4年ぶりにV奪還の阿部巨人と球団初の連覇を逃した岡田阪神の何がどう違ったのか…フロントのバックアップ体制に温度差

 巨人が28日にマツダスタジアムで広島を8-1で下して4年ぶり39度目の優勝を決めた。一方、奇跡の逆転連覇を狙った阪神は神宮球場でヤクルトに2-7で敗れて、球団史上初となる連覇を逃した。巨人と阪神の差はどこにあったのか?

 阿部監督は監督の道筋を作ってくれた原前監督へ感謝

 「最高です!」
 マツダスタジアムに阿部監督の絶叫が響いた。
 現役時代同様に「最高です」の連呼を求めるような質問をしようとしたインタビューアーを「何回も言わせないでいいですから」とたしなめて「全員で行くぞっていうのはずっと言ってきたので、最高のゲーム。信じてよかった」と続けた。9月の激戦を勝ち抜いた理由を聞かれて「チーム力」と胸を張った。
 声が詰まったのはバトンを受けた原辰徳監督に話が及んだ時だ。
 2軍監督、そして1軍ヘッドと指導者の英才教育を経て、監督に就任したが、球団に強く訴え、その道筋をつけてくれたのが原氏だった。
「プレッシャーありました。原さんが指導者に導いていただいて良かったと思います。感謝しています」
 胴上げは現役時代の背番号と同じ10回。その輪に向かうとき阿部監督は泣いていた。
 午後9時20分。マツダスタジアムで、大勢が末包をセカンドゴロに打ち取り、ベンチで阿部監督が雄叫びと共に右手を上げたとき、神宮球場では、9回二死から阪神の最後の打者の佐藤が打席に入っていた。フルカウントからフォークを振って空振りの三振。これもどこか、今季を象徴するような終わり方だった。
 スポーツ各紙の報道によると「勝ちにいくけど勝負ごとやから負けることもある。6つ球団があって1つの球団しかうまいこといけへんねんから」と岡田監督らしい表現で連覇を逃したシーズンを振り返った。
 巨人と阪神にどこに差があったのか。大きく分析すると4つある。
 一つは守備力だろう。
チーム失策数は巨人がリーグ最少の「57」。岡本一塁、坂本三塁のコンバートが成功し、特に二塁の吉川の守備が安定していた。失策はわずかに5だ。
 対する阪神はリーグで5番目多い「84」(ワーストは横浜DeNA)。その象徴が27日の広島戦の延長12回に大山が犯したトスミスのエラー。しかも梅野のカバーが遅れるというミスも重なり、サヨナラへつなげてしまった。
 シーズンを通して目立ったのは三塁の佐藤のエラー。1人で23失策。巨人のチーム失策数「57」の4割を一人でやらかしてしまった。
 沖縄キャンプの前日のミーティングで岡田監督は「もう一度守備に重点を置く」と守りの大切さを説いた。佐藤には連日のように特守を課し、臨時コーチに招いたOBの鳥谷敬氏には、マンツーマン指導を依頼した。スローイング時の正しい体の向きやグラブさばきのクセを指摘した鳥谷氏の指導は中身があった。ただそれを継続できなかった。だ鳥谷氏との指導を受けていた時には集中していたが、それ以外の特守では、集中力に欠きただ消化しているだけの内容の薄いものも目立ち、馬場内野守備走塁コーチや岡田監督を苛立たせた。
 優勝した昨年は、ここ一番でのミスを撲滅できていた。内外野の連携や二遊間の併殺プレーなどのレベルが上がっていた。だが、今年はすべてが裏目になった。
そして一番の違いは打線だ。岡田監督は「打てんかったことや。前半の」と悔やんだ。
 トータルのチーム成績は、巨人が打率.246、454得点、80本塁打、阪神が打率.243、475得点、67本塁打。月間成績で見ると、巨人は序盤こそ、3、4月が打率.227、11本塁打、70得点、5月が、打率.230、12本、54得点と調子が上がらなかったが、チーム成績は3、4月は13勝12敗3分け、5月は13勝10敗1分けと貯金をキープしたのだ。

 

 

 対する阪神は、5月が213、9本塁打、65得点、6月が214、5本塁打、50得点と大スランプに落ち込み、チーム成績も、5月が10勝13敗1分、6月が9勝12敗1分けと借金を作った。この時期の勝ち負けが最終的な両チームのゲーム差につながった。特に森下、大山、佐藤という主軸が不振で、それぞれ2軍落ちを余儀なくされ、昨年の優勝を支えた不動の打順を動かさざるを得なくなり、近本に12試合も4番を任せた。その影響で安定していた近本まで6月の打率は.157まで落ち込んだ。
 阪神は夏場に入って徐々に打線の調子を取り戻し、打順も固定できるようになり、得点圏打率のランキングで、森下、大山、佐藤、近本らが上位を独占した。だが、9月の猛攻も間に合わなかった。
 打線の整備に関しては、フロントのバックアップ体制の違いが大きく影響している。巨人は、開幕前に新外国人のオドーアが退団するショッキングな出来事があったが、ヘルナンデス、モンテスを途中で獲得した。ヘルナンデスは怪我で9月の重要な時期にいなくなったが、打率.294、8本塁打、30打点で“助っ人”となったし、モンテスも37試合に先発起用され打率.274、1本、17打点の成績を残した。
 対する阪神は、2年目のノイジーがまったく成長を見せずに打率.231と低迷して6月下旬に2軍落ちすると重要な9月決戦の最中に帰国した。同じく2年目の成長に期待して残留させたミエセスも戦力にならなかった。岡田監督が強く新外国人獲得を訴えなかったのかもしれないが、そもそもフロントはオフに新外国人を獲得しておくべきだったし、ノイジーの不振が明らかになった時点で巨人のように途中で緊急補強に動くべきだっただろう。
 ある球団幹部は「うちが欲しいのは一発のあるタイプで、巨人のヘルナンデスのようなタイプではない。ただご存じの通りメジャーのマーケットも人材不足で候補選手がいない」と説明していた。阿部監督は「全員がひとつの方向を向いていた」ことを優勝の要因にあげたが、何が何でも勝ちにいった巨人のフロントと岡田監督に“おんぶにだっこ”だった阪神のフロントの温度差が明暗を分けたと言っていい。
 阿部監督は優勝インタビューで「菅野が凄く引っ張ってくれているのが見えていた。それに戸郷やいろんなピッチャーが何とか切磋琢磨してやってくれた」と菅野の名前を出した。
 岡田監督も「やっぱり菅野やろ。あれだけ貯金をつくったことが大きい。そこに尽きる」と菅野の存在を口にした。
 15勝3敗、1.67の数字を残して軸となった菅野は、昨季になかったプラス戦力であり、チームリーダーの役割を果たした。中4日で9月22日の阪神戦に登板して負け投手にはなったが1人で投げ切った。大城が不甲斐ない守備をすれば容赦なく叱咤し、若手投手に声をかけ、戸郷は、菅野に引っ張られる形で12勝8敗、防御率1.95の数字を残した。

  

 一方の阪神は、昨季10勝6敗、防御率1.75で、防御率タイトルとMVPを獲得した村上は7勝10敗と負け越した。リリーフで延長11回から投入された27日の広島戦のように守備のミスに足を引っ張られてリズムに乗れなかった試合も少なくなかった。武器であるナチュラルにスライダー回転するストレートが思ったように動かなくもなった。 
 現役ドラフトで新戦力としてソフトバンクから加わり12勝2敗、防御率2.26の成績を残して優勝のプラス戦力となった大竹は、今季も10勝7敗と奮闘はしたが、昨季のような不敗神話は作れなかった。
 13勝3敗、防御率1.61の才木が、球界を代表するエースとしてチームを引っ張ったが、年齢的にはまだ菅野のようなリーダーシップは取れない。後半に4勝1敗の成績を残した高橋というプラスアルファは出てきたが、怪我明けとあって中6日ではローテーに組み込むことができなかった。
 先発のポテンシャルで言えば、巨人は菅野、戸郷、グリフィン、山崎に続く5人目から井上などで、やりくりしなければならなかったが、阪神は枚数が揃っていた。
 中継ぎに関しても、阪神は、石井、桐敷、ゲラ、岩崎と勝利パターンが固定されていたが、巨人は、バルドナード、大勢につなぐイニングは日替わりでしかも体勢は途中に戦線離脱もした。だが、最終的なチーム防御率は巨人が2.47のリーグトップで阪神が2.50で2位だった。
 野球はバランスである。投手力を生かしきれず投打がチグハグだった阪神と、そこが見事に噛み合った巨人。それが143試合のペナントレースの戦いなのだ。
 そして最後に伝えたいのは追われるものの立場の違いだ。巨人は今キャンプで徹底してデータなど18年ぶりのリーグ優勝を果たした“虎の強さ”の理由を洗い直す分析作業に没頭した。阿部監督の号令のもとで行われたものだが、過去に巨人軍がやったことのない1点集中型の研究だった。
 阿部監督は明確にライバルを阪神として設定していたのだ。明らかに阪神のサインが読まれているというシーンも何度かあった。
 対する岡田監督も開幕前から巨人を仮想ライバルと考えていたが、途中は広島との三つ巴にもなり、連覇を狙うチームゆえにターゲットを絞りきれなかった。
 だが、まだクライマックスシリーズへ巨人―阪神の戦いは続く。阪神はファーストステージを勝ちぬかねばならないが後半戦にチームの形を取り戻した。
 神宮球場のファンに挨拶して、出口へと向かう岡田監督に、レフトスタンドの虎党から大きな「岡田コール」が起きた。

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