スプリンターズS、ハイレベル必至な一戦でネガティブ要素ばかりの実力馬が妙に気になる

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――いよいよ秋のGIシリーズが幕を開けます。第1弾は「秋の短距離王決定戦」となるGIスプリンターズS(9月29日/中山・芝1200m)です。大西さんにとっても、思い入れの強いレースかと思います。

大西直宏(以下、大西)はい。スプリンターズSは僕が現役時代に勝利した最後の重賞ですから(2004年、カルストンライトオで勝利)、特別な思い入れがあります。騎手としてのキャリアのなかでも、特に印象に残っているレースです。おかげで、毎年このレースが開催されるたび、当時の緊張感や興奮がよみがえってきます。

――さて、近年のスプリント戦線は絶対的な存在がおらず、短距離GIは春、秋ともに波乱傾向にあります。その点について、どうご覧になっていますか。

大西 ここ数年のスプリント界は「大混戦」という言葉がぴったりです。トップレベルにある馬たちの実力が非常に拮抗しており、GIではトラックバイアスや展開、さらに枠順など、レース当日の条件が少しでもハマった馬が好走している印象が強いです。そのため、レースごとに勝ち馬が入れ替わる状況が続いています。

 また、春と秋のGIで馬場コンディションが極端に異なっていることも、この混戦状態に拍車をかけている要因と言えます。実際、春のGI高松宮記念(中京・芝1200m)が道悪傾向にあるのに対して、秋のスプリンターズSは高速決着となることが多く、春秋の結果があまり連動していません。

 真に強い馬なら、馬場を問わず結果を出せると思うのですが、現在のスプリント界にはそこまでの存在、「王者」と呼べるような存在は見当たりませんね。

――今年のメンバーを見ると、GIII CBC賞(8月18日/中京・芝1200m)以外の、年明けから夏にかけて行なわれた古馬の芝・短距離重賞(牝馬限定戦は除く)を制した馬がすべて出走。スプリント路線における現時点での、ほぼベストメンバーが顔をそろえました。そこに、香港から参戦する強豪も加わって、見応えのあるレースになりそうです。

大西 香港勢の参戦によって、レースが引き締まるというか、一段とレベルが上がりましたね。最近のスプリントGIでは、運や展開に恵まれて勝った馬が多いように感じますが、今年は真の実力馬が勝つ可能性が高いのではないか、と期待しています。このメンバーであれば、勝者となった馬が"スプリント王者"と評価されてもおかしくないでしょう。

――週末は雨予報も出ていますが、今の中山の芝は馬場状態もよく、真の王者を決めるには最適な舞台が整っているのではないでしょうか。

大西 多少の雨なら、現在の中山の馬場に大きな影響をもたらすことはないと思います。そうしたなか、今年はピューロマジック(牝3歳)や香港馬のビクターザウィナー(せん6歳)といった、屈指のダッシュ力を誇る馬が顔をそろえ、スローペースになることは考えにくいです。2012年にロードカナロアが記録した1分6秒7というレコードタイムを破るほどの、ハイレベルなレースになることを願っています。

――重賞2連勝を含めて目下3連勝中のサトノレーヴ(牡5歳)が人気を集めそうですが、同馬についてはどう見ていますか。

大西 堀宣行厩舎がじっくりと育て上げた馬で、競馬センスが非常にいいのが魅力ですね。スムーズに好位につけられるうえ、仕掛けてからの反応もよく、(馬群から)抜け出す瞬発力もあります。一線級との対戦は今回が初めてとなりますが、それ以外にはさしたる懸念材料は見当たりません。

 ダミアン・レーン騎手がこの馬のためにわざわざ来日するということからも、陣営の勝負への本気度がうかがえます。かなり有力な1頭と言えるでしょう。

――昨年の覇者であり、厩舎(池江泰寿厩舎)としても3連覇がかかっているママコチャ(牝5歳)も人気の一角です。

大西 前哨戦のGIIセントウルS(9月8日/中京・芝1200m)では余裕のある仕上げで、馬体重プラス10kgでの出走でしたが、勝ち馬から半馬身差の2着を確保。一度使われたことによって、本番ではさらに調子を上げてくるでしょう。

 鞍上も川田将雅騎手に戻りますから、上位争いには加わってきそうです。もし連覇を達成すれば、文句なしの"チャンピオン"として評価されるのではないでしょうか。

――他に注目している馬はいますか。

大西 ナムラクレア(牝5歳)を無視することはできません。


スプリンターズSでの巻き返しが期待されるナムラクレア photo by Eiichi Yamane/AFLO

 この2年間、スプリント戦線では常に中心的な存在でありながら、GIは未勝利。大一番では勝ちきれない印象が強くなっています。しかも今回は、前哨戦で振るわなかったうえ、主戦の浜中俊騎手が騎乗停止になって乗れない、という不運まで重なってしまいました。現状、ネガティブな要素ばかりです。

 しかし、この馬にはまだまだ期待が持てます。というのも、春、秋で異なるGIの馬場条件にも対応し、それぞれの舞台で常に上位争いを演じてきているからです。そこに、この馬のスプリント適性の高さが示されています。

 過去2年のスプリンターズS(2022年5着、2023年3着)でも、乗り方が違っていれば、もっと上位を狙えたのではないか、と感じています。前走のGIIIキーンランドC(8月25日/札幌・芝1200m)も5着に終わりましたが、スムーズに抜け出せず、内ラチに接触するシーンが見られました。前哨戦として割りきれば、巻き返しは可能でしょう。

 そして今回、鞍上を務めるのは横山武史騎手。彼は、中山・芝1200mでの経験が豊富で、実績もあります。現にここ5年間では、同条件で最も多くの勝利を挙げている騎手です。乗り替わりは、決してマイナスにはならないと思います。

 また、横山武騎手にとっては、一発勝負の"代打騎乗"。勝てなくても失うものはなく、思いきって勝ちにいく騎乗ができるはず。ナムラクレアのポテンシャルを100%引き出すことができれば、過去の着順を上回る結果を出せると踏んでいます。

 よって、今回のスプリンターズSでは、ナムラクレアを「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。

ジャンルで探す