プロ野球の「新人王争い」は混沌。セ・パ両リーグとも投手が有力!!

開幕から5連勝を記録した西武のドラ1ルーキー・武内。チームの低迷とともに成績も厳しくなってきたが、終盤に踏ん張れるか


開幕から5連勝を記録した西武のドラ1ルーキー・武内。チームの低迷とともに成績も厳しくなってきたが、終盤に踏ん張れるか

プロ野球のペナントレースは残り1ヵ月となった。チーム順位や個人タイトルの行方と共に、注目したいのが新人王争いだ。セ・パ両リーグとも混沌としているが、言い換えれば「本命不在」ともいえる。

パ・リーグでは、西武の左腕・武内夏暉(なつき)が一歩リードしている感がある。昨年のドラフト会議で3球団が1位競合した前評判そのままに開幕ローテ入りを果たすと、デビュー戦となった4月3日のオリックス戦で7回1安打無失点と快投して初勝利を飾った。

その後も快進撃。味方打線の歴史的貧打もなんのそので、7月4日のソフトバンク戦まで開幕5連勝を果たし、この時点までの防御率は驚異の1.10をマークした。

パ・リーグ首位を独走するソフトバンクの小久保裕紀監督も「味方のミスやアンラッキーなヒットがあれば、普通はちょっと崩れるんですけど(崩れない)。ルーキーで断トツじゃないですか、今年の中では」と舌を巻くほど。

後半戦はやや失速も、7勝5敗(8月26日時点。以下同)の勝ち星を2桁まで伸ばせば堂々の受賞が見えてくるだろう。

対抗は日本ハムの右腕・金村尚真だ。今季は救援要員で開幕を迎え、10試合に登板して防御率0.63、6ホールドと結果を残し、5月に先発転向。10試合連続でクオリティスタート(先発で6回以上投げて自責点3以下)を記録する安定感を見せ、7月2日のロッテ戦からは引き分けを挟んで4連勝。8月20日のロッテ戦で今季6勝目を挙げた。

金村は今季2年目。新人王資格を整理すると、「海外のプロ野球リーグに参加した経験がなく、支配下選手に初めて登録されてから5年以内」「投手として前年までの1軍での登板イニング数が30回以内」「打者として前年までの1軍での打席数が60打席以内」の3点となっている。

金村は昨季25イニングしか投げていないため有資格者となっているが、プロ2年目と新人の違いを差し引いて評価される場合もある。

武内が所属する西武が低迷しているのに対して、金村の日本ハムは新庄剛志監督3年目で初のAクラス入りが現実味を帯びており、金村はその躍進に欠かせない戦力。新人王を決める投票資格を持つプロ野球記者も頭を悩ませそうだ。

また、パ・リーグでは同じ日本ハムの3年目右腕・福島 蓮、楽天のドラフト1位ルーキー・古謝 樹もシーズン途中から先発ローテに入り込んでいる。

そして、オリックスの古田島成龍はドラフト6位ルーキーながら、リリーフで40試合登板、20ホールドをクリア。加えて、防御率0.95と抜群の成績を残している。先発に比べて地味に映る役割だが、もっと評価されるべき働きを担っている。

続いてセ・リーグだが、こちらも投手陣の活躍が目立つ。やはり球界全体の〝投高打低〟の傾向は新人王争いにも影響しているようだ。現時点では、巨人の右腕ふたりが有力候補か。

まずは〝遅咲き〟の27歳、船迫大雅。8月18日のDeNA戦で今季40試合目の登板を果たし、この日はピンチを招きながらも無失点で18個目のホールドを記録した。

社会人・西濃運輸からドラフト5位で入団して2年目。昨季も36試合に登板して3勝1敗8ホールドをマークして実力を証明したが、投球回数が30イニングちょうどだったため、新人王の資格を今季に持ち越している。

プロ入団時に「ひとりでも多くの人に名前と顔を覚えてもらえるように頑張りますので、応援よろしくお願いします」と話し、読みが難解な「船迫大雅(ふなばさま・ひろまさ)」の知名度アップを目指していた。栄冠獲得で、その誓いにまた大きく前進するか。

もうひとりは、ドラフト1位ルーキーの西舘勇陽だ。中央大から入団すると、いきなり〝勝利の方程式〟の一角を担い、新人では史上初となるデビューから10試合連続ホールドを記録した。

その後は調子を落として6月末にファームに降格したものの、その間に新たな挑戦をして、1軍復帰マウンドとなった8月23日の中日戦でプロ初先発を飾った(5回4失点で黒星)。

年間を通した安定感では船迫が優位に思われる。ただ、史上初の記録を残したインパクトの強さでは西舘に軍配が上がるか。

また、6年ぶりのリーグ制覇を目指す広島がトップでゴールテープを切れば、黒原拓未の貢献度も評価されるだろう。21年にドラフト1位で入団した左腕は、過去2年は未勝利で、昨季は防御率10点台だった。

しかし今季、150キロ台の直球で強気に押す投球と、チェンジアップやスプリットで緩急をつけるスタイルがようやく開花した。

シーズン当初は先発も、新井貴浩監督ら首脳陣の中継ぎ転向案が大当たり。ホールドを記録する場面での登板は少ないものの、長く防御率1点台をキープする安定感でチームを支えている。

ところで、野手の名前がまったく挙がらないのも寂しいところ。開幕当初は、DeNAのドラフト1位ルーキー・度会隆輝が鮮烈な印象をファンに与えた。

1番打者で開幕スタメン出場を果たすと、第2打席で同点3ランを放ち「プロ初安打・初本塁打」を記録。翌日も2号2ランを放つなど4安打2打点の活躍で、セ・リーグ史上初となる「ルーキーの開幕戦から2試合連続本塁打」をマークした。

7月のオールスターゲームにもセ・リーグの「プラスワン投票」で選ばれるなどインパクトは大きいが、夏場に失速して8月以降は出番も激減。新人王受賞となると厳しい状況だ。

新人王レースが難航すれば「該当者なし」もある。最後の例は2000年のパ・リーグまでさかのぼるものの、それはあまりに寂しい。残りわずかのペナントレース。球界の未来を明るく照らす、若い彼らの熱いプレーにまだまだ期待したい。

取材・文/田尻耕太郎 写真/産経新聞社

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