【女子ゴルフ2年連続年間女王】山下美夢有、パリ五輪代表までの逆転劇 ライバルが続々「米国進出」するなか日本ツアーにこだわる理由

パリ五輪代表の最後の切符を手にした山下美夢有(時事通信フォト)

 開幕まで1か月を切ったパリ五輪。女子ゴルフも「2枠」を巡り、熾烈な代表争いが繰り広げられた。大逆転で最後の切符を手にしたのは、2年連続「年間女王」の山下美夢有(22)。その軌跡は平坦ではなかった。

【写真】藤野キャディと抱き合う山下美夢有

 6月23日、米ワシントン州でメジャー「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」の最終日が行なわれた。最終組、18番ホールのグリーン上には山下の姿が。この時点で暫定4位タイ。約2メートル強のバーディーパットを決めるとホッと笑みが漏れた。

 堂々2位タイでフィニッシュし、ホールアウトを待つ渋野日向子(25)とハグ。この瞬間、パリ五輪「最後の1枠」は大逆転で山下に決まった──。

 パリ五輪の代表争いは上位勢のポイントが肉迫、混戦を極めた。6月に入って笹生優花(23)が「全米女子オープン」を3年ぶりに制して大きくポイントを積み上げ、いち早く「当確」に。

 東京五輪は母親の母国・フィリピンの代表選手として出場した笹生が22歳で日本国籍を選択。それによって、代表争いはより一層、激戦の構図となっていたわけだが、残る枠があと1つとなり、ランキングでは畑岡奈紗(25)、古江彩佳(24)、山下の順で競うかたちとなった。

「山下は僅差の3番手でしたが、代表にいちばん近かった畑岡に“事件”が起きた。全米女子オープンの翌週の米ツアーで、日本人トップにつけていた畑岡が第2ラウンド開始前に失格処分になってしまったのです。茂みに入ったボールを探す時間が規定オーバーだったということですが、これが痛恨だった」(ゴルフ誌記者)

 畑岡は翌週の欠場を決めていた。結果、代表選考最終戦の「全米女子プロ」を前に世界ランクで古江(20位)、畑岡(21位)、山下(22位)が並ぶ大激戦に。ここでさらなる波乱が起きる。

「代表圏外と思われていた渋野日向子が2日目まで4位でターン。条件付きですが優勝すれば逆転代表もある状況になった一方、畑岡がまさかの予選落ち。この段階で候補は3人に絞られた。最後は山下が2位、渋野が7位、古江は19位で山下の大逆転となりました」(同前)

未経験者だった父がコーチ

 代表争いで山下は“不利”だと言われてきた。LPGA関係者が言う。

「選考基準のポイントは日米どちらの試合も対象ですが、米ツアーは日本に比べてポイントが高い。今回、山下がメジャー2位で獲得したポイントは日本ツアーでは2.5回分の優勝に相当します。メジャー以外すべて日本で稼いでの代表選出は安定して活躍している証拠です」

 山下は身長150cmで、日本ツアーのシード選手のなかで最も小柄。それでも2022年、2023年と2年連続で年間女王に輝いた要因は「ショットメーカー」と呼ばれる精密なショットにある。

 プロゴルファーの沼沢聖一氏が言う。

「今大会はフェアウェイが狭い山間コースでしたが、山下はフェアウェイキープ率が84%。優勝したエイミー・ヤン(34)が61%ですから圧倒的な安定感です。この強みがあるから国内ツアーでドライビングディスタンス52位(236.54ヤード)でも優勝争いができた。

 スイングが綺麗で、球も曲がらない。おまけにパットもアプローチもうまい。何より緊張する最終日最終組を楽しんで、自分のゴルフができたことが素晴らしい。スポット参戦で戸惑うのは芝の違いだが、正確なショットと小技があれば十分戦えることを示しました」

 渋野や畑岡のように米ツアーを主戦場とする選手が増えたが、山下はメジャーだけのスポット参戦だ。その理由は何か。

「山下は“メジャーで優勝したい”“パリ五輪で優勝したい”とは語っているが、米女子ツアーに挑戦するとは言わない。理由は“家族との絆”だと言われています。

 コーチの父(勝臣さん)、母(有貴さん)、弟(勝将さん)、妹(蘭さん)との時間を大切にしており、あくまで日本ツアーを戦いながら米メジャー制覇を目指すようです」(前出・ゴルフ誌記者)

 大阪・寝屋川で生まれた山下が初めてクラブを握ったのは5歳の頃。ゴルフ未経験だった父・勝臣さんと一緒に始め、それからは勝臣さんがアドバイスしながら、プロへの道を駆け上がってきた。

「もちろん山下のほうが早く上達しましたが(笑)、今も絶大な信頼を寄せており、ミスが続いた時は勝臣さんと練習場へ行ってアドバイスを受けているのだそうです。

 弟や妹との仲もよく、ゴルフを教えることもある。弟の勝将さんもプロゴルファーを目指して近畿大学のゴルフ部に所属。2022年にツアー史上7人目のアマチュア優勝も果たした有望株です。妹の蘭さんも高校のゴルフ部に入り山下のキャディを務めたこともある」(同前)

 美夢有という名前にはこんな背景がある。

「『美夢』の予定だったが、母の名前から1字取りたくて変わったそうです。ただ、病院では『外国語みたいやな』と言われたとか(笑)。『大阪人でせっかちなところがあるので、それがプレーに出ないように注意している』と話すなどお茶目で記者からの人気も高い。大阪のノリでパリでも頑張ってほしい」(同前)

 金メダル獲得という大きな夢を叶えられるか。

※週刊ポスト2024年7月12日号

ジャンルで探す