巨人にバント攻撃で狙われた「下手になった」阪神の“サトテル”…痛すぎる雨天コールド負けと狂った“ミラクル逆転Vのシナリオ”

阪神が雨天コールドで痛い黒星を喫した。甲子園で行われた阪神と巨人との23回戦は天候が悪く7回終了時点で雨天コールドとなり1-3で敗れた。7回には佐藤輝明(25)がバント攻撃で狙われ両リーグを通じてワーストとなる今季21個目のエラーを犯すなどのミスが勝敗を分けた。残り22試合で首位の広島とのゲーム差は今季最大の「5.5」に広がった。もう逆転Vへ“狂ったシナリオ”の修正は難しいのか。

 バッテリーにも細心の警戒がなかった

「佐藤は下手になっている。いったいコーチは何を教えているのか?佐藤にエラーが多いのはコーチの責任。そこを強く言いたい」
 巨人OBで、ヤクルト、西武では監督として日本一も経験、早大野球部では岡田監督の大先輩となる広岡達朗氏がそう厳しく指摘した。
 無情の雨で降雨コールドとなった甲子園。
 守りのミスが致命傷となった。
 1-1で迎えた7回だった。大城の三塁の右に飛んだライナー性の打球を佐藤はグラブの先に当てながらも捕れなかった。記録は強襲ヒット。もちろん捕球すれば超ファインプレーではあるが、球際への集中力を高めていればアウトにできなくはない打球だった。
 巨人の阿部監督は代走の増田大を送り勝負に出た。雨天コールドを念頭におき1点を取りにきた。吉川は、バントのそぶりを見せず、初球にセーフティバントを仕掛けてきた。三塁佐藤のポジショニングと、チャージをかけにきていない様子を見て三塁側を狙ってきた。佐藤は素手で捕球して一塁へ送球したが、それが吉川の足に当たってファウルグラウンドに大きくはねた。増田は一気に三塁へ。内野安打と佐藤に今季21個目となるエラーが記録された。
 雨でぬかるんだグラウンドで打球は死んでいた。アウトにするのは難しかったのかもしれないが、三進させたのが余計だった。代走の増田がコールされた時点で吉川のバントは予測できた作戦だったが、佐藤の準備もベンチの指示も徹底されていなかった。
 21失策はセ、パを通じて断トツのワースト。昨年の20失策をこの時点で上回ってしまった。ちなみにセ・リーグのワースト2位がヤクルト村上、そしてこの日初回に“お手玉”をして失点のきっかけを作った門脇の14個となっている。
 無死一、三塁となって、その門脇は初球にバントの構えをした。投球がボールになるとバットを引いた。セーフティースクイズのサインだったのだろう。2球目にも続けてセーフティーバントをしてきたが、一塁線を狙ったバントはファウルになった。阿部監督は続く3球目に三塁走者の増田にスタートを切らせた。今度はセーフティスークイズではなくスクイズだった。だが、西勇が機転を利かせて高めに速いボールを投げたためファウルとなり失敗させた。
 カウント1-2となり、巨人ベンチのサインは強行に切り替わったが、ここで阪神バッテリーは細心の注意に欠いた。ボール球、あるいは、変化球で誘っていい場面で、ツーシーム系のストレートが甘く入り、前進守備を敷いていた中野が必死に飛び込んだ横を勝ち越しタイムリーがゴロで抜けていった。
 門脇に対しては、第1打席、第2打席と全球変化球を駆使する配球でレフトフライ、セカンドフライに打ち取っていた。

 

 さらに無死一、三塁と続くピンチに小林がまた初球にセーフティースクイズを敢行してきた。そして小林が狙ったのは、またしても佐藤だった。嫌らしいほど阪神のウィークポイントを突いてきた。セーフティースクイズが考えられるケースで佐藤のポジショニングもチャージも甘かった。明らかな準備不足。佐藤はホームへグラブトスしたが梅野はタッチもできなかった。記録は佐藤のフィルダーチョイス。バッテリーも初球からまったくの無警戒で簡単にやらせすぎた。セーフティースクイズを防ぐ配球もあるのだが、それを実行できていなかった。
 西が、菅野にバントを失敗させ、桐敷、石井とつないで追加点を許さなかったが、雨がどんどん強くなっている天候状態を考えると痛恨の2失点となった。
 今季の巨人は連覇を狙う阪神の“裏も表”も徹底マークしてきた。東京ドームでは、阪神の攻撃のサインが見破られているような傾向が見えたし、エースの才木が初回に5連打を浴びた前日の試合はクセを盗まれているような兆候も見られた。そして守備のウィークポイントである佐藤を徹底的に狙ってきたバント。それが追われるチームの宿命なのだろう。対戦成績は、11勝11敗1分けのまったくの五分だが、阪神が後手、後手に回ってしまうパターンが目立ってしまった。
 台風10号の影響で8月30日の巨人戦が中止となり、今回は2連戦となった。2連戦の戦い方は、上位チームと下位チームではまったく違う。連勝すればゲーム差は「2」縮まるが、1勝1敗では「0」。上位のチームは、1勝1敗でOKだが、下から追いかけるチームは連勝が必須条件だった。
 岡田監督は甲子園に戻って戦えるこの8月末の巨人戦を前に首位とのゲーム差を「3」にしておくことを逆転Vへの最低ラインとして見積もっていた。そのシナリオは横浜DeNA戦での連敗で狂い、「5」となったが、巨人戦に連勝していれば、巨人とのゲーム差は「3「となり、ワンカード遅れながら、まだシナリオの修正のきく状況にあった。それだけにあまりにも痛い敗戦…。
 岡田監督が、台風余波で悪天候が予想された中で試合を決行した判断と、審判団が下した途中打ち切りに“恨み節”を口にしたのも無理はない。
 残り22試合。数字上、自力Vと自力2位が消滅しているように、広島と3試合、巨人とは2試合しか残っておらず、他力本願である状況に変わりはない。Vラインを78勝と想定すれば、残り22試合を19勝3敗という驚異的な勝ち方をしなければならないのだが、岡田監督が言うように「1戦、1戦勝っていく」ことに集中するしか手はないだろう。勝率のいい甲子園で13試合残っているのが、せめてものアドバンテージ。2番の中野が2安打するなど復調の気配を見せたのも好材料。
 広岡氏がこう提言する。
「戦いをCS出場狙いに切り替えるような真似はしてもらいたくない。佐藤だけでなくチームとしてのミスがあまりにも多い。打てないのは巨人も一緒。昨年阪神が築いた野球を取り戻さねばならない。投手陣を軸にした守り勝つ野球だ」
 4位の横浜DeNAとは1.5差だが、まだ後ろを振り向くのは早い。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)

ジャンルで探す