成績がよくない子が学習するときに共通して見られた<ある傾向>とは…「わけのわからないものを無理やり覚える」のはやっぱり効率が悪い

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「メタ認知」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「メタ」とは「高次の」という意味で、つまり認知(記憶、学習、思考など)を、高い視点からさらに認知することを指します。三宮真智子大阪大学・鳴門教育大学名誉教授によれば「メタ認知は自分の頭の中にいて、冷静で客観的な判断をしてくれる<もうひとりの自分>。活用次第で頭の使い方がグッとよくなる」だそう。先生の著書『メタ認知』をもとにした本連載で、あなたの脳のパフォーマンスを最大限に発揮させる方法を伝授します!

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【書影】三宮先生が「頭」をよりよくする方法を伝授!『メタ認知』

私たち大人に「丸暗記」は難しい

何かを覚える際に、意味もわからず丸暗記がいくらでもできてしまうのは、子ども時代の特権です。

しかし残念なことに、この特権が使えるのは、せいぜい思春期の頃まででしょうか。少なくとも、私たち大人には、丸暗記は大変難しいことです。

もちろん子どもであっても、意味がわかって覚える方が、断然有利になります。意味がよく理解でき、そして「ああ、なるほどね」と納得できれば、その内容は頭に入りやすく、抜け落ちにくくなります。

では、ここで、次の文章を、できるだけ正確に覚えようとしてみてください。

わけのわからないものを無理やり覚えるのは効率が悪い

「その手順はとても簡単である。まず、ものをいくつかの山に分ける。もちろん、量が少ない時には、一山でもよい。次のステップに必要な設備がないためどこか他の場所へ移動する場合を除いては、準備完了である。一度にたくさんし過ぎないことが重要である。多過ぎるより、少な過ぎる方がましだ。すぐにはこのことの大切さがわからないかもしれないが、この注意を守らなければ、面倒なことになりかねない。そうしなければ、高くつくことにもなる。最初はこうした手順が複雑に思えるだろう。しかし、それはすぐに生活の一部になってしまう。近い将来、この作業の必要性がなくなると予言できる人はいないだろう。その手順が終わったら、再び材料をいくつかの山に分けて整理する。そして、それぞれ適切な場所に置く。それらはもう一度使用され、またこのすべてのサイクルが繰り返される。面倒ではあっても、それは生活の一部である」*1。

これは、認知心理学の教科書によく出てくる文章なので、ご存じの方がいるかもしれませんね。

でも、初めてこの文章を読み、これを覚えようとすると、ほぼ不可能に近いのではないでしょうか。わけのわからないものを無理やり覚えようとすると、とても効率が悪くなります。

この文章は、わざと少しわかりにくくした不親切な文章ではありますが、実は洗濯の手順を書いたものなのです。そう言われれば、「あっ、そうか」と腑に落ちるのではないでしょうか。

文章を読んだり話を聞いたりする前に、タイトルや見出しが示されていれば、その話が急に理解しやすいものとなります。これは、知識の枠組みである「スキーマ」を活用することができるからです。

先の文章では、洗濯についてのまとまった知識すなわち「洗濯スキーマ」を私たちが持っているため、これを先に活性化しておくことで、話の内容が理解しやすくなるわけです。その結果、ぐんと覚えやすくなるのです。

ということは、何かを覚えなければならない時には、まず内容を理解するよう努めることが、結局は近道だと言えるでしょう。ジョン・ブランスフォードたちのグループは、一連の実験によって、このことを明らかにしています。

あなたはいくつ覚えられる?

では、ここで、次の文を見てください*2。あなたは、いくつ覚えられるでしょうか?

(1)歯の抜けた人がコードを差し込んだ
(2)眠い人が水差しを持っていた
(3)親切な人が牛乳のフタを開けた
(4)やせた人がハサミを買った
(5)力持ちの人がペンキのハケを洗った

この、なんだかわけのわからない文のリストを順番に一回だけ聞かされて、「水差しを持っていたのはどんな人?」と問われたなら、あなたは答えられるでしょうか? おそらく、すでに記憶がこんがらがってしまっていると思います。

それは、「なぜそんなことをしたのか」という理由が理解できていないためです。言い換えれば、それぞれの行動の必然性がよくわからないためです。

では、次のような理由づけをすると、どうでしょう。

(1)歯の抜けた人がコードを差し込んだのはミキサーで食べ物を軟らかくするためだった
(2)(
眠い人が水差しを持っていたのは眠気覚ましのコーヒーをいれるためだった
(3)(
親切な人が牛乳のフタを開けたのはお腹をすかせた子どもにあげるためだった
(4)(
やせた人がハサミを買ったのはズボンのウエストを詰めるためだった
(5)(
力持ちの人がペンキのハケを洗ったのはバーベルにペンキを塗ったからだった

今度は行動の理由がわかり納得できるため、理由がわからないまま覚えるよりも頭に入りやすく、また、思い出しやすくなるのではないでしょうか。

理由がよくわかり、書いてあることの意味が理解・納得できると、格段に頭に入りやすくなります。そして、覚えやすくなります。情報の意味を理解することが記憶の大きな助けになるというメタ認知的知識は小学生にとっても必要です。

成績のよくない子に見られる傾向

小学校5年生の、学業成績のよい子どもとよくない子どもを比べた研究では、成績のよくない子どもたちが、自分にとって、ある学習が容易か困難かの判断で失敗しがちであることを見出しました*3。

彼らは、たとえば次のような二つの文を子どもたちに見せて、どちらが覚えやすいかを尋ねました。 

(1)力持ちの男が自分の友人がピアノを動かすのを手伝った
(2)力持ちの男が、
朝食の間に新聞を読んだ

すると、成績のよい子どもは(1)と答え、成績のよくない子どもは(2)と答える傾向がありました。

文の長さだけに着目すると、(1)より(2)が短いのですが、(1)の方が(2)よりも理解しやすく覚えやすいと考えられます。時間が経っても、思い出しやすいでしょう。

それは、「力持ちであること」は、新聞を読むことよりもピアノを動かすことと密接な関連があるためです。

成績のよい子どもたちはこのことを正しく判断できましたが、成績のよくない子どもたちは、うまく判断できなかったのです。なぜ(1)が(2)よりも理解しやすく覚えやすいのかという理由を、彼らはよくわかっていませんでした。

文に含まれる個々の情報を関連づけ意味づけることを、精緻化リハーサルと呼びます。ある内容を覚えるためには、この精緻化が、きわめて重要です。

(1)の文では、「力持ちなので、重いピアノを動かす手伝いができた」という具合に、適切な精緻化をしやすく、わかりやすいのですが、(2)の文はそうではありません。
つまり、与えられた文そのものにおいては、なぜ力持ちの男が、朝食の間に新聞を読んだのか、そこに納得できる関連性が見出せません。そのため、子どもたちが自分で苦心して関連づけを行う必要があり、(2)の理解・記憶が(1)よりも困難になるわけです。

このことを、成績のよくない子どもたちは十分にわかっていないように見えます。彼らには、あまり考えずに、与えられた文をそのまま繰り返して丸暗記(維持リハーサル)しようとする傾向があるようです。そのため、文の長さのみに着目して学習の容易さを判断してしまい、短い文の方が覚えやすいと考えるのです。

成績のよくない子どもたちは、与えられた文をそのまま繰り返して丸暗記(維持リハーサル)しようとする傾向があるようです(写真提供:写真AC)

精緻化のトレーニングの成果

言うまでもなく、維持リハーサルよりも精緻化リハーサルの方が、効果的な記憶方略です。

そこで次に、ブランスフォードらの研究グループは、維持リハーサルから精緻化リハーサルに移行させれば記憶成績が上がるのではないかと考え、自分で意味づけをするという精緻化の有効性を教えるとともに、精緻化の方法をトレーニングしました。

先ほどの「力持ちの男が、朝食の間に新聞を読んだ」という文であれば、たとえば「力持ちの男が、力仕事のアルバイトを探すために、朝食の間に新聞を読んだ」というような意味づけをすれば、覚えやすく、また思い出しやすくなるでしょう。

精緻化のトレーニングをしてみると、文を覚えることについての子どもたちの記憶成績は、実際に向上したのです。

このことから、成績のよくない子どもたちに対して、精緻化リハーサルは維持リハーサルよりも効果的な記憶方略であるというメタ認知的知識を獲得させ、自ら精緻化方略を試してみることでその効果を実感させるという、メタ認知的な働きかけが有効であることがわかります。

ーーー

*1. Bransford, J. D., & Johnson, M. K. (1972) Contextual prerequisites for understanding: Some investigations of comprehension and recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11, 717-726.8. J. ブランスフォード・B. スタイン(著)、古田

*2. J. ブランスフォード・B. スタイン(著)、古田勝久・古田久美子(訳)(1990)『頭の使い方がわかる本 問題点をどう発見し、どう解決するか』 HBJ出版局

*3. Stein, B. S., Bransford, J. D., Franks, J. J., Vye, N. J., & Perfetto, G. A.(1982) Differences in judgments of learning difficulty. Journal of ExperimentalPsychology: General, 111, 4, 406-413.

※本稿は、『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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