【浦和レッズ総括コラム】2023のタラレバと嬉しい誤算。スコルジャ監督が変えられなかった“運命”

【写真:Getty Images】

FIFAワールドカップを含めてまだ戦いの場は残されているが、浦和レッズにとって長いシーズンが終わりに向かっている。ここでは、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)制覇、YBCルヴァンカップ決勝で敗退など、様々なことがあった浦和の2023シーズンを一足早く振り返る。(取材・文:河治良幸)

●“3年計画”の先にあった浦和レッズの2023

 今シーズン国内外のあらゆるタイトル獲得を目指した浦和レッズだが、獲得できたのは3度目となるACLの一冠だった。もちろん、その一冠は素晴らしいものだ。リカルド・ロドリゲス前監督が準決勝まで戦い、今年に残した”遺産”とも言うべきもので、それを引き継いだマチェイ・スコルジャ監督が、アジア最強レベルの戦力を誇るアル・ヒラルとのホーム&アウェイを制して、アジア制覇を成し遂げるというストーリーだった。

 ただ、1年目の監督としては5月に、ACLの“秋春制”への移行に伴い年を跨いだファイナルという大きなステージがあったことは大きな負担となったことは間違いない。昨年までの“3年計画”と名付けられたサイクルを無駄にせず、チームのベースアップと進化を期待されたスコルジャ監督が、ACLでアル・ヒラルという巨人を倒すには、前体制のベースを崩すことなく、エッセンスを上積みする必要があったのだ。

 実際にスコルジャ監督も“ACLファイナルまで”と“ACLファイナル後”という二つの段階でチーム作りをイメージしていることを明かしていた。おそらく、もっとシームレスに中盤から縦に躍動する、ダイナミックなサッカーを植え付けたかったのだろう。しかし、ACLファイナルを終えたからといって、改めてキャンプの期間が用意されているわけでもない。振り返ればシーズンに大きく影を落としたのが、アジア王者に輝いた4日後に行われたサガン鳥栖とのホームゲームでの敗戦だった。

 勝負にタラレバは禁物だが、仮にACLファイナルから1週間、次のリーグ戦まで時間があれば、その後の流れはまた違っていたのではないかと考えている。YBCルヴァンカップや天皇杯が挟まるだけでなく、ACL王者に与えられる2023/24シーズンのACLプレーオフ参加など、どんどん試合が続いていく状況で、スコルジャ監督が本来やりたいサッカーに踏み切ろうにも、時間も選手のコンディションも、そしてリーグ戦での成績という現場のリアルがチームを圧迫していた。

●浦和レッズにとって嬉しい誤算

 もちろん、そうした日程にばかり言い訳材料を求めるべきではない。開幕前からその時期にACLファイナルが来ることも、カップ戦を勝ち上がるほど過密日程になることも分かっていた。シーズンに入ってからちゃぶ台返しのように日程がすり替わったわけではない。その中で、戦力面は期待値ベースでありすぎたし、夏には元日本代表の中島翔哉安部裕葵、エカニット・パンヤを獲得したが、大きな効果を発揮しなかった。

 強いて言えば“ブック”ことエカニットのフィットが早く、シーズン最終盤でジョーカーとして良い働きを見せたが、24歳のタイ代表MFは来シーズンへの投資に近い。復調途上の安部にしてもそうだ。過密日程をこなす選手層に問題があると言っても、選手の頭数が足りていないわけではない。

 しかし、スコルジャ監督が例えばボランチで岩尾憲と日本代表にも選ばれた伊藤敦樹を固定的に使い続けた理由は1つ1つ結果を求められる中で、その時点で信頼の置ける選手に頼ってしまう傾向につながった。そうした状況を破って、主力に食い込んでくる選手も少なかったが、そこは現場とフットボール本部の両方に責任があるだろう。そうした浦和にあって、良い意味での驚きはホセ・カンテの活躍だった。

 当時32歳で加入したギニア代表FWは開幕後の3月13日に加入が発表され、徐々にコンディションを上げながらチームにフィットしていくと、4月9日の名古屋グランパス戦でデビュー。ACLファイナルでも起用されたが、リーグ戦の初ゴールは5月27日の京都サンガ戦と早くはなかった。そこから”理不尽”とも形容される脅威的なシュート力を武器に、前半戦の浦和を引っ張った興梠慎三も認めるほど、どんどん頼もしい存在になって行った。

 そうしたポジティブなサプライズを持ってしても、浦和がACLファイナル後のタイトルを獲得するにはいたらなった。特にスコルジャ監督が「運命を変える」と語った、ACLのホーム浦項スティーラーズ戦からルヴァン杯の決勝を挟み、ヴィッセル神戸戦まで、10月下旬から11月中旬の5試合で、1分4敗という結果に終わったことが、シーズンを決定づけてしまった。

●国内ラストゲームが持つ意味

 しかし、まだ浦和にとってシーズンが終わったわけではない。過酷なシーズンの国内最終戦。“小野伸二ラストゲーム”も浦和は札幌に負けられない。

 浦和はJ1リーグの最終節で、北海道コンサドーレ札幌と対戦する。浦和でキャリアをスタートした小野伸二のラストゲームとして注目される試合だ。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いる札幌にとっても、記念すべき試合を勝利で終えて、来シーズンに良い流れを持ち込みたいことは間違いないが、今シーズン限りで退任するスコルジャ監督や現役引退を表明したカンテにとって、国内最後の試合となる。

 3度目のアジア王者に輝いた浦和レッズにとって、思い返せば山あり谷ありだった2023シーズンだが、終盤戦に過密日程のピークが来るという過酷なレギュレーションの中で、YBCルヴァンカップのタイトルを決勝で逃し、J1リーグ優勝の望みが絶たれた。さらにACLで韓国の浦項スティーラーズにホームとアウェイで連敗。グループステージ突破にも黄色信号がともる状況でACLの第5節を迎えている。

●引退するカンテがつないだ希望

 浦和レッズは今シーズン最後の埼玉スタジアムで行われた一戦で、中国の武漢三鎮に2-1と勝利。勝ち点を7として、グループステージ最終節となるハノイとのアウェイゲームに希望を繋いだ。文字通り“理不尽”なシュートで、劇的な決勝ゴールを決めたホセ・カンテは「今月は大事な試合を落としていましたので、今日勝つことができて本当に良かったと思います」と語った。

 33歳のカンテはすでに今シーズン限りでの現役引退を表明しており、これが埼玉スタジアムでのラストゲームに。試合後はフラッシュインタビューの後、単独でゴール裏のサポーターなどに挨拶を行った。報道陣の質問に、改めて「僕の心の底で決めた判断であり、これは何年も考えていたこと。その判断を変えるタイミングではない」と回答したが、浦和に加入してからの時間について「このような形になるとは思っていなかった」と涙をうるませ、言葉を詰まらせた。

「まだこれからも試合がありますので、それに向けてもいい勝利だった」とカンテ。彼と浦和には、少なくとも3試合が残される。武漢戦で先制のPKを決めて、さらに効果的な持ち上がりからカンテの決勝ゴールの起点になったアレクサンダー・ショルツは「彼にボールを渡すしかないと思います。結果を出してくれると思う」と残り試合の抱負を語った。

●過酷なシーズンのラストに浦和レッズは何を見せるのか

 10月24日に行われたACL第3節の浦項スティーラーズ戦から公式戦6試合で1分5敗。その中には決勝でルヴァン杯のタイトルを逃したアビスパ福岡戦、J1初優勝を果たしたヴィッセル神戸に惜敗した試合も含まれている。アウェイの浦項戦では2-1で敗れただけでなく、マチェイ・スコルジャ監督が不可解なレッドカードで退席となり、ACLグループステージの残り2試合でベンチ入りできない事態となった。

 それでもチーム一体となって掴んだ7試合ぶりの勝利。代わりに指揮をとったラファル・ジャナスコーチは「我々にとって非常にタフな一カ月となっていました。今月はアディショナルタイムで負けてしまうという試合が2つありましたが、本日は試合終了間際にホセ(カンテ)が点を取って勝つことができました。最後の最後まで、選手たちは勝ちたいという意欲を持って闘ってくれたので、感謝したい」と振り返る。

 札幌戦は浦和にとって年間の56試合目。J1王者となったヴィッセル神戸が44試合、共にACLを戦う横浜F・マリノスでも53試合(ワールドチャレンジを除く)であり、この試合数だけ見ても、いかに過酷なシーズンだったかが分かるが、その後にACLのグループステージ突破がかかるアウェイのハノイ戦、そして締めくくりがアジア王者として挑むFIFAクラブワールドカップとなる。

 メキシコのレオンに勝利すれば、準決勝で待つ欧州王者のマンチェスター・シティに勝利しても、敗れて3位決定戦に回るとしても、年間で60試合。心身ともに疲労のピークにあることは間違いない。しかし、札幌戦を含むここからの3〜5試合の結果次第で、このシーズンの評価というものも大きく変わってくる。札幌戦に勝利して、気持ちよく国外でのラストスパートに持っていけるか。

(取材・文:河治良幸

<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/10/25/post518282/" target="_blank" rel="noopener">「Jリーグとは違う」浦和レッズが痛感した韓国勢との差。遅れた対応と露呈した脆さ【コラム】</a>
<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/10/24/post518242/" target="_blank" rel="noopener">J1要チェック! J2で輝く若き逸材10人。Jリーグ“個人昇格”の候補者たちは…</a>
<a href="https://www.footballchannel.jp/2023/11/23/post521452/" target="_blank" rel="noopener">争奪戦必至!?J3で輝く逸材10人。J1とJ2も狙う?必見のステップアップ候補たち</a>

ジャンルで探す