トライアウトでアピールに成功した人と失敗した人は誰だ?!…元ヤクルト編成部長のノムさん“右腕”がNPB復帰の可能性のある4人の名前をリストアップ

 プロ野球の12球団合同トライアウトが14日、千葉ロッテの本拠地ZOZOマリンスタジアムで行われ、戦力外通告を受けた45人が参加して各球団の編成担当にアピールを行った。過去の平均で約5%しかNPB復帰できないという狭き門。元ヤクルトの編成部長で、ヤクルト、阪神、楽天では“名将”故・野村克也氏のもとで“右腕”としてコーチも務めた松井優典氏にアピールに成功した選手と失敗した選手を独自目線でピックアップしてもらった。

 今回は45人が参加したが19人が元育成選手

 戦力外の男たちの“最後の戦い”がZOZOマリンで繰り広げられた。ネット裏には各球団のGMら編成担当がズラリ。トライアウトは試合形式で進められ、カウント0-1から投手は打者2人、打者は4、5打席立った。今季戦力外となった40人と、再チャレンジ組5人の計45人が参加したが、うち19人が育成選手で若い選手が目立った。
 誰がアピールに成功し、誰ができなかったのか。
 ヤクルトの元編成部長で、過去にトライアウトを何度も視察してきたノムさんの“元右腕”に独自目線でチェックしてもらった。
 松井氏の総評は「今回は実績組が少なく、まだ若い育成選手が多いこともあって、即使えるという選手よりも、伸びしろを含めて可能性を感じる選手が数人いたというレベルだったと思う」と厳しいものだったが、アピールに成功した選手として、4人の名前があがった。
 真っ先にリストアップしたのが横浜DeNAの左腕の高田琢登(22)だ。静岡商から2020年のドラフト6位で入団したが、1年目に左肩のクリーニング手術を受けてブランクを作り、プロ4年で1軍登板は一度もなく、今季はファームで主に中継ぎで13試合、20回を投げ、0勝4敗防御率8.55の成績に終わり戦力外通告を受けた。この日は、巨人の右打者の菊田拡和(23)を116キロのカーブでファーストフライに打ち取り、続く巨人の左打者の前田研輝(25)を137キロのストレートで追い込んでから最後は127キロの変化球で空振りの三振に打ち取った。
「左投手に需要があることに加え、最速は137キロしか出ていなかったが、腕が遅れて出てくるフォームのため打者はタイミングを取り辛い。スピードガン表示以上の体感があったと思う。外角のスライダーで空振りも取れていた点と22歳という若さも魅力。余裕のあるチームがあと数年成長を見守れるなら、声をかけていいのでは?」
 横浜DeNAは今オフの豪州ウインターリーグ参加をバックアップ。「少しでも長く大好きな野球をやりたいと思った」という高田は、すでにイースタンリーグに新規参入したくふうハヤテのトライアウトも受験している。
 2人目は楽天の右腕、清宮虎多朗(24)。実績のあるロッテの菅野剛士(31)を152キロ、153キロのストレートで追い込むと、高めに154キロのストレートを投じて空振りを奪う圧巻の三球三振。154キロはこの日参加した32人の投手の中では最速だった。続く西武の鈴木将平(26)にも150キロ台のストレートを連発。最後はフォークを一、二塁間に運ばれたが、強いインパクトを与えた。
 清宮自身も「シーズン中より良い状態じゃないかというぐらいに仕上げられた。いいアピールができたと思う」と納得していた。
「コンスタントに150キロ台をマークしていたし、実績のある菅野から高めで空振りを取れた点は評価できる。中継ぎで使えるイメージがわく。これだけの力があって戦力外になったのは制球力が問題なのだろう。経験を積み、また新たな指導者との巡り合わせでブレイクできないかなとの可能性を感じる」と松井氏。
 清宮は八千代松陰高から2018年の育成ドラフト1位で楽天に入団し、2023年にはイースタンで22セーブをあげてセーブ王に輝き、最速161キロをマークして注目を集めていた。今季は4月に支配下登録を勝ち取ったが、3試合登板で結果を出せずに6年で戦力外となった。

 

 

 3人目は、ソフトバンクに二刀流の小林珠維(23)。トライアウトの1番目で緊張するマウンドに上がり、菊田から147キロのストレートで三振を奪うと、西武の高木渉(24)も147キロのストレートで連続三振。打者としては4打席立ち、1安打だったが、巨人の川嵜陽仁(21)からライトを襲う強烈なライナーを放ち、オイシックスの陽岱鋼(37)が処理に戸惑ったこともあり、二塁打にした。
「素材としては面白い。投手としてはストレートで押し込めていたし、打者としてはブランクがあったそうだが、参加選手の中ではスイングの鋭さが一番目立っていた。声がかかったとしても育成契約だろうとは思うが、まだ23歳。日ハムや3軍のある巨人あたりが彼の可能性に目をつけても不思議ではない」
 松井氏は、そう評価した。
 小林は、東海大付札幌高から2019年のドラフト4位で入団し、最初は内野手としてスタート。2軍で結果が出せず、2022年オフに戦力外通告を受けて育成で再出発して二刀流に挑戦し、2023年は3、4軍戦で投手として36試合で1勝3敗2セーブ、防御率3.31、打者としては91試合で打率.260、6本塁打、11盗塁、27打点の成績だったが今季は投手に専念して結果を残せず2度目の戦力外となった。
 最後の4人目は、広島の右腕の内間拓馬(25)だ。楽天から現役ドラフトで広島に移籍して2軍で29試合、1勝2敗、防御率4.00だったが、2023年の現役ドラフト組でただ一人だけ1軍の出場機会がなかった。この日は、菊田に初球の147キロのストレートをレフト前に運ばれ、続く高木にはフルカウントから四球を与えてしまったが、チェンジアップやフォークなどの多彩な変化球も披露した。
「しっかりと腕が振れているので、チェンジアップなどの抜き球に打者が反応してしまっていた。彼も中継ぎのイメージだが、ブルペンの層を厚くしたいチームでは需要があるのではないか」
 また松井氏は、「アピールをしたとまでは言えなかったが、チーム事情によっては、バックアップの強化という狙いで取るところが出てきてもおかしくない」と、評価したのが、ヤクルトの捕手、西田明央(32)と中日の左の外野手、三好大倫(27)の2人だ。 西田は今季24試合の出場に留まり、打率.136と結果を出せなかったが、第3の捕手としてカウントされた。
 中日の三好は、岡林勇希が怪我で出遅れたこともあり、開幕スタメンをゲットしたが、37試合、打率.220、0本塁打、4打点の成績で終わっている。

 

 

 一方で2015年のドラフト1位で2017年には12勝をマークして優勝に貢献した広島の右腕の岡田明丈(31)、ロッテで2022年に59試合に登板、防御率2.08、30ホールドを残して勝利の方程式を担った東條大樹(33)の2人についての松井氏の評価は低かった。
「肘の不安はほとんどない状況。全球ストレートを投げ切ることができた」
 そういう岡田は陽のアウトローに149キロのストレートを決めスイングアウト。続く巨人の左打者の前田研輝(25)もストレートでショートゴロに打ち取った。だが、松井氏は、「若い投手が多い中で、別格の投球を見せたが、まだ戻りきっていないという印象を受けた。全球ストレートで勝負していたが、押し込めていない」という見解。岡田は、2021年にオフにトミー・ジョン手術を行い、今季は1試合も1軍登板はなかった。
 本拠地ZOZOでひときわ歓声が大きく、ロッテの吉井理人監督もベンチから見守る中で登板した東條は、最速147キロをマークして巨人の加藤脩平(25)をセカンドゴロに打ち取ったが、続く広島の曽根海成(29)には右中間に三塁打を浴びた。
「2年前と比べるとキレとスピードが物足りない。おそらくスライダーをマークしていたはずの曽根にストレートを打たれた。彼の武器であるスライダーはやはりストレートの力があってこそ生きるが、そこが戻っていない」
 松井氏の見立ては厳しかった。
 大阪桐蔭高時代に甲子園で春夏を連覇。2018年のドラフト5位で日ハムに入団した大型右腕の柿木蓮(24)も「アピールができなかった組」の一人。菊田からスライダーで三振を奪い、三好もレフトフライに打ち取ったが、「ストレートは142キロ前後しか出ていなかったし、まとまりすぎている。打者にとって嫌なボールがない。すべてが中途半端」と、松井氏は辛辣な意見。
 また野手では、ロッテの菅野が自慢の選球眼で2四球を選び、走者一塁で、一塁手がベースにつくことで空いた一、二塁間を狙ったヒットや、同僚の吉田凌(27)から、ライト線に二塁打を放ち、アピールに成功したように見えたが、松井氏は、「契約するなら代打要員だが、長打はなく、なかなか獲得し辛い選手」という。
 4打席立ち、2三振でノーヒットに終わった37歳の陽についても「今年はオイシックスでプレーしたので各球団の編成はしっかりと見ている。まだいけると判断するなら、7月末の期限で声がかかっているはず。年齢も含めて、納得させるだけのものをアピールできなかった」という意見。
 トライアウトからNPB復帰のハードルは高いが、くふうハヤテ、オイシックスのファームにだけ参加しているチームや、独立リーグなどを含めると、70%近い選手が、なんらかの形で野球を続けることができているのが現状。そこからチャンスをつかむ可能性も残っている。吉報を手にする選手は果たして…。

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