「彩艶が止めてくれたことはチームに非常に勇気を与えてくれた」と森保監督も絶賛。22歳の守護神がインドネシア戦勝利の原動力に

鈴木彩艶

 「今回のインドネシアは我々が過去に知っているのとは全く違うパワーを持ったチーム。プラス、我々の分析もシン・テヨン監督がされていて、対策をしてくるということを覚悟してのぞまないといけないと思います」

 FIFAワールドカップ26アジア最終予選(W杯3次予選)・インドネシア戦の前日会見で日本代表の森保一監督が警戒心を露わにした通り、15日に敵地で対峙した同国は想像以上の難敵だった。

 それを痛感させられたのが序盤。インドネシアは日本がボールを保持してパスをつないでくるのを想定し、5-4-1で守備ブロックを構築。粘り強く守って、シンプルなカウンターを仕掛けてきた。特に狙われたのが、左ウイングバック(WB)三笘薫の背後。日本屈指のドリブラーを警戒し、相手は2枚のマークをつけ、ボールを奪ってスピーディーにタテに展開。そこから最前線のラグナー・オラットマングーンや左FWラファエル・ストゥルイクにラストパスを供給しようという狙いを鮮明にしてきたのだ。

 そんな開始9分、日本はいきなり術中にハマりそうになる。相手のロングパスに反応したオラットマングーンにマークに行った板倉滉がアッサリとかわされ、ゴール前まで持ち込まれてしまった。これは絶体絶命の大ピンチ。失点してもおかしくないシーンだったが、22歳の守護神・鈴木彩艶は相手が左足に持ち替えてシュートを放つのも確実に読み、ビッグチャンスを阻止。日本は九死に一生を得たのである。

 森保監督も「相手の1点目になったかもしれないカウンターの局面で彩艶が止めてくれたことはチームに非常に勇気を与えてくれたと思います」と心からの安堵感を覚えたというが、その冷静さは目を見張るものがあった。

「相手がドリブルで運んできて、自分の間合いを詰められたので、最後カットインで内側に運んだ瞬間に『取れるな』って感覚がありました。慌てずに対応できましたね。イタリアでもあのようなシーンでシュートを打たれて失点する場面があったので、自分としてはうまく間合いを詰められたらチャンスになるかなと思った。そこはうまくできてよかったと思います」

 こう語る鈴木彩艶の一挙手一投足は、不安定さと自信のなさが垣間見えていた1~2月のアジアカップの頃とは別人のように堂々としていた。

 今夏赴いたイタリア・セリエAはゴール前の攻防が多く、迫力あるフィニッシュも特徴的なリーグ。そこでさまざまなシュートを受けることで、セービング技術に磨きをかけているのだろう。刺激的な日々の積み重ねは間違いなく血となり肉となる。若い選手というのはちょっとしたきっかけで大化けすることがあるが、今の鈴木彩艶はまさにそういう時期なのかもしれない。

 イタリアでの経験が、2度目のビッグセーブにも生かされた。後半29分、オラットマングーンが左からドリブルで持ち上がり、またも板倉がかわされ、フォローに入った町田浩樹も間に合わず、途中出場のアルハンが飛び込んできた場面である。鈴木彩艶はまたも敵との1対1を強いられたが、シュートコースを見極め、確実にボールをキャッチしてみせた。本当にこのGKの存在がなかったら、この日の日本は4-0の完封勝利を収めることはできなかっただろう。

 板倉が「今日は沢山ピンチがありましたけど、最後のところで彩艶が体で止めてくれた。そこはよかったと思います」と言えば、町田も「本当に1点を決められたら全く違うゲームになっていた。そこは本当に彩艶に救われた」と心から感謝する。年長者のDF陣にリスペクトされるほどの絶大な存在感を示したことは、インドネシア戦の非常に大きな収穫だったに違いない。

 2010年南アフリカW杯から4度、世界の大舞台に参戦した川島永嗣、そして2022年カタールW杯で正GKとして活躍した権田修一というベテラン守護神が揃って代表を離れた2023年以降、絶対的守護神を確立させることは日本代表の重要テーマと位置づけられていた。当初はシュミット・ダニエル大迫敬介や谷晃生が有力視されたが、森保監督も下田崇GKコーチも圧倒的なポテンシャルを備えた鈴木彩艶を育てようと決意し、今年になってから辛抱強く使い続けてきたのだろう。

 おそらくアジアカップの時点では「2026年W杯までに世界トップ基準に達してくれればいい」というくらいの長いスパンで考えていたはずだが、彼の成長スピードは恐ろしいほど速い。1年も経たないうちにここまでの落ち着きと老獪さを身に着けたのはある意味、嬉しい誤算かもしれない。このままグングン成長し、1年半後には世界トップGKの仲間入りを果たしてくれれば理想的だ。

 19日の次戦・中国戦でも、敵を寄せ付けない頭抜けたパフォーマンスを期待したいところ。今は鈴木彩艶の成長を見るのが楽しみだ。

取材・文=元川悦子

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