種付け料は2000万円、ドウデュース、リバティアイランドにも勝利…「世界最強の日本馬」の正体【3年後の夏にはアーモンドアイとの仔が…】

 2021~2023年、競馬界を沸かしたイクイノックス。武豊のドウデュースや川田将雅のリバティアイランドなど名だたる名馬を相手にしながら、勝利し続けたその実力とは?

【特別グラビア】「日本最強の牡馬」「日本最強の牝馬」「日本を代表する調教師」の写真をすべて見る

 小川隆行氏らが歴史的な名馬のエピソードを執筆した『アイドルホース列伝 超 1949ー2024』(星海社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

イクイノックス ©getty

◆◆◆

人生で衝撃を受けた「3つのレース」

 昭和50年代から競馬を見続けて半世紀近くが経った。この間、衝撃を受けたレースと馬を三つ挙げてみたい。

 一つはサイレンススズカの毎日王冠。馬体重452キロの小柄な馬が、直線の長い東京コースでハナを切ると、上がり35秒1の脚で5連勝中のエルコンドルパサーを2馬身半チギったレースである。次走で競走中止となり天に召されたが、1カ月後にエルコンドルパサーがジャパンCで魅せた末脚をみると、「無事だったら…」と思わずにはいられなかった。

 次はディープインパクトの皐月賞。スタートで出遅れるも終わってみれば2着以下を2馬身半チギる圧勝劇。「なんじゃこの馬は!」と、それまでにない衝撃を覚えた。GⅠを7勝した名馬は、馬名通り深い衝撃を与えてくれた。

 最後はイクイノックスが3歳時に走った天皇賞・秋。スタートから逃げたパンサラッサを10番手から差し切った末脚は、長年競馬を見てきた中でも目にしたことのない内容だった。

 1頭だけ別次元の末脚。グレード制導入後、4頭目となる3歳馬の制覇は、レース史上もっとも少ないキャリア5戦での栄光。この先どんな競馬を見せてくれるのか、と期待で胸が膨らんだ。

イクイノックスに立ちはだかる「大きな壁」

 同馬はローテーションも異例だった。2戦目の東京スポーツ杯2歳Sを圧勝すると、半年ほどレースに出走せず皐月賞へ挑んだ。年明け初戦が皐月賞だった馬はコントレイルなど数頭目にしてきたが、半年ぶりというローテで大外枠から2着を確保。続く日本ダービーではドウデュースにクビ差の2着。クラシックは惜敗続きで勝てなかったものの、3歳秋以降の6戦では毎回のように衝撃を与えてくれた。

 3歳馬として史上5頭目の天皇賞馬となったイクイノックスは次走で有馬記念も勝った。キャリア6戦でのグランプリ制覇は史上最短。この2レースが評価され、年度代表馬に選出された。

 4歳春にドバイシーマクラシックに出走、従来のレコードを1秒も縮めてGⅠ3連勝を遂げると、帰国後は宝塚記念に駒を進めた。圧倒的1番人気に支持されたが、このレースは波乱含みにみえた。初の阪神コースで斤量58キロと初物づくしであり、GⅠ7勝を果たした父キタサンブラックも宝塚記念は9着と凡走している。父も4連勝をしたことなどなく、イクイノックスにとって大きな壁だと感じてしまった。

 その懸念通り、2着に惜敗したダービーと同じく最後方からのレース展開に。4コーナーでも外を回らされ、「なんと、負けたか!」と感じた直後、直線で脚を伸ばすと前をまとめて交わしGⅠ4連勝を果たした。

 次走で秋の天皇賞を制したこの馬の勝ち時計は1分55秒2。先行勢が総崩れする中、別次元の末脚を見せてのレコード勝利。トーセンジョーダンが持っていた従来のレコードを0秒9も更新。この記録は芝2000mでの世界レコードとされている。

 ラストランのジャパンCでは、三冠牝馬のリバティアイランドと初対決となった。

 このレースではリバティアイランドが優勢だと感じてならなかった。同コース同距離のオークスでは2着を6馬身チギってみせた。同じ三冠牝馬のジェンティルドンナとアーモンドアイはオークスを2分23秒台で勝ったが、この馬の勝ち時計は2頭をコンマ5秒以上も上回っている。

 牡馬と牝馬の三冠馬対決は過去に2回あった。2回ともジャパンカップであり、ジェンティルドンナはオルフェーヴルに、アーモンドアイはコントレイルに先着。いずれも牝馬三冠馬が牡馬三冠馬を破っている。特にジェンティルドンナはオルフェーヴルとの4キロ差を活かし、マッチレースに持ち込むとハナ差で先着した。加えて近年は牝馬が強い時代でもある。レース前はリバティアイランドが優位に思えてならなかった。

 しかし、イクイノックスの脚は別次元で、4キロ差の三冠牝馬を4馬身もチギってしまった。しかも、このレースで3着だったスターズオンアース、4着だったドウデュース、5着だったタイトルホルダーは、次走の有馬記念で揃って上位を占めている。

 このことは、ジャパンCのレースレベルを証明するものだろう。

 数多くのレースを目にしてきたが、このジャパンCのゴール直後は口がポカンと開いたままだった。シンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ウオッカ、ジェンティルドンナ、キタサンブラック、アーモンドアイとGⅠ7勝以上の名馬がいずれも勝利してきたジャパンCで、言葉が出ないほどの衝撃を受けてしまった。

 ここからは夢想の話だが、前記したGⅠ7勝以上馬が同じレースを走っても、イクイノックスに勝てる馬はいない気がする。

 3番手を追走して2分21秒8、加えて上がりタイムは33秒5。ディープインパクトが勝った2006年と上がりタイムは同じだが、同馬は2011番手からの差し切りであり、3番手から先行して同じ上がりをマークしている。

3年後の夏にはアーモンドアイとの仔が…

 GⅠ勝利数ではアーモンドアイやディープインパクトらに届かなかったが、GⅠ6連勝を果たしたのはテイエムオペラオー、ロードカナロアに次いで史上3頭目。無敗でGⅠのみ6連勝を遂げたのは日本競馬史上唯一の大記録となった。

 引退後の種付け料は2000万円。アーモンドアイとの配合も決まった。3年後の夏、2頭の仔はどんな走りを見せてくれるのだろう。

「パンサラッサと先生にたくさんのことを与えてもらいました」「それは違う」調教師・矢作芳人がファンの言葉に“首を横に振った理由”「僕らが与えてもらっているんだよ」〉へ続く

(小川 隆行/Webオリジナル(外部転載))

ジャンルで探す