有村智恵がラウンドリポーターとして見たセントアンドリュースでの全英女子オープン 印象に残った選手は?
先日行われたAIG女子オープン2024(全英女子オープン)で、ラウンドリポーターとして現地の熱狂を伝えた有村プロ。過去に、今大会と同じく聖地「セントアンドリュース オールドコース」で開催された全英女子に出場経験のある有村プロに、優勝したリディア・コ選手や、同行した日本人選手について話を聞いた。
※第7 回「有村智恵プロのレッスン『グリップの握り方』篇」はスポルティーバのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。
全英女子オープンで7位タイに入った西郷真央 photo by GettyImages
――先日行なわれた全英女子オープンでは、現地からのラウンドリポーターとして活躍されていました。
ハードスケジュールでしたけど、楽しかったです。
スケジュールとしては、飛行機から降りてそのままコース(セントアンドリュース)入りでした。今回は、出場している日本人選手も多かったので、コースチェックをしていると、日本人選手が必ずどこかのホールを回っていて、そこで会話して、何ホールか(練習ラウンドを)見させてもらって、を繰り返していました。
練習日の最後に、岩井明愛ちゃん・千怜ちゃん姉妹について18番ホールまで回ったんですけど、彼女たちがホールアウトして、コースを出たのが21時ぐらいだったと思うのですが、それでもまだ回っている選手もいて。鈴木愛ちゃんや川﨑春花ちゃんは、21時すぎまで回っていたんじゃないでしょうか。
――選手としてはではなく、今回はラウンドリポーターとして参加されていましたが、やはり心境は違いました?
最高の立場だったな、と思います(笑)。選手として出場する全英女子オープンは、すごくキツいんです。強風が、ショットだけではなく、パッティングやショートゲームにも影響するので、いいショットを打ったとしても、すごいところまでボールが跳ねて転がってしまって、気持ちが折れる。そして、気持ちが折れた瞬間にスコアも大崩れしてしまうので、本当にタフなんです。
(コースの)ロープ内にいながらも、精神的なタフさを感じなくていいポジションで見させてもらえるのは、一番いい立場だなと思いながらリポートしていました。
――日本人選手も史上最多の19人が出場しました。現場の雰囲気はいかがでした?
今回、日本からの出場選手が19人いて、それぞれみんな2、3人のスタッフを連れてきているので、単純計算しても100人近い日本人がコース内にいることになります。メディアの方も含めると、必ずどこかに知っている顔がいる、という状況でしたね。
長年、(イ・)ボミのキャディをされていた清水(重憲)さんから聞いた話ですが、アメリカツアーには韓国人の選手が多いので、海外の試合なのに、ボミは「ホーム感がある」と言っていたらしいんです。日本人選手や日本人がこれだけ多くなってくると、その当時の韓国勢(の感覚)に近い状況になっているんでしょうね。
【パリ五輪に続き、主要大会で優勝したリディア・コのキャリア】
――優勝したリディア・コ選手とは、有村さんも親交があると思いますが、どのような選手でしょうか?
昔から努力家でしたね。リディアがアマチュアの選手としてツアーに出てきた時、彼女はまだ15、16歳で、当時は親御さんと一緒にツアーを回っていました。とにかく昔からよく練習していて、ずっとゴルフ場にいる選手でしたね。私たちからすると、年も離れている分、こんなに若い頃からゴルフづけの毎日で身体は大丈夫なのかなって、勝手に心配していたくらいでした。
ブランクもありましたし、いろいろな壁や辛い時期もあったと思います。それでも、それを乗り越えて、結婚もして、プライベートも充実させたうえでのこのキャリアです。友人として、心からうれしく思います。
彼女は、本当に人柄もすばらしくて、みんなから愛されている選手ですから。あれだけ若い時から一生懸命やっていた選手が、こういうゴルフ人生を歩めるっていうのは、すごく素敵なストーリーですよね。
(リディア・コが優勝した)パリオリンピックでは、リディアが途中までしっかりリードできていた展開でしたが、今回は、大会後半に差し掛かったところでは、(世界ランキング1位の)ネリー(・コルダ)が勝つんじゃないかって、みんなそういう雰囲気を感じ始めていましたよね。
3日目にはそのネリーがスコアを落とすなか、ディフェンディング・チャンピオンのリリア(・ヴ)も上がってきた。これはリリアもあるぞって思っていたら、最終日の18番ホールで、リリアは難しいアプローチを強いられてのボギー。結局、リディアが抜け出しました。天にも味方された感じがありましたね。
――会場となったセントアンドリュースは、強風や気温差、変わりやすい天気で有名ですが、現地の気候はいかがでした?
コースの特徴としては、クラブハウスからスタートして(ハーフの折り返しで)戻ってくる、行って戻ってくるコースで、折り返し付近の8番ホールから12番ホールぐらいまでは、ちょうど海沿いなんですね。風は基本的にずっと強いのですが、その辺りで特に風が強くなって、立っていられないぐらいの強風でした。そこが、みんな苦戦したポイントだったなと思います。
1番ホールや18番ホールのクラブハウス付近は、比較的風も穏やかなんですが、スタートからホールを重ねるごとに風が強くなっていくので、風向きが変わらなくても、強弱の計算が合わなくなってくるんです。
【7位タイと健闘の西郷真央は一番いいショットを打っていた】
――日本人選手のプレーをご覧になって、印象に残っている選手はいますか?
決勝ラウンドの2日間は、(7位タイと健闘した)西郷真央選手につかせていただいたのですが、おそらく彼女のなかでは、悔しさのほうが勝っていると思うんです。私が見ていた2日間、あの風のなかで、彼女がミスをしたのは3、4回しかありませんでしたから。
ティーショット、セカンドショット、ロング(ホール)のサードショットも含めると、1日で40回ぐらいはショットを打っているはずなんですけど、最終日にはミスと言えるのは2ショットだけでしたね。2番ホールのティーショットと16番ホールのセカンドショット。あとは本当に完璧でした。
完璧なショットを打ったとしても、いいところにつかないし、変なところに行ってしまうコースなので、精神的に結構きついんです。自分を疑うし、風を疑うし、わからなくなる。そんななか、いいショットを打ち続けていた姿を見て、改めて彼女の技術の高さと精神力の強さを実感させられました。
あの風のなか、距離感も合わせられていましたし、距離感が多少前後しても、方向がブレたショットもほとんどありませんでした。うまくボールにコンタクトするだけじゃなく、風に対しても負けない強い球を打っていかないと、とてもじゃないけどあの風のなかでコントロールはできません。ショットだけで見たら、彼女が一番いいショットを打っていたんじゃないかなって思いながら見ていましたね。
――西郷選手の正確性と、そしてパワーも活きた。
たとえば、セントアンドリュースの14番ホール(577ヤードのロングホール)は、女子選手だとかなりパワーある選手じゃないと(2打でグリーンに)乗らないんです。3日目に、彼女がラフから2打目を打ったシーンがありましたけど、ラフはラフでも、フェアウェーから左に落ちていったラフで、グリーンを狙うには高さも出さなければいけない状況でした。
ラインもちょっとつま先上がりだったと思います。日本のラフみたいにちょっとボールが浮いていてくれることもなく、少し粘り気があるラフだったので、球の高さを上げられるかなって、心配しながら見ていたんです。
すると、高さも出たすごくいい球で、グリーンまで運びましたよね。ピンまで270ヤード前後はあったと思うのですが、キャリーで220ヤードくらい打ってから転がっていって。あの位置からよくここまで打ってこられたな、というパワーと正確性が兼ね備えられたショットでしたね。
【インコースに潜むドローヒッターにとっての罠】
――2日目には、同じくアメリカツアーを主戦場とする古江彩佳選手にも同行されていました。
2日目後半のインコースでミスが続いたタイミングがあって、正直、「彩佳ちゃんにもこういうことが起きるんだ」って、ちょっと安心してしまったところもあったんです。
その後、彼女に話を聞いたら、右からの風に少し苦手意識があるみたいで。
確かに、インコースで右からの風が強いと、彩佳ちゃんみたいなドローヒッターは、ティーショットでOBゾーンの上を打っていかなければならないコースが多いんです。それで、(同じくドローヒッターの)ネリーがああやって(3日目の16番ホールで)OBを打ってしまうようなドラマも起きたのかもしれません。
私は(フェードヒッターなので)OBゾーンを超えて打つという発想はありませんでしたが、彩佳ちゃんにとってタフな状況を経ての18番ホールで、このバーディーパットを沈めたら予選通過濃厚、というパットを決めきるところはさすがでした。2メートルから3メートルは残っていた下りのラインなので、簡単ではありませんでしたよね。
――今後、海外の大会で活躍する日本人選手はますます増えていきそうですね。
絶対に増えてくると思います。もちろん、今年は海外メジャーで(笹生優花選手・古江彩佳選手の)2人勝っているっていうのもありますけど、毎回のようにトップ10に日本人選手が入ってくるようになりました。そうやって優勝争いやトップ10に入る選手が増えれば増えるほど、他の選手もみんな「自分もできる」という自信を持てますよね。
私も、海外メジャーに出られるだけでうれしいって思っていた時期もありました。当時は(JLPGAのランキングは現行の)ポイント制(※)じゃありませんでしたから、出場しても(日本の賞金ランキングに)賞金も加算されないので、イチかバチかじゃないですけど、うまくハマればいいな、くらいの気持ちで出場していました。
でも、今は海外メジャーのポイントも国内のランキングに反映されるので、みんなが海外メジャーに勝ちにいく、結果を残しにいく時代になりましたよね。そこでまたいい循環が起こって、(日本人選手同士で)高め合えているのかな、と思います。
※JLPGAは、2022年より翌年のツアー出場権を争うランキングをメルセデス・ポイントによる「メルセデス・ランキング」に一本化。海外メジャーもポイント加算対象となり、かつ国内の公式戦のポイントよりも配分が高いため、日本人選手の海外メジャー挑戦のあと押しとなっている。
次回は10月1日(火)に更新予定
【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院中2年時に日本ジュニア12~14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。2016年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。
09/24 18:05
Sportiva