「ボクが横綱になって恩返しする」孫・琴桜が目指す亡き先代墓前の土俵入り…元大関・琴風語る秘話

祝勝会場で鯛を持ち上げる琴桜(中、右は佐渡ヶ嶽親方、左は母でおかみの真千子さん)(カメラ・豊田 秀一)

◆大相撲九州場所 千秋楽(24日・福岡国際センター)

 大関・琴桜が14勝1敗で初優勝を果たした。21年ぶりとなった大関同士による千秋楽相星決戦で、豊昇龍をはたき込んだ。大関5場所目、27歳での初賜杯は祖父で先代師匠の元横綱・琴桜と同じ。来年初場所(1月12日初日、東京・両国国技館)では初の綱取りに挑む。2度目の優勝を逃した豊昇龍も13勝2敗の好成績で、日本相撲協会の高田川審判部長(元関脇・安芸乃島)は来場所、“ダブル綱取り”となる見解を示した。

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 元尾車親方の琴風浩一さん(元大関、スポーツ報知評論家)は先代の佐渡ケ嶽親方(元横綱・琴桜)の一番弟子だった。初優勝に心を震わせ、来場所が佐渡ケ嶽部屋にとって悲願の綱取り場所となることに興奮を隠せなかった。

 NHKの解説室。琴桜の雄姿に声が震えてしまった。どんなコメントをしたのか覚えていない。解説者としては失格かもしれないが許してほしい。先代は琴桜を本当にかわいがっていた。土俵に根を張るには、足の親指を強化するしかないと子供の頃から真冬でも素足で雪駄(せった)を履かせていた。「あの格好で学校に行こうとするんだよ」と、うれしそうに話していた。

 佐渡ケ嶽親方(元関脇・琴ノ若)がまだ現役の頃、ふがいない相撲で負けて帰ってきた時、先代に烈火のごとく怒られた。先代の脇にいたまだ子供の琴桜は泣きながら「おじいちゃん、お父さんを許してやって。その代わりボクが横綱になって恩返しするから」と言って、先代の着物の裾を引っ張ったという。

 今月26日は先代の誕生日。その墓前に優勝の報告をしたいところだが、ゴールはそこではない。千葉・松戸霊苑に眠る先代のお墓の前には少しのスペースが設けられている。これは佐渡ケ嶽部屋の力士が横綱になった時に土俵入りするためにつくったスペースなのである。これまで私を含め琴欧洲、琴光喜、琴奨菊らの大関が綱を目指したが、いずれも夢破れた。最初の土俵入りがあれほどかわいがっていた琴桜だったら、天国から嗚咽(おえつ)が聞こえてきそうだ。私も号泣してしまうだろう。

 それには精神面のさらなる強化が必要だ。これまで後半に何番か力が抜ける場面があった。集中力の欠如はポカにつながる。横綱を目指すならそぎ落とさなければならない欠点だ。時間前の最後の塩で見せる鬼の形相。最初は赤ちゃん体形で、ベビーフェースの琴桜が無理しているようで思わず笑ってしまった。それが今場所はさまになってきた。来場所は勝負の15日間。琴桜よ、鬼になれ。(元大関・琴風、スポーツ報知評論家)

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