Office8次元がいざなう、ダークかつ艶めかしい耽美な世界。『春鶯囀』観劇レビュー

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:黒木早紀子

Office8次元は、主宰・俳優・演出の淺場万矢と、俳優・衣裳家の今井由希の演劇ユニット。
「温故知新」をキーワードに、主に文学作品を原作に、現代の事象と掛け合わせての舞台化などを積極的に行っています。その最新作は、谷崎潤一郎が描き出す耽美な世界『春琴抄』を原作とした『春鶯囀(しゅんおうてん)』。
初日を迎えた7月11日(木)にゲネプロを拝見したので、観劇レビューをお届けいたします。

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

【あらすじ】
明治19年、盲人の三味線奏者・鵙屋春琴(淺場万矢)の⾨弟・温井佐助(斉藤悠)は、同じく⾨弟・鴫沢てる(歩夢)と家を出た折、烏に目玉をくり抜かれ木から落ちた若い鶯(松本真依)と出くわす。

佐助に拾われ一命をとりとめた若い鶯は春琴の家で飼われることとなるが、既にその家で飼われていた老鶯(木下祐子)から、自分の鳴き声と名前を継ぐよう迫られる。初めはこれを拒否した若い鶯であったが、春琴の三味線の技と老鶯の美しい声に魅了され、徐々に芸道にのめり込んでいく。

三味線弾きの家の⿃籠で⾏われる“鳴き方指南”は、春琴が⾨弟たちにつける厳しい稽古に酷似していた。その最中で若い鶯は主・春琴と⾨弟・佐助、⼆⼈の数奇な⼈⽣を知ることとなる……。

※本作品中には、一部、現在の社会通念や今日の人権意識から照らして不適切な表現や語句、差別的表現が使われていますが、これは劇中当時(1837~1887年)の時代的背景、文化的な状況を反映した表現であり、これらを助長、肯定するものではありません。

 

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

『春琴抄』の原作を知るみなさま、この作品にどのようなイメージを抱いていますか?
私は、「佐助の春琴に対する “献身”が、“狂気”にも感じられてゾクッとする」でした。今思えば、なんて薄っぺらい印象だったのだろうと思います。

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

脚本を手掛けるのは、日本の古典芸能を基礎に古典のエッセンスを現代劇の中に昇華することを得意とする堀越涼さん(あやめ十八番)。鶯や雲雀、物語後半に登場する謎の男など、原作には存在しないキャラクターたちも登場しますが、彼らがいなくて原作ではどう物語が進んでいたのかもはやわからなくなるほど、谷崎潤一郎の世界観に何の違和感なく、むしろ春琴と佐助の物語に何十倍も深みを追加してくれていると感じました。

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

春琴と佐助の関係性は、ひとことで表すには上手い言葉が見つからないような、そもそも言葉でなど表してはいけないような、さまざまな感情を超越した愛。2人の間に起こった出来事の結果は示されても、その中にある真実、そして未来のことは原作では提示されない。そしてそれを「不気味だな」と思うくらいで、「探究したい」と思った読者が、どの程度いたでしょうか。

本作では、その提示されなかった部分が補完して描かれ、一種のダークミステリーのようにも感じましたし、いち観客でありながら、踏み入れてはいけない禁忌に触れてしまったような、ズキズキとした感情に襲われました。

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:黒木早紀子

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

演出は、自身が主宰するtsumazuki no ishiでの活動に留まらず演出家・映画監督・俳優として様々な活躍をする寺十吾さん。照明を巧みに使用し、時に観客を春琴らと同じような暗闇の中に置き、三味線の音や人の声しか聞こえずに何が起こっているのかわからないという恐怖を体験させ、時に障子の奥で影絵のように登場人物たちが動く姿を見せることで、彼らの表情を想像するしかない観客にドキドキを与える。シアター風姿花伝という劇場空間を見事に活かしたイマーシブ(没入感)体験が、とても新鮮でした。

Office8次元『春鶯囀』に込められた思いをもっと深く知りたい方はこちらのインタビューもぜひ!
https://entre-news.jp/2024/07/527304.html

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

Office8次元『春鶯囀』


Office8次元『春鶯囀』 撮影:黒木早紀子

出演者は、主演・春琴役の淺場万矢さんを除いて、オーディションで選抜。「演劇界には、まだまだこんなにも巧みで素晴らしい役者がいるのだ」という衝撃がとにかく凄く、こういう新たな出会いがあるから演劇は楽しいと改めて感じました。
すべての出演者について感想を語りまくりたい気持ちは山々ですが、長くなるのでやめます…。劇場でぜひ、この衝撃を味わっていただきたい。

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

以前、淺場さんにお話を伺った際、「春琴と佐助の関係性を見て、『私ももう少しここにいてもいいかもしれない』と感じてほしいなと思っている」とおっしゃっていました。この作品を観ると、自分が今いる環境、帰る場所があるありがたさを再確認することができます。

お芝居でも物語でもなく、その場所でリアルに生きる人々の営みを「見てしまった」ようなスリリングさがおもしろく、生きるうえでの学びもあり、ひとりでも多くのお客様に体験してもらいたいと思う作品でした。

Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦


Office8次元『春鶯囀』 撮影:引地信彦

本作は、7月11日(木)〜7月15日(月・祝)まで、シアター風姿花伝にて上演されます。
公演の詳細は公式HPで!
https://www.8jigen.com/shunouten

(文:越前葵

公演情報

Office8次元プロデュース公演 近代日本文学新説上演
『春鶯囀』

【原作】谷崎潤一郎『春琴抄』
【演出】寺十吾
【脚本】堀越涼(あやめ十八番)

【出演】
鵙屋春琴 : 淺場万矢
温井佐助 : 斉藤 悠(Kotabeya)
鵙屋春琴(青年期) : 米倉ゆい
温井佐助(青年期) : 浅川眞来

鶯・天鼓 : 木下祐子(ハイトブの会)
鶯・落葉 : 松本真依(幻灯劇場)
雲雀・夕顔 : 尾崎京香

春松検校 : 函波 窓(ヒノカサの虜)
美濃屋利太郎 : 三尾周平
鴫沢てる : 歩夢
男 : サトモリサトル(ダダ・センプチータ)

鵙屋安左衛門 : 熊野善啓
鵙屋しげ : 勝平ともこ

アンサンブル : 中山朋文 前田倫 佐藤楓恋

【日程】
2024年7月11日(木)~15日(月・祝)/シアター風姿花伝

公式サイト
https://www.8jigen.com/shunouten

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