なぜ横浜DeNAは2勝2敗のタイに持ちこめたのか…“イラ立ちサイン”封印した先発ケイとソフトバンクが露呈したブルペンの経験不足

 日本シリーズ第4戦が30日、福岡のみずほPayPayドームで行われ、横浜DeNAがソフトバンクに5-0で勝利して対戦成績を2勝2敗のタイに戻した。先発左腕のアンソニー・ケイ(29)が7回4安打7奪三振の無失点の好投を見せ、4番のタイラー・オースティン(33)、宮崎敏郎(35)に一発が飛び出して投打で圧倒した。なぜセ・リーグ3位からの“下剋上日本一”を狙う横浜DeNAは、貯金42で優勝した“最強”ソフトバンクを相手に五分に持ち込めたのか。

 データを駆使したシリーズ用の配球

 日本シリーズ恒例の勝利監督インタビュー。
 “番長”三浦監督が敵地でヒーローの名前を出して絶賛した。
「先発のケイがね。本当に抜群によかったと思います。真っ直ぐも変化球も、最高のピッチングをしてくれました」
 まさか7回までマウンドを守りゼロを並べるとは思っていなかったのだろう。
 ケイは飛ばした。いきなり柳田、周東、栗原と左打者3人を三者連続三振である。柳田と周東はストレートで追い込み、自慢のボールゾーンに曲がるスライダーで仕留めた。栗原は外角のツーシーム。ケイは3回をパーフェクト。4回に先頭の柳田に初ヒットを許すが一死となって栗原のセンターへ抜けてもおかしくなかったライナーを牧が横っ飛びでスーパーキャッチ。ケイを盛り立てた。
 レギュラーシーズンのケイの成績は、6勝9敗と負けが先行、防御率3.42で、与四球53はリーグでワーストの数字だった。とにかく一度、コントロールが乱れ始めると止まらない。マウンド上で明らかにイラ立つ姿を見せ始めると危険信号。
 某球団のスコアラーは、「いかにイライラさせるか。バッターボックスで、なかなかこっちが構えに入らないなどペースを乱して走者が出ると足でかき回す」と、ケイ対策を口にしていたことがある。
 だが、この日のケイは、一度としてそういう傾向を見せなかった。
 いや、ソフトバンクがイラ立たせることができなかったのか。
 四球は、わずかにひとつ。6回に先発で抜擢された4年目の“ギータ2世”笹川がレフト前ヒットで出塁して一死から盗塁に成功。周東は四球で歩いた。ケイのリズムが狂い始める条件が揃った。栗原にはファウルで4球粘られたが、ストライクゾーンに投げ続けた。我慢できなかったのは栗原の方。最後はおそらく見送ればボールの低めのスライダーに手を出させて、一塁ゴロ。次は、第2戦でシリーズ1号を放っている4番の山川だった。ブルペンではアンダーハンドの中川颯が準備していた。だが、三浦監督はケイを続投させた。ポストシーズンに入って早めの投手継投が目立っていた“番長”の我慢采配はズバリだ。
 初球のチェンジアップを山川は打ち損じた。センターフライ。三浦監督はケイに7回もいかせて先頭の近藤にヒットを許したものの後続を断ち、8回を坂本、9回をウェンデルケンとつないでの完封勝利である。
「今日は相手打線に左バッターを並べられていて、とても難しいラインナップではあったんですけど、そこを自分なりのピッチングをして勝つことができたのでとても嬉しく思っています」
 ケイは左腕だが、対右打者に打率.252、対左打者に打率.261で、右打者を得意としている。右打者が内角へ食い込むカットボール、スライダーに苦労するのだ。そのデータを洗ったソフトバンクは、スタメンに左打者を6人並べた。

 

 

 だが、ケイー戸柱のバッテリーはレギュラーシーズンとは違う配球を用意していた。投球の約3割を占めるカットボールを4回までは封印した。この間、カットボールが占めた割合は13%。そして5回には、先頭の近藤を追い込んでから裏をかいた153キロのストレートでスイングアウト。ケイは「トバさんのおかげ」と試合後に感謝の言葉を残したが、球界でトップクラスのデータ野球を駆使しているベンチと戸柱の共同作業の成果だった。
 一方のソフトバンクは中継ぎの問題を露呈した。
 今シリーズにリーグ優勝を支えたチームトップの23ホールド、14セーブ、防御率2.89の松本裕、19ホールド、防御率1.80の藤井皓、そして17ホールド、防御率2.13の津森が、故障などで間に合わなかった。杉山、ヘルナンデス、オスナの勝ちパターンはあるが、ビハインドの展開、あるいは、5、6回に継投が前倒しになった場合に彼らの離脱が響いた。大舞台の経験のない若手に頼らざるをえなくなり、小久保監督は、6回二死一塁で先発の石川に代えて、尾形をオースティンに当て、育成ドラフト1位から7年目にして急成長中の“剛腕”は堂々のストレートで三振に打ち取った。しかし、回跨ぎとなった6回に宮崎に制球をミスして、ど真ん中に投じたストレートをレフトスタンドへ運ばれ、さらに一死満塁のピンチを背負った。小久保監督は、好調の桑原を迎えたところでルーキーの岩井にスイッチしたが経験の少ない新人には荷が重かった。レフトオーバーの2点タイムリー二塁打を打たれ、二死満塁となってからオースティンにレフトへのタイムリーヒットを許した。
 ブルペン陣が踏ん張って逆転劇へつなげるというソフトバンクの勝ちパターンがシリーズでは演出できていない。ここからの戦いで不安の残る点だ。
 セ・リーグでタイトルを獲得した経験のある評論家は、「シリーズ男」を横浜DeNAの逆襲のキーワードにあげた。
「横浜DeNAには桑原というシリーズ男が出てきた。牧、佐野という逆シリーズ男がいるにもかかわらず、桑原と軸になるオースティンの2人でカバーできている。一方のソフトバンクには、今のところシリーズ男が見当たらない。第2戦で本塁打を含む3安打3打点の活躍をした山川が、そうなるのかと思ったが、福岡に帰っての2戦でバッタリと止まってしまった。また横浜DeNAは、戸柱、森といった下位打線が怖いが、ソフトバンクはいまだにシリーズでヒットのない8番の甲斐がブレーキとなって下位で打線がつながらない。打線は横浜DeNAが上で、不安視されていた先発投手陣に、第3戦で7回を1失点に抑えたエースの東、そしてケイと2人も孝行息子が出てきたのだから、逆襲するのも当然」

 

 

 横浜DeNAは27日の第2戦で連敗を喫した試合後にキャプテン牧の呼びかけで選手ミーティングを開いた。日本シリーズの経験者としてスピーチをを促された桑原が「悔しくないんか?」と魂のこもった檄を飛ばした。その桑原が1番打者として、この日も、3安打、2打点。シリーズ4試合で、打率.421、1本塁打、5打点と“シリーズ男”となっている。
 自打球で痛めた左足が心配された4番のオースティンも、DHの恩恵もあって福岡ではスタメン出場が可能となり、この日も4回に石川の投じたシュート回転の逆球を見逃さずライトへ先制の一発を叩き込んだ。シリーズの打率は.556と存在感を示し、打率.200と急降下しているソフトバンクの4番の山川とは好対照だ。
 また4試合のチーム防御率は横浜DeNAが2.50で、ソフトバンクが3.50。1点も違っている。これも予想できなかった展開だろう。
 今日31日の第5戦に勝った方が王手をかける。ソフトバンクの先発は大関で横浜DeNAは第1戦に先発するも5回途中で降板したジャクソン。大関は今季8勝4敗、防御率2.50の成績を残したが、9月18日の日ハム戦で6回開始前に左背部に痛みを訴えて緊急降板。左大円筋損傷と診断されて戦列を離れて以来マウンドに立っていない。中4日登板となるジャクソンは、第1戦で97球を投げ5回途中で2失点した。5四球と荒れたが、許したヒットは3本で失点は投手の有原に打たれたタイムリーに守備の乱れが重なったもの。攻略されたわけではない。
 いずれにしろ決着は、11月2日からの横浜スタジアムでの最終決戦でつく。
 三浦監督が目を輝かせて言う。
「(横浜に)必ず戻るっていう気持ちでやってました。まだ戻る前に明日もう1日ありますから。その1日を全員で全力を出し切れるように準備していきます」
 ハマスタでは再び「先発投手がいない」というピンチを迎えるのだが、王手さえかければ“下剋上日本一”へ突っ走る勢いがなんとかしてしまうのかもしれない。
(文責・RONSPO編集)

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