「巨人は阪神の大山を獲って岡本はどこを守る? 甲斐もいらん。捕手は3人もいるじゃないか」大物OBがジャイアンツのFA3人獲得戦略にモノ申す

 巨人のFA戦略の行方に注目が集まっている。阪神の大山悠輔一塁手(29)、ソフトバンクの甲斐拓也捕手(32)、石川柊太投手(32)の一気3人獲りの大型補強に動いていると見られるが、巨人の大物OBで、ヤクルト、西武で監督を務めた広岡達朗氏(92)は「投手はいくらいても困らないが、大山をとって岡本はどこを守る?捕手は3人いるじゃないか」と異を唱えた。

 「本当に3人も獲る気なのか?

「本当に巨人はFAで3人も獲得する気なのか」
 広岡氏はそうクビをかしげた。
巨人が4年ぶりにFA戦線の主役に躍り出た。これまでの各社の報道や、筆者がつかんだ情報でも、巨人は確かに阪神の大山、ソフトバンクの甲斐、石川のFA3人獲りに動いている。
 巨人は過去にFAで12球団最多の28人を補強してきたチームだが、2020年オフに横浜DeNAからダブルで獲得した梶谷隆幸井納翔一を最後にFAで獲得した選手はいない。昨年オフはオリックスからFA宣言をした山崎福也の争奪戦に参戦したが、ふられた形となり山崎は日ハムを選んだ。その4年ぶりのFA解禁で一気に3人獲り。 
 FA制度は1993年オフに始まったが、過去にFAで同時に3人を獲得した球団は、2016年オフの巨人だけ。ソフトバンクから中継ぎ左腕の森福允彦、横浜DeNAから先発の山口俊、日ハムから右のスラッガーの陽岱鋼を獲得した。監督1年目に2位に食い込むも、CSで敗れて日本シリーズには進出できなかった高橋由伸監督の2年目。絶対に負けられない勝負の年に向けて、フロントが大型補強に動いたが、結局、3人獲りの効果はなく、この年は、4位に終わり広島が優勝している。
 広岡氏は「巨人は、やっと生え抜きの育成に目を向けたのか、この3年はFA補強をしていなかった。優勝もしたし、もう外から選手を獲らずとも、阿部なら、そういうチーム作りができると思っていたが、クライマックスシリーズで負けて、日本一になれなかったことにフロントが危機感を覚えたのだろう。3年間、FA補強を控えたことで、一定の理解は得られるのかもしれないが、私は反対だ」と、その方針に反対した。
 反対の理由は、3人それぞれにある。
「まず一塁手の大山を獲って岡本(和真)にどこを守らせるのか。もう力の落ちた三塁の坂本(勇人)を控えに回して、岡本を三塁に戻すのか、それとも岡本に外野をやらせるのか。あるいは、岡田が監督をするまでは外野もやったことのある大山に外野をやらせるのか。レギュラーは、守備、打順を固定しなければ、安定した力は存分に発揮できないし、コロコロ変わるようなチームは強くない。なぜ一塁手の大山を獲るのかがよくわからん。来年のオフに岡本がメジャーに挑戦して、いなくなることに今から備えているのだろうか」
 大山は岡田監督の2年間で一塁に固定されて結果を出した。2023年は「4番・一塁」でフル出場して、打率.288、19本塁打、78打点で優勝に貢献し、四球99はリーグ最多で、出塁率も4割を超え打線をつないだ。今季は打率.259、14本塁打、68打点と下がり、5月には打率1割台となり2軍落ちも経験したが、得点圏打率は.354でリーグ2位。巨人が求めている勝負強さが魅力で、ドーム球場になれば、本塁打数は間違いなく増えるだろう。
 岡本は今季100試合に一塁で先発出場し、一塁では初となるゴールデングラブ賞を受賞した。ただチーム事情により、三塁で28試合、レフトで15試合に先発出場している。

 

 

 坂本は、三塁で99試合に先発し、彼もまた三塁で初のゴールデングラブ賞を受賞した。三顧の礼を持って大山の獲得に動くのであれば、ポジションは確保しなければならず、岡本の本格的なコンバートは避けられない。
 2年ぶりに7度目のゴールデングラブ賞を受賞した甲斐についても広岡氏は「いらない」という意見。
「大城がFAで出ていくならまだしも残留が決まり、岸田(行徳)、小林(誠司)と3人いる。しかもパ・リーグでプレーしていた甲斐はセ・リーグの打者も巨人の投手も知らない。インサイドワークで力を発揮するには、時間もかかる。トータルでは今季は結果を残しているが、ノーヒットに終わった日本シリーズのバッティングを見る限り、打つ方は、そう期待も持てない」
 巨人は今季、岸田行倫が72試合、大城卓三が34試合、小林誠司が36試合で先発マスクをかぶり3人を併用した。攻撃型布陣を組む際には大城、菅野智之の先発では小林と起用法を分けていた。菅野がメジャー移籍するため、小林の起用法には、頭を悩ますことになり、岸田は盗塁阻止率もリーグトップの.475で、打撃は、打率.242、4本塁打、26打点の数字を残したが、リード面などを含めた総合評価として捕手出身の阿部監督には物足りなかったのだろう。
 甲斐は、侍ジャパンの正捕手として東京五輪、WBCでチームを支えた世界一捕手。ただ、今季は投手に応じて海野隆司が38試合に先発マスクをかぶるなどフルで出場はできなかった。盗塁阻止率も今季は.284でリーグ5位。打撃は、打率.256、5本塁打、43打点の好成績を残した。
 打率は2019年の.260に次ぐキャリア2番目の数字で、本塁打は昨年の10本から5本減ったが、二塁打は16本から25本に急増。これはキャリアトップの数字で、ずっと課題とされていた打撃面に改善が見え、ソフトバンクのリーグ優勝に貢献した。だが、日本シリーズでは、ついにノーヒットに終わり、横浜DeNAに“下剋上日本一”を許す要因のひとつになった。

 

 

またオリックス、ヤクルトなどと争奪戦になっている石川については、「投手は菅野も抜けて、長いペナントレースを考えるといくら人数がいてもいいし、チーム内で競争意識が高まるのはいいこと。しかし山崎(伊織)や、井上(温大)ら若手が育っている。石川はCランクと聞くし、楽天を退団した田中(将大)に手を出すよりはいいが…」という意見だ。
 今季15試合に登板し、7勝2敗、防御率2.56の成績を残した石川の推定年俸は1億2000万円だが、高額選手が揃うソフトバンクの中ではCランクで、金銭補償や人的補償が不要。しかも先発と中継ぎの両方で起用できるので、今季15勝3敗の成績でMVPを獲得した菅野が抜ける巨人にとっては、3人の中で一番必要な戦力なのかもしれない。
「厳しい言い方かもしれないが、巨人が獲ろうとしている3人は一流とは呼べない。それぞれに長所と短所がある。大山も甲斐も、残留か、移籍かの結論を出せていないようだが、たとえ獲得に失敗したとしても問題はないだろう。過去には、落合(博満)や杉内(俊哉)、工藤(公康)らが戦力になったが、ここ数年でFAで成功したのは、丸(佳浩)くらいだろう。失敗した例の方が目立つ。監督、コーチが、根気強く指導して生え抜きを育成し、外から獲るのではなく、チーム内部で競争意識を高めるのが理想なのだ」
 大山、甲斐、石川の3選手ともまだ結論は出していない。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)

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