なぜ50代以降の女性で<口臭リスク>が一気に高まるのか?実は「更年期」や「あの装置」が影響していて…原因とセルフケアを歯科医師が解説!

(写真提供:Photo AC)
記録的な暑さが続いている今年の夏。一方でコロナなどの感染者数が増加、といった報道を前に、マスクの扱いを今一度考えなおしている方も多いのかも。マスクや口周りについて考えたとき、切っても切り離せない関係にあるのが「口臭」です。医療法人社団アスクラピア統括院長の永田浩司先生によると、「特に50代以降の女性は口臭の<原因>が増えやすい」そう。その理由と対策について教えていただきました。

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「生理的口臭」と「病的な口臭」

そもそも口臭には大きく分けて2つあります。それが「生理的な口臭」と「病的な口臭」です。

「生理的な口臭」は起床直後や空腹時、緊張している時に起こりやすく、唾液の分泌量が減り、口の中の細菌が増えやすくなることが原因です。これは誰にでも起こる口臭なので気にする必要はありません。

一方、「病的な口臭」は、<全身の病気>が原因のケースと<口腔内>に原因があるケースに分けられます。

ここで言う<全身の病気>としては、鼻やのどの病気、呼吸器系や消化器系の病気、糖尿病、肝臓疾患などが該当します。一方で<口腔内>としては、唾液の減少による口腔内の乾燥、入れ歯の清掃不足、舌苔、歯周病、虫歯などがあります。

この場合、病気が完治したり、口腔内のトラブルを解決したりしない限り、口臭がなくなることはありません。

口臭が「ない」ことを証明するのはなかなか難しい

口臭は、口の中の「VSC」(揮発性硫黄化合物)というガスを起因として生じます。

この原因物質の1つであるメチルメルカプタンは「腐った卵」と表現されるような強烈なニオイで、歯周病による口臭がこれに該当します。

因みに歯科医であれば、口臭によって、その原因を虫歯やプラーク、入れ歯などと判断できるのですが、患者さん自身が見分けるのは難しいでしょう。ですので、口臭が気になったら、まずは歯医者さんを受診するのがオススメです。

まれに「生理的な口臭」にも「病的な口臭」にも当てはまらない患者さんがいます。

それが、自分には口臭があると思い込んでしまう「心理的口臭」です。

家族やパートナーに口臭を指摘されたのをキッカケとして受診するケースも多いのですが、実際に診察すれば、ニオイもなく、原因も見当たらない。

その場合、たいていは起床後や緊張していた時に生じる「生理的な口臭」だったのでは、と説明することになりますが、口臭が「ない」ことを証明するのはなかなか難しい。説明しても、患者さんに納得していただけないことがしばしばあります。

50代以降の口の中で起きること

50代以降になると、「病的な口臭」の原因となる<口腔内>のトラブルが自然と多くなります。

その原因の一つが唾液の減少で、いわゆる「ドライマウス」です。

唾液が減ると、口の中の食べ物の残りカスなどを洗い流す自浄作用が働かなくなってしまうため、口臭だけでなく、虫歯、歯周病のリスクも高まります。そして女性ホルモンが急激に減少する更年期は、まさに唾液が減りやすい時期なのです。

更年期障害などの影響で生活のリズムが変わったり、ストレスがたまったりすると、<交感神経優位>の状態が続きます。そして唾液は<交感神経優位>の状態になると減少してしまいます。それが、結果的に口臭を引き起こすことに繋がるのです。

実際にこの時期、ドライマウスによる口臭に悩む人は少なくありません。

また、女性ホルモンの減少は口腔内の免疫も低下させます。すると細菌の活動がより活発になり、口臭の原因となる物質が分泌されやすくなるのです。それによって、また虫歯や歯周病にもなりやすくなり、口臭のリスクが高くなります。

さらに50代以降の人の多くが虫歯をはじめとした、さまざまな歯科治療を経験しています。そのため、過去に治療した詰め物などの人工物が、歯との境界でトラブルが起こしやすく、それが口臭の原因になることも。

「入れ歯」で口臭のリスクが高まる

口臭対策という意味で、特に50代以降が注意したいのが「入れ歯」です。

たとえば、歳を重ねるごとに歯周病などで歯の本数が減り始めていくため、50代以降では<部分入れ歯>を導入する人が増えていきます。

その中でも保険診療による<部分入れ歯>とは、歯を失った部分に人工の歯と歯茎を入れ、両隣の残っている歯にバネなどを引っ掛けて使う装置のことを指します。

繋ぎ目や細かいパーツが多いため、<総入れ歯>より、実は清掃や管理が大変。またセラミックや金属は汚れがつきにくいのに対し、保険治療による<部分入れ歯>に使われるプラスチックには汚れもつきやすい。

そうした部分入れ歯の手入れには、ブラシなどを使う「機械的な清掃」、薬品を使う「化学的な清掃」の両方が必要です。

口をゆすぐだけでは、汚れを落とす効果がほとんどありません。そのため、機械的な清掃として、食事をするたびに外して洗うのが必須となります。

こうした手入れがきちんとできていないと、入れ歯にカビが生えたり、カンジタ菌が増殖してしまったりして、口臭がひどくなることがあります。また、もし合わない部分入れ歯を使い続けてしまえば、隙間に食べ物の残りカスが入りやすくなり、これも口臭や虫歯、歯周病の原因に。そのほか、入れ歯が動かないようにする安定剤のせいで、汚れが付きやすくなることも…。

唾液の自浄作用も、入れ歯に対しては機能しないため、入れ歯の導入によって虫歯や歯周病のリスクは、2倍以上になるともいわれています。

口臭予防の観点からも、「入れ歯」導入後は正しいケアがちゃんとできているか、定期的に歯医者さんで診てもらうようにしましょう。

口臭予防のためのセルフケア

最後に口臭予防のためにできるセルフケアをご紹介したいと思います。

まずは、唾液の分泌に影響する<耳下腺のマッサージ>。

これは、指を3本ずつ、両耳の下(上の奥歯あたり)あたりに当て、ゆっくりとまわして耳下腺を刺激する、というものです。

口臭予防につながる唾液は、3つの唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)から分泌されます。そしてこのマッサージによって、口臭予防に効果的な<サラサラ唾液>とよばれる「漿液性唾液(漿液性唾液)」が分泌されやすくなります。

また<舌のケア>も口臭予防になります。

舌の表面の白い汚れを「舌苔」といいますが、口臭の6~8割はこの汚れを起因として発生している、ともいわれるほど。

年齢を重ねると舌苔を押し出す力が弱くなり、舌に残りやすくなります。気にしすぎる必要はありませんが、市販の舌ブラシなどでたまにケアをする習慣をつけるのがよいかもしれません。

特にタバコを吸う人は、舌の表面にある舌乳頭が深くなりやすく、舌苔がつきやすくなるといわれているので要注意。

舌の力が低下すると口の中の汚れを排除する力が弱くなるため、口臭だけではなく、咀嚼力にも影響してしまいます。

普段から意識をして舌を動かしたり、「タカラパ、タカラパ」と唱えるなどして<舌力>も鍛えておくこともオススメです。

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