、天才のままプロになって活躍している選手はいません。

 それらを踏まえると、幼少期や小学生時代の成績がよかったからといって“天才少年”、“天才少女”と呼ぶのが適切なのかどうか、日本の大人たちは真面目に考えたほうがいいのではないでしょうか。

天才なのであれば、その才能を伸ばしてあげてほしい

 逆にいうと、彼女のことを“天才少女”と呼ぶ大人たちは、その才能を伸ばすために全力でサポートしてあげてほしいです。子どもの才能が伸びるかどうかは周囲の大人の適切な関わり方にかかっていますし、伸びた才能をさらに伸ばすには、自ら努力する能力が必要不可欠です。

 これまでにいろんなアマチュアゴルファーを見てきましたが、才能があると感じた選手が必ずしもプロの世界で活躍するわけではないです。プロテストに合格しただけで満足する選手を大勢見てきました。逆に才能があるとは感じていなかった選手が、努力を重ねて一流選手に上り詰めたケースもたくさん見てきました。

 最も強いのは、生まれつき備わっている才能を、努力によってさらに伸ばした選手です。それを成し遂げたのがタイガー・ウッズ選手(米国)であり、リディア・コ選手(ニュージーランド)なのかもしれません。

 日本の大人たちは“天才少年”、“天才少女”を本物の天才にするにはどうすればいいのか、テクニカルの専門家だけでなく、フィジカルやメンタルの専門家も交えて、真剣に議論してほしいです。

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