「遠回りに見えて近道」浦和レッズは何が変わったのか?沖縄キャンプで感じるJリーグ優勝への期待感【現地取材コラム】

【写真:Getty Images】

●ペア・マティアス・ヘグモ監督の下で再出発

 マチェイ・スコルジャ監督が退任し、ペア・マティアス・ヘグモ監督の下で2024シーズンに臨む浦和レッズ。沖縄キャンプでは新たに加わった面々がレギュラーの座を虎視眈々と狙っているという。新監督と新戦力は、浦和というチームをどう変えていくのだろうか。(取材・文:河治良幸)
------------------------------------------------------

 沖縄で約10日間、浦和レッズのキャンプを取材してきた。毎年この時期というのはどのクラブを観てもワクワクするものだが、今年の浦和は例年以上に楽しみな要素が多い。ノルウェーの名将として知られるペア・マティアス・へグモ監督が就任。4-3-3をベースに、シンプルに前向きな戦術で、各ポジションの選手が個性を発揮するスタイルだ。

 初めのうちは多くの人が想像できる選手たちがファーストセットだったが、日数を重ねる中でコンディションなども見極めながら、徐々に入れ替わりも出てきた。筆者は最初にフラットな状態から競争させていくものだと想定していたが、アプローチは少し違っていたようだ。それでもプロセスの問題であり、結局は開幕戦に向けて、誰がスタメンになってもおかしくない競争が起きてきそうだ。

 マチェイ・スコルジャ前監督が率いた昨年はAFCチャンピオンズリーグ決勝でサウジアラビアの強豪アル・ヒラルを破り、アジア王者に輝いた。しかし、5月に1つのピークを持って行った影響もあり、過密日程で日頃のトレーニングもままならないまま、終盤戦は怪我人が相次ぎ、試合に出ている選手も疲弊感が目に見えて分かる状況だった。

 今年はACLが無く、4回の優勝を誇る天皇杯も今年の参加資格も無い。昨年のファイナルで敗れたJリーグYBCルヴァンカップのリベンジはあるが、前回からフォーマットが変更されて、初戦からトーナメント方式となった。そうした状況で、酒井宏樹も「リーグ優勝に全振りできるシーズン」と前向きに捉えている。シーズンの日程を観ても過密日程が少なく、基本的には1週間に1回の試合に向けて準備していくことになる。

●試合数減と新戦力加入で生まれる新たな競争

 昨年は暮れのクラブワールドカップを含めて60試合を戦ったが、今年は最低で39試合、もしルヴァン杯をファイナルまで勝ち上がっても50試合に満たない。「今年は競争できるかなと思います」と酒井も笑顔で語る。

「去年は競争できるような試合数じゃなくて、みんなでカバーしていく試合数だったので。1週間に1試合になるようなチームの試合数になると言うことは、またちょっと去年と違う意識をしていかないといけないので。練習にパワーを注げる状況で、雰囲気もよくなっていくと思います」

 同じ右サイドバックで酒井に挑むのは湘南ベルマーレから加入してきた石原広教だ。アカデミー時代からお世話になった湘南で、象徴的な選手を目指していくことも考えていたという石原だが、浦和という日本を代表するクラブに挑戦することで、選手として少しでもレベルアップしていきたいという気持ちが上回ったという。その大きな理由がW杯3大会を経験した酒井の存在だ。

「自分の先を考えた時に、今だったら宏樹さんとか、世界でやってきた選手がいる。しかも、同じポジションでそういう選手と競い合えるという環境に身を置くことで、やっぱりサッカー選手としてだけじゃなくて、出られない状況だったりも発生するところでやる覚悟で、自分に壁を作るじゃないですけど」

 そう語る石原の表情からは、世間的には不可能と見られてもおかしくない挑戦に、ギラギラしていることが見て取れる。もちろん酒井も、そうした競争は喜んで受けて立つ思い出あるようだ。石原だけではない。センターバックには昨年のベストイレブンにも輝いたアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンという二枚の巨壁がいる。そこに挑む強い姿勢を見せているのが、ガンバ大阪から加入した佐藤瑶大だ。

●最強CBコンビに挑む佐藤瑶大が目指すのは…

 キャンプ中にクラブが行っているSNS向けの「60秒チャレンジ」でコミカルなキャラクターも見せた佐藤は「隠すつもりはなかったなかったんですけど」と照れ笑いを浮かべた。早くも浦和の新たな愛されキャラになっていきそうだが、もちろんオンザピッチに関しては真剣だ。“ヘグモ式”の4-3-3は左右のインサイドハーフがあまり後ろに落ちてこないため、ビルドアップでセンターバックに相手のプレッシャーがかかりやすい。

 そうしたスタイルは組み立てを得意とする佐藤にとってウェルカムだが、その佐藤にとっても参考になるのはショルツの持ち出しだ。「二人(ショルツとホイブラーテン)はやれることが多いなあと思います。ドリブルもできますし、守備もできますし、特にショルツ選手は攻撃が好きだと思う」と佐藤。しかし、そのショルツに対しても「リスペクトしすぎず、行くところは行って、盗むところは盗んで」と語り、ポジションを奪い取る意欲をのぞかせる。佐藤が目標にしているのは日本代表だ。

「あの二人に勝ったら近づく。圧倒的に近づくんじゃないかなと。遠回りに見えて近道だと思う」

 現時点で各ポジションの2、3番手と見られる選手たちも、そうした石原や佐藤のような気持ちを隠さないのが現在の浦和だ。キャンプの前半で右ウイングのファーストセットに入っていた前田直輝は「ウイングの良し悪しで、試合が左右すると言っても過言ではないと自分の中でも責任感を持ちながらやっている」と目を輝かせるが、当然、ここからはASローマから来たノルウェー代表のオラ・ソルバッケンが強力なライバルになってくることは大前提で理解している。

●新助っ人がチーム内競争の刺激に

 左利きのソルバッケンは左右のウイングをこなす選手として知られるため、ベルギーから戻って好調な動きを見せる松尾佑介も、両睨みでの競争相手になってくる。そして”ヘグモ式”のヘソとなるアンカーのポジションには指揮官の”愛弟子”でもある大型MFサミュエル・グスタフソンが加わった。これまでリカルド・ロドリゲス、マチェイ・スコルジャと二人の監督のもと、浦和の中盤を支えてきた岩尾憲にも、ポジションや出場機会は約束されていない。

 基本的には1週間に1試合しか来ないだけに、へグモ監督の中で実戦的な序列が固まれば、サブの選手にはなかなか出番の無い日々が来る可能性もある。しかし、前向きに捉えれば準備に長く時間が取れる分、シーズン中に練習試合を組むことも可能になるし、むしろ健全な競争環境が形成される期待もある。

 さらにFC東京から、サイドアタッカーとして獲得したと見られた渡邊凌磨が、キャンプを通して左サイドバックでテストされるなど、浦和は非常に興味深い話題に満ち溢れている。ここから開幕まで3週間ほどで、どういったチームが出来上がってくるのか。来年には新フォーマットになるFIFAクラブワールドカップも待つが、まずは今年、2006年以来のリーグ優勝に“全振り”していく浦和の中で繰り広げられる、ハイレベルなチーム内競争を楽しく見守りたい。

(取材・文:河治良幸)

<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/10/24/post518242/" target="_blank" rel="noopener">J1要チェック! J2で輝く若き逸材10人。Jリーグ“個人昇格”の候補者たちは…</a>
<a href="https://www.footballchannel.jp/jleague-transfer-2024/" target="_blank" rel="noopener">【一覧】Jリーグ移籍情報2024 新加入・昇格・退団・期限付き移籍・現役引退</a>
<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/12/12/post523739/" target="_blank" rel="noopener">Jリーグ“最強”クラブは? パワーランキング。人気や育成、成績など各指標からJ1~J3全60クラブを順位化</a>

ジャンルで探す