「どうせ自分には」という思い込みが、できるはずのことまで本当にできなくしてしまい…を崩すには?

(写真提供:写真AC)
「メタ認知」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「メタ」とは「高次の」という意味で、つまり認知(記憶、学習、思考など)を、高い視点からさらに認知することを指します。三宮真智子大阪大学・鳴門教育大学名誉教授によれば「メタ認知は自分の頭の中にいて、冷静で客観的な判断をしてくれる<もうひとりの自分>。活用次第で頭の使い方がグッとよくなる」だそう。先生の著書『メタ認知』をもとにした本連載で、あなたの脳のパフォーマンスを最大限に発揮させる方法を伝授します!

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【書影】三宮先生が「頭」をよりよくする方法を伝授!『メタ認知』

いつも諦めの気持ちが先に立つ中学生の話

ある成績のよくない中学生がいました。

彼は英語も苦手で、簡単な英単語も積極的に覚えようとしません。自分はどうせ勉強ができないのだという諦めの気持ちが、いつも先に立つのです。補習塾に通っていたのですが、やる気も今ひとつという状態で、なかなか成果が上がりません。

ある時、塾の講師が、彼にも答えられそうな問題を出しました。

「『始める』は英語で何て言う?」

中学生は、間髪を入れずに答えます。

「わかりません」

講師は、さらに易しい問題を出します。

「それじゃ、『飲む』は英語で?」

再び、中学生からは、同じ答が返ってきます。

「わかりません」

質問の仕方を変えてみた

うーん、わからないはずはないのにな……と困惑する講師。

そこで、質問の仕方を変えてみました。

「陸上競技で、選手が最初に並ぶ線は何ライン?」

「……スタートライン? あ、そうか。『始める』はスタートかな」

「飲食店で、メニューに書いてある飲み物は、ソフト何?」

「……ソフトドリンク。あ、だから『飲む』はドリンクか!」

このように、その中学生は、わかるはずのことを最初から諦めていて、考えようとしなかったのです。でも、講師の巧みな誘導によって、自ら考え、答えることができました。

メンタルブロック

熱心な塾講師から聞いた、このエピソードは、私たちに重要なことを気づかせてくれます。

それは、「どうせ自分にはできない」「どうせわからないに決まっている」という思い込みが、できるはずのことをできなくさせ、わかるはずのことをわからなくさせてしまうということです。

これを、メンタルブロックと呼びます。

「自分には無理」と決めつけることによって、それ以上試みることをやめてしまうのです。

メンタルブロックは癖になる

「どうせできない、考えても無駄」というメンタルブロックを崩すには、「よく考えるとわかった!」「諦めなければ、できるようになった!」という体験によって自信をつけることが役立ちます。

小さな成功体験が小さな自信を与えてくれ、これが積み重なることで大きな自信となります。そして、「がんばれば、自分にもできるのだ」という自己効力感を持つことができます。自分についての否定的な固定観念に縛られないことが、頭の働きをよくしてくれます。

このように、メタ認知を働かせてメンタルブロックを崩そうとする姿勢が必要です。

メンタルブロックは、どうやら癖になるようですから、「できない」という呪縛からは、できる限り早く逃れた方がよいでしょう。

成功体験を積み重ねることで大きな自信につながり、メンタルブロックを崩すことができる(写真提供:写真AC)

※本稿は、『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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