「悪循環に陥った最悪のホークス」なぜソフトバンクは歴史的打撃不振で横浜DeNAに3連敗を喫して崖っぷちに追い込まれたのか…最強軍団を襲った“ジャッジ病”とは?

 日本シリーズの第5戦が10月31日、福岡のみすほPayPayドームで行われ、横浜DeNAがソフトバンクに7-0で圧勝して、対戦成績3勝2敗で26年ぶりの日本一に王手をかけた。ソフトバンクは26イニング無失点と打線が沈黙。中継ぎ陣も踏ん張りきれず投打が嚙み合わないまま3連敗を喫した。11月2日の第6戦から舞台は再び横浜スタジアムに戻る。

 ジャクソンの力投と配球に翻弄される

 玄界灘に面したみずほPayPayドームがどこの本拠地かわからなくなった。
 7点を追う9回。最後の打者、牧原がセンターへ打ち上げた力のない打球が途中出場の神里のグラブに収まると、レフトスタンドのベイスターズ応援団から勝利の凱歌が流れた。ソフトバンクが0-7のワンサイドで敗れた。
「もう負けられなくなった」
 スポーツ各紙の報道によると「日本シリーズは3つ負けられる」と語ってきた小久保監督は、そう2度、繰り返したという。
 敵地の横浜DeNAで連勝。貯金42でリーグ優勝したチームと、巨人に8ゲーム差をつけられ3位に終わったチームとの差を見せつけ、福岡の3戦で一気に勝負を決めると思われていた。その最強軍団が地元福岡でまさかの3連敗。しかも、2試合連続の完封負けで、第3戦の初回に近藤のタイムリー二塁打で得点を奪って以来のゼロ行進が26イニング続いた。実に1958年の巨人以来66年ぶりの日本シリーズでのワーストタイ記録である。
「悪循環に陥った最悪のホークス」
 ソフトバンクの野球に詳しいチームOBで評論家の池田親興氏はそう評した。
 打てないだけでなく、4回には、3番手の前田純が、眠っていた牧の目を覚めさせる3ランを浴び、9回にはシーズンの終盤に調子を落としていた津森に回跨ぎをさせてつかまり、木村光を投入したが、止めきれず手痛い追加点を許した。 
「誰もこんな展開を予想できなかったのではないか。シーズン中も約1か月間、山川がスランプに陥るなど、個々の選手が打てなかった時期はあるが、近藤がカバーしたし、打線全体がここまで打てなくなるのは初めてのこと。加えて中継ぎ陣も藤井、松本裕を怪我で欠いていることが響き、後手に回っている。投打の悪循環が起きている。対する横浜DeNAは元々打線は怖かったが、先発の東、ケイ、ジャクソンが頑張り投手力で3連勝した。これも想定外の出来事」
 なぜレギュラーシーズンでチーム打率.259、607得点、114本塁打の3部門でリーグトップに君臨したソフトバンク打線が大スランプに陥ったのか。
 この日は中4日で2度目の対戦となったジャクソンに7回まで108球3安打8奪三振の無得点に抑えられた。
 池田氏は「ソフトバンクは打てなかったが、それ以上にジャクソンの投球、配球も素晴らしかった」という。

 

 

 ジャクソンは、立ち上がりから飛ばした。小久保監督が1番に抜擢した4年目の“ギータ2世”笹川、柳田、栗原を三者連続三振に仕留めた。笹川は全球ストレートの3球で見逃し三振。柳田はストレートでカウントを整えられカットボールに空振り、栗原も154キロのストレートにスイングアウト。この回ボール球は1球だけ。
 そして3回には、二死二塁のピンチで栗原に6球連続でチェンジアップを投じて最後はボールゾーンに落としてバットに空を切らせた。
「序盤はストレートで押して中盤からはチェンジアップを軸とした変化球で打たせて取る投球に切り替えた。ソフトバンク打線にストライクゾーン勝負を意識させておいたので、低めに落とすチェンジアップが効果的だった。打てずに焦るソフトバンクの打者心理の裏をうまくついた」
 一方のソフトバンク側から分析してみると池田氏は「昨日のケイもそうだが、相手は、“いけるところまで”と飛ばしてくるのだから序盤にできるだけ球数を投げさせる必要があった。大関が2回で58球も要したのと対照的だった」と指摘した。
 池田氏が問題視したのは1点を追う3回の攻撃だ。
 先頭の周東がヒットで出塁したが、ジャクソンはクイックが得意でないにもかかわらず笹川の打席で仕掛けることができず、笹川もライトフライに終わり得点圏に進めなかった。続く柳田の打席で盗塁を決めたが、結局、柳田、栗原が倒れて、無得点に終わった。
「ジャクソンは牽制を入れたり、セットのタイミングをずらしたりしていたが、笹川への初球はチェンジアップだった。周東のタイミングが合わなかったのかもしれないが、タイムリーが出ないのであれば、盗塁、バントで一死三塁の局面を作っておくべきだった。逆に横浜DeNAには、4回に無死一塁から梶原にエンドランを決められ、牧の3ランにつなげられた。ベンチワークもうまく機能していない」
 第2戦で先制2ランを放ち、3安打3打点の活躍をした4番の山川は、第3戦からノーヒット。3番の栗原、5番の近藤も、第4戦、第5戦はノーヒット。クリーンナップが沈黙していれば、26イニング無得点も無理はない。
 池田氏は、打線不振の根本的な理由をこう分析した。
「打ち気に走り、栗原、山川、柳田らは、強くバットを振ることを意識するあまり、ボール球を追いかけるパターンに陥っている。ワールドシリーズでヤンキースのジャッジがボール球を追いかけてスランプに陥ったが、あれと同じパターン」

 

 

 ドジャースの優勝で終わった海の向こうのワールドシリーズでは、大谷翔平との両リーグ2冠王対決として注目を浴びたヤンキースアーロン・ジャッジが第3戦まで7三振の打率1割台とスランプに陥った。体が開き、外角のボールになる変化球に手を出す悪循環に陥り、ドジャースも徹底してそのゾーンをついてきた。シーズン中に変化球に対する打率が.258あったが、シリーズでは.071まで落ち込んだ。池田氏は、強打者だからこそ陥る“ジャッジ病”にソフトバンク打線も感染していると評した。
 7回に2つの四死球でジャクソンが崩れかけ、一死二、三塁のチャンスをつかんだが、代打の嶺井は、フルカウントから見送ればボールの外角のスライダーに手を出して三振。続く周東もボールゾーンのチェンジアップを引っ掛けてセカンドゴロに終わりヘルメットをフィールドに叩きつけた。
 崖っぷちのソフトバンクは、2日からの横浜スタジアムに舞台を移す第6戦、第7戦でV字回復を果たし、連勝で大逆転の日本一を手にすることができるのか。
 池田氏の見立ては「王手をかけて勢いに乗る横浜DeNAが有利」と厳しい。
「打つだけでなく、守りでもガッツあふれるファインプレーでチームを引っ張る桑原に触発されたように、ここまで眠っていた牧、宮崎を目覚めさせたのもソフトバンクから見れば痛い。それと、もうひとつ逆風となるのが、雨模様の天気だ。横浜DeNAは、雨で土曜の第6戦が中止になれば大きなプラスとなる。おそらく先発で使う濵口のスライドなら故障明けの東を中4日から中5日に1日間隔を増やすことができるし、濵口を飛ばすのなら、東、ケイの2人を6戦、7戦と並べることができる」
 2日の天気予報は雨。横浜DeNAにとって先発の谷間だった第6戦が中止になれば、ソフトバンク打線をきりきり舞いさせた東とケイを中4日で続けて起用できる。
 セ・リーグでは史上初となるリーグ3位からの“下剋上日本一”に天気まで味方につくのか。一方のソフトバンクは第1戦、第2戦で勝利投手となった有原とモイネロをぶつけるが、点を取らないことには何も始まらない。
 池田氏は逆襲のキーマンに「柳田と山川」の名前をあげている。
(文責・RONSPO編集部)

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