スプリンターズSに参戦する香港馬2頭は買いか? ふたりの調教師の反応から見た本気度

 秋のGIシリーズ開幕戦となるGIスプリンターズS(9月29日/中山・芝1200m)に、今年は香港調教馬が2頭参戦する。ビクターザウィナー(せん6歳)とムゲン(せん6歳)だ。

 このレースに外国調教馬が参戦するのは、2018年に同じく香港から遠征してきたラッキーバブルズ(競走中止)以来、6年ぶり。勝てば、同じく香港調教馬のウルトラファンタジーが2010年に勝って以来、14年ぶりとなる。

 そして、今年参戦する2頭にも、そのチャンスは十分にある。なにしろ、今春のGI高松宮記念(3月24日/中京・芝1200m)で、今回も出走するビクターザウィナーが3着と奮闘。さらに、GI安田記念(6月2日/東京・芝1600m)ではロマンチックウォリアーが快勝するなど、ここ最近、日本の大舞台で香港調教馬が存在感を示しているからだ。


高松宮記念でも3着と好走したビクターザウィナー

 ビクターザウィナーは、"スプリント王国"香港のGI馬。高松宮記念でも3着となって、その実力を証明している。そもそも同レースでは、先着した2頭が最後の直線でインを選択したのに対して、同馬は馬場の真ん中に進路をとったことが明暗を分けた。"たられば"は禁物だが、ワンツーを決めた2頭と同じインを突いていれば、もう少し際どい勝負になっていたかもしれない。

 ムゲンは、GI勝ちこそないものの、2023-2024シーズンの戦績が9戦4勝、2着1回、3着3回、4着1回。非常に堅実な成績を残している。GI初挑戦となったチェアマンズスプリントプライズ(4月28日/シャティン・芝1200m)でも3着と好走。その後、前走のGIIIプレミアC(6月23日/シャティン・芝1400m)で重賞初勝利を飾るなど、勢いがある。

 さて、この2頭の本気度はどうなのか。

 ビクターザウィナーを管理するダニー・シャム調教師は、前出のロマンチックウォリアーも管理。また、アシスタント時代にもフェアリーキングプローンで安田記念(2000年)を制しており、日本での戦い方を熟知している。

 スプリンターズSには、2012年にリトルブリッジで挑戦。英国の王室主催競馬ロイヤルアスコットでのGIキングズスタンドS(現キングチャールズ3世S/アスコット・芝1000m)を勝って、勇躍日本にも乗り込んできたが、「輸送と検疫続きで、馬のコンディションが上がらなかった」とシャム師。精彩を欠いて、10着に敗れた。

 その苦い経験を糧として、以降、海外遠征においては一段と万全の態勢を期すことを心掛けるようになったシャム師。この春、管理馬を積極的に日本へ送り込んで好結果に結びつけたのも、その表われだろう。

 そうして、ビクターザウィナーを再び日本のスプリントGIに送り込んできた。同馬にとって、今回は夏休み明けのシーズン初戦となるが、同馬は過去2年とも、シーズン最初のレースで勝利を挙げている。

 そこで、シャム師に「(ビクターザウィナーは)使って状態が上がるタイプというより、休み明けのフレッシュな状態のほうが走るタイプか」と問うと、彼は「そのとおり」と頷いた。

 高松宮記念後の前2走は振るわなかったが、シャム師によれば「シーズン後半の疲れもあったし、前走は香港競馬のなかでは馬格があるほうではないのに、トップハンデの135ポンド(61.2kg)を背負わされたのが響いた」という。

 しかし今回は、過去2年と同様、バリアトライアル(実戦式調教)で1着入線を果たしての臨戦過程。加えて、日本でもお馴染みの"マジックマン"ジョアン・モレイラ騎手を鞍上に配してきた。陣営の勝負気配が伝わってくる。

 9月25日には、そのモレイラ騎手を背にして、中山の芝コースで軽快な追い切りを披露したビクターザウィナー。今の先行有利な中山の馬場も、逃げ・先行脚質のこの馬にとっては追い風だ。

 一方、レースに対する本気度は、ムゲンも負けていない。同馬を管理するピエール・ン調教師は7月の段階で、「秋は(日本の)スプリンターズSに行きたいんだ」と漏らしていた。


勢いがあり、一発の可能性を秘めるムゲン

 ン師は、開業3シーズン目。41歳の若き気鋭で、昨シーズンはシーズン最終日の最終レースまでリーディングの座を争っていた。彼もまたアシスタント時代に、2015年の高松宮記念をエアロヴェロシティで制覇。日本競馬のことはよく知っている。

 ただ今回、香港でGI勝ちのあるビクターザウィナーは国際レーティングの基準を満たしており、JRAから輸送費の補助があったが、ムゲンはそれを満たしておらず、「(JRAからの金銭的な)補助があれば、うれしいんだけどね」と話していたン師の希望は叶わず、完全に自己負担での日本遠征となった。それも、帯同馬も伴って、である。

「開業初年度にドバイに遠征をした際も、出走する2頭での遠征でした。万全を期すためには、帯同馬の存在は大きいです。また、ふだんのムゲンはレース後、毎回従化トレセン(中国・広東省)で調整しますが、従化から香港、香港から日本と、輸送の回数によるリスクを増やしたくなかったので、今回は6月のレース後もシャティン競馬場に残って調整してきました」

 そう語るン調教師は、シャム調教師にもヒケを取らない入念さ。しかも先述のとおり、遠征費用は"自腹"のうえ、遠征の間には2頭分の厩舎スタッフが香港を留守にすることとなる。それだけ、このレースにかけている、ということだ。

 近年はマイル、中距離戦線での活躍も目立つ香港馬だが、今なお"スプリント王国"の名は揺らいでいない。日本馬も好メンバーがそろった今年のスプリンターズSだが、ハイレベルな舞台で揉まれてきた2頭の"刺客"からも目が離せない。

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