「まだわからん。監督の阿部が緊張しているようじゃ勝てない」坂本勇人に“引退勧告”の巨人OB広岡達朗氏は“最後のTG戦”での意地の決勝打とマジック4のV展望をどう見る?

 巨人が23日、甲子園で今季最後の阪神戦に1-0で勝利してマジックを4に減らした。決勝タイムリーを放ったのは、前日に大ブレーキとなりスタメンを外れた坂本勇人(35)。“引退勧告”を突き付けていた巨人OBでヤクルト、西武で監督を務めた広岡達朗氏(92)はこの試合をどう見たか。そして“球界大御所”が占う今後の展望とは? 巨人は最短で27日にも4年ぶりのリーグ優勝が決まる。

 「6億円の代打なんかいらない」

 巨人が阪神に強烈なしっぺ返しをした。前日に「0-1」で敗れたスコアをそっくりそのまま裏返して「1-0」勝利。そして決勝点を奪い取ったのは、前日3度の得点機に凡退して大ブレーキとなりスタメンを外れていた坂本だった。
 中4日登板で臨んだ巨人のグリフィンが、6月から覚えてスライダーで阪神打線にあと1本を許さず、度重なる手術から復帰して4勝0敗の阪神の高橋が、6回まで2安打無失点。その緊迫の投手戦にドラマが生まれたのが7回。吉川、岡本の連打で無死一、三塁となると、阿部監督は、2打席三振に倒れていた大城に代えて「昨日悔しい重いをしていると思う」と「代打坂本」をコールした。
 坂本はカウント1-2と簡単に追い込まれた。だが、そこでバットを短く持ち、ノーステップ打法に変えた。リーダーの執念が外角の149キロのストレートに食らいつかせた。打球はライト前へ。勝負を決める決勝タイムリーとなった。
「昨日大事な試合で僕が全然打てなくて負けてしまった。今日また代打でああいう場面で回してくれたチームメイトにすごく感謝の気持ちを持ちながら打席に立った。追い込まれていたので最後はステップをせずにいった。何とかバットに当てて何か起きてくれと思いながら最後は気持ちで打った」
 坂本が、そう素直な心情を吐露すると、阿部監督も「最後信じて良かった」とプライドを結果に代えたベテランの一打を賞賛した。巨人はその1点を回跨ぎのケラー、バルドナード、大勢とつないでの完封リレー。追いすがる阪神とのゲーム差を2に戻して優勝マジックを「4」に減らした。
 巨人OBの広岡氏は、前日のチャンスで、ストレートに差し込まれ、2度、セカンドフライを打ち上げた坂本に“引退勧告”を突きつけていた。
「なんという体たらくだ。狙っているストレートが打てないのは、体幹がフラフラしていてバランスが取れないから右肩も下がりバットが振れないのだ。才木の力のあるストレートを当てにいって弾き返せるわけがない。坂本は、いったい何億円の年俸をもらっているんだ?体調が悪いとかどうとかの問題ではない。あんな体じゃプロ野球選手は無理だ。おそらく今日の試合を見たファンの皆さんが思っているだろうが、もう潔く辞めた方がいい。自然の摂理、つまり年齢からくる体力の衰えには勝てないということだ」
 それは辛口の広岡氏流のチームリーダーへの“奮起せよ”とのメッセージだった。
 広岡氏は、坂本の意地の一打をどう見たのか?
「まずあの無死一、三塁の場面で岡田は、内野をバックホームではなく、アウトカウントを増やす併殺狙いのシフトを敷いていた。まだ3回攻撃があるから1点なら返せると思っていたのか。その意図がわからない。もう7回で1点が勝負を決める展開。あそこはバックホーム態勢を敷いておくべきだったし、坂本はボールに当てて転がしさえすれば、何とかなると考えを切り替えたのだろう。あの一打で私の坂本への評価は何も変わらない。力強いスイングができていない。6億円の代打などいらないだろう。賞味期限が切れた選手であることは変わらない」
 相変わらず手厳しい意見。

 

 

 それでも「巨人はよく守りきった。コロコロと打線や守りを変えるにはいただけないが、やはり最後に勝ち切るのは投手力だ」と評価した。
 マジック4の巨人は残り6試合。25、26日の横浜DeNA戦、27日の中日戦に3連勝し、27日に阪神が広島に敗れれば4年ぶりの優勝が決まる。ただ巨人は25日から5連戦で、移動日なしで東京ドーム→マツダ→神宮の日程が組まれていてハードだ。
 一方の阪神は残り5試合。全勝して巨人の結果を待つしかない。全勝すれば、巨人が3勝3敗で逆転V。1敗なら巨人が2勝4敗、2敗なら巨人が1勝5敗で逆転Vの可能性がある。数字上は絶望的だが、何が起こるかわからない。
 今後の展望について広岡氏は「もう巨人が圧倒的に有利になった。阪神との直接対決がないのならなおさら有利だ。しかし、まだわからん」とコメントに含みを持たせた。
「マジック4になり、もうゴールが見えているように感じるかもしれないが、ここからプレッシャーがかかる。私もヤクルトの監督時代にあと1勝が勝てずに生みの苦しみを味わったことがある。ベンチで映る阿部の姿を見ていると緊張が伝わってきた。指揮官が緊張しているようじゃチームは勝てない。就任1年目で仕方がないのかもしれないが、そういう姿を見ているから、まだわからんぞと、言うのだ」
 スポーツ各紙に報道によると、阿部監督は「心臓が飛び出そうだった」と緊張しながら采配をふるっていたことを打ち明けている。
 広岡氏は、阪神が残り試合を全勝、あるいは4勝1敗で巨人にプレッシャーをかけるには「佐藤がポイントになる」という。
「佐藤が打たなきゃ阪神の逆転優勝はない。岡田はよく我慢していると思う。こんな大事な試合で平気な顔をしてボール球を振って三振している佐藤を私なら黙っていない。とにかくボール球を振らないこと。そして夏場にできはじめていたセンター返しをもう一度徹底することだろう」
 佐藤は、この日、前日の坂本同様に大ブレーキとなった。
 1回二死一、三塁の先制機にグリフィンの外角のボールゾーンに曲がるスライダーに手を出して三振。3回二死三塁でも同じパターンで連続三振。6回無死二塁の得点機にも2番手のケラーに抑え込まれセンターフライに終わっていた。
 広岡氏が言う。
「監督の力で言えば、やはり岡田が上。そして投手力にも余力がある。繰り返すが、数字上は、もう巨人だが、私がまだわからんというのは、そこのところと、巨人のプレッシャーを考えてだよ」
 まだペナントレースは終わっていないのである。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)

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