「ほぼ100%、巨人に行くと思っていました」24億のオファーを蹴って大山悠輔(29)が阪神に残留した理由は?「鳥谷のときと同じことを…」

 阪神から国内フリーエージェント(FA)権を行使していた大山悠輔内野手(29)が、チームに残留することが11月29日に発表された。打線強化を目指す巨人が獲得に乗り出し、両球団間のFA移籍が実現すれば史上初と注目を集め、大山の関東志向などを理由に巨人移籍が有力視されていただけに、大方の予想を裏切る形での決着となった。

【写真】移籍が噂される相手チームの監督・主力選手が交渉中から歓迎メッセージを出す異例の事態だったが…

 大山は兵庫県西宮市の球団事務所で残留を表明し、「これまで同様、しっかり覚悟を持って戦っていきたいと思いますし、まずは来シーズン優勝を勝ち取れるように、チームに貢献できればと思います」と決意を示した。主砲の宿敵への流出回避に虎党が胸をなで下ろした瞬間だった。

大山悠輔©文藝春秋

 何が大山の最終判断の決め手になったのか。複数の球界関係者の話を総合すると、交渉中に「阪神にあって巨人になかったもの」が見えてきた。

「ほぼ100%、巨人に行くと思っていました」

 阪神と巨人の試合は「伝統の一戦」と呼ばれ、長年にわたって宿敵同士の関係にある。それだけに、両球団間の移籍はタブー視されてきた。巨人から阪神へ、阪神から巨人へFAで直接移籍した選手はかこに1人もいない。

 一方で、大山のプロ入りからの歩みを振り返ると、阪神との相性が良かったとは言えないのが実情だ。入団時から「史上最悪のドラフト」と言われ、茨城県出身のためプロ入り後も関西のファンやメディアの空気が合わないと囁かれてきた。

 還暦を過ぎたある球団の元監督はこう語る。

「ほぼ100%、巨人に行くと思っていました。大山が阪神で味わってきた屈辱感や違和感は新天地を求めるに十分な根拠になるもの。ファンを巻き込んでの両チームのライバル関係も、われわれの現役時代ほど強いものでなくなっていましたから。ついに阪神から巨人への移籍選手が現れるのを見てみたい気持ちもありました」

 確かに大山の巨人移籍への機運は醸成されつつあった。阪神の藤川球児監督も、大山がFA権を行使した際に「彼らが選択する権利。裏切りみたいな印象は違う。それを変えていきたい」と、時代が変わったことを強調しながら一定の理解を示していた。

 獲得を狙う巨人側も意欲を隠さず、阿部慎之助監督が「うちに来て、世紀の大FAの先駆者になってほしい」とラブコール。さらに坂本勇人内野手が「大山くんはいい子なので来てほしいなと思います」と言えば、岡本和真内野手も「同じ右打者として高め合いたいなと思います。チーム内で競い合いたい」と異例の言及。

 山口寿一オーナーまでもが「(巨人は)最も歴史のある球団。責任が大きいと自らが思っているし、愛も深いと思っています」とアピールするなど、まさにチームとフロント一体となって禁断のFAへの障害を取り除こうと躍起になっていた。

阪神が「監督手形」を切ったのではという憶測も

 阪神はレジェンド鳥谷敬らに並ぶ球団史上最長の5年総額17億円を提示したが、巨人はそれをはるかに上回る6年総額24億円超を提示。その渦中、大山は11月25日に開催された阪神球団の納会を欠席した。数々の状況証拠が巨人移籍を示唆していたのだが……。

「巨人は引退後についても、これまでFA移籍選手と同じに、コーチなどで残すことを保証していたようです。それでも、大山は巨人移籍に踏み切れなかった。藤川監督が理解は示しても、巨人への移籍となれば阪神ファンの反発は容易に想像できます。特に甲子園でのプレーにはとてつもないプレッシャーがかかっていたでしょう。とはいえ、残留を決断するには何か決定的な『条件』があったのではないかと言われています」

 在京球団の編成担当はこう指摘しつつ、「監督手形」が切られたのではないかという。つまり引退後の、監督の座を約束したというのだ。

 阪神は2014年オフ、海外FA権を行使した鳥谷がメジャー挑戦か残留かで揺れていた時期に、将来的な監督就任を約束したとされる。

「最終的には突き返されたようですが、チームはなんとしてでも慰留しようとしました。鳥谷も大卒の生え抜きキャプテンで、大山も同じ。チーム内では主力選手の域を超え、他選手への影響力が強い。既に監督の資質も認められているだけに、監督の座を約束しても不思議ではありません。残留コメントで阪神への愛着を強調した大山の言葉からは、今後も長くチームの一員として活動していく覚悟も窺えたので、その可能性は高いです」

 ならば巨人も監督手形を切る手はなかったのかとなるが、「それだけはできないでしょうね」と前出の元監督は断言する。

「生え抜きのエースと4番しか監督になれない」という巨人の不文律

 巨人には、生え抜きのエースと4番しか監督になれないという不文律が存在する。阿部監督が指揮を執る現在まで、創設から90年にわたって頑なにその伝統を守っている。

「これだけ選手の移籍が活発になっているのですから、いずれ外様の選手が監督になる時代が来るかもしれませんまた、そうでもしないと、巨人がFAの移籍先に選ばれないようになる。それでも今はまだ外様から監督になった人はいない、大山に対しても、コーチ止まりで監督の座は約束できなかったのではないでしょうか」

 プロ野球選手は、引退後の人生の方がはるかに長い。大山も長期的なビジョンを持っていないはずがない。チームに対する愛着や熱狂的なファンの存在、さらに宿敵のユニホームを着て甲子園でプレーすることへの抵抗感以上に、セカンドキャリアでのアドバンテージで阪神に軍配が上がったのかもしれない。

(木嶋 昇)

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