荒井麻珠東名阪ツアー『荒井麻珠 Song!~I'm here~』ファイナル公演レポート 声優・紡木吏佐による朗読の一幕も
Text:榑林史章
およそ2年ぶりとなる東名阪ツアー『荒井麻珠 Song!~I'm here~』のファイナル公演が、9月15日(日) に東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで開催された。
開演前から〈マージュマージュ〉と、名前を呼ぶ声がこだました会場。その声に誘われるように、真っ赤な衣装におだんごヘアの荒井麻珠がステージに登場、オープニングにピッタリのハッピーソング「ENJOY!」でライブの幕が切って落とされた。昨年リリースしたアルバム『縁』に収録の同曲。〈皆んなの声〉という歌詞の通り、会場には〈ENJOY!〉のかけ声が響き渡り、観客はタオルを回して彼女を出迎えた。その様子に目を細めた彼女は、手を広げて温かく爽やかな歌声で〈皆んなの声〉に応えた。
続けて7月にリリースした配信シングル「Higher」を繰り出す。大地の鼓動のようなビートに乗せて、右手の拳を高々と掲げる観客に、「みんな歌えるよね!」と声をかけ、〈WOW WOW〉と力強く歌った会場。そして「ENJOY!」と同じくアルバム『縁』に収録の「永劫回帰」では、ジャズ要素のある軽快なリズムに体を揺らし、「回すよ!」と声をかけ、〈まわるまわる〉という歌詞に合わせて、指をくるくる回す振り付けを観客と共に楽しんだ。
MCでは「どうしよう〜今日めっちゃ楽しみにしていた!」と、うれしそうに体を弾ませた彼女。来月10周年を迎えることに触れると、客席から「10周年おめでとう」の声がかかり、笑顔で「泣きそう〜」と反応。「歌を歌うことは私にとって生きがい。それは好きなだけじゃなく、必要としてくれるみんながいるから。みんなのために、これからもここで歌っていきます。今日はその証明となるライブにします!」と、この日のライブにかける思いも語った。
このツアーでは、アルバム『縁』のCMでナレーションを担当するなどで交流のある、声優・紡木吏佐による朗読も見どころで、名古屋と大阪の公演に足を運んだファンの間で話題になっていた。おもむろにステージ中央に登壇した紡木は、荒井のナレーションに合わせて物語の主人公を演じ、熱のこもった渾身の声の演技に観客は息を飲む。そして「Partner in crime」の歌詞の一節でもある「月がとても綺麗ですね」という最後のセリフをきっかけに、美しいピアノが流れ「Partner in crime」が歌われた。狂おしいほどの愛を情感たっぷりに歌い上げたR&Bバラードの同曲。荒井は、天を仰ぎ見るように手を伸ばしながら、なめらかにフェイクを響かせる。続く「epilogue」では、ひとつの恋の終幕を歌う。まるで大切な思い出を手放すまいと、両手でしっかりとマイクを握りしめながら歌った彼女。会場には自分の経験と重ねてなのか、タオルで顔を覆いながら楽曲に心酔する女性ファンの姿も。そんなファンに向けて、「あなたの幸せを心から願います」と一言を添えて歌われた「Listen」は、TVアニメ『外科医エリーゼ』エンディングテーマとしても好評だった。前世での後悔を繰り返すまいとして奮闘する主人公エリーゼが、何度目かの人生を必死に生きる姿が描かれたストーリー。エリーゼの凜とした決意と温かい思いを代弁するように、みんなに寄り添うような優しい歌声が胸に響いた。続く「メモリィ。」は、〈大丈夫 信じてるよ、〉という、前向きな思いが込められた歌詞を爽快に歌い上げた。まるでファンと会話しながら、歌でそっと背中を押すやりとりをするような、彼女の選曲と言葉に、胸が温かくなった観客も多かっただろう。
荒井は4月に配信リリースした「Birthday Song」を皮切りに、9月6日にリリースした「I’m here」まで、“7作連続配信リリース”を行い、2曲目に歌った「Higher」、紡木の朗読と併せて歌われた「Partner in crime」と「epilogue」もその一部。“7作連続配信リリース”は彼女にとって大きな挑戦だったようで、「ロックとか今まで挑戦したことのなかった曲もあって、悔しくてめっちゃ泣いたときもあった。でもそういうときは、みんなの顔が浮かんでがんばれた。だからこの7曲は、みんなといっしょに作った気持ちです」と話し、みんなの存在が原動力になったエピソードに、ファンもうれしそうな表情で彼女の名前を叫んでいた。
後半戦は再び紡木を呼び込み、コラボステージを展開。「吏佐ちゃん全公演にゲストで来てくれてありがとう」「こちらこそありがとう。楽しかったよ」と言葉を交わし、「吏佐ちゃんが来てくれたということは、あの曲をやっちゃおうかな!」と言って、シングル『Listen』のC/Wに収録の「Share Life feat.紡木吏佐」をふたりで披露した。ファンキーなサウンドをベースに、ジャズ展開もあればラップも繰り出されるノリのいい楽曲で、紡木の英語のDJがテンションを一層高めてくれる。
向き合ってお互いを指しながら、〈Ey Ey Ey Eyyyy〉と楽しそうに声を重ねた。「吏佐ちゃんが役に入り込んでいる姿がカッコよくて、間近で聞けてうれしかった」「麻珠ちゃんのことはずっと客席から観ていたから、その隣に行けてすごく幸せだった」とふたり。まるで高校時代の友達と久しぶりに会って、当時の自分に戻ってしまったかのように、飛び跳ねてキャッキャッする様子には、観客の表情も緩みっぱなしになった。「次は友だちとカラオケではっちゃけた感じの曲だから」「床を踏み壊しちゃおう!」と言って、mihimaru GTの「気分上々↑↑」をカバー。「行くよ!」のかけ声で、手拍子と合いの手を歌う声が広がった会場。歌だけになるDメロでは紡木が片膝を付いて、荒井に向かって手をヒラヒラさせて盛り上げる場面も。そして最後は、仲良く肩を組んで歌い楽曲を締めくくった。
ライブ終盤には、ファルセットを交えたソウルフルなボーカルを聴かせる「計画的プラトニック」や、疾走感あふれるビートにマイナー調のメロディを乗せた「革命大恋愛」、さらに2022年にリリースしたソロ1stアルバム『声』から、ポップナンバー「イマジナリーフレンド」と、スケールの大きなボーカルに希望を乗せた「KOE」を披露。そして本編最後を締めくくったのは、“7作連続”のラストを飾り、ツアータイトルにも掲げられた「I'm here」だ。「KOE」と「I'm here」について、「前者は大切な過去、後者はみんなと作る未来。私にとって過去と未来をつなげてくれる2曲」と説明した彼女。無限の可能性を信じて新たな一歩を踏み出した彼女の、不安と希望が込められた「KOE」は、嚙みしめるように歌う姿が胸に残る。また、バッハのG線上のアリアを印象的にサンプリングした「I'm here」は、今はまだ遠くともみんなで声をつなげて約束の場所へ行こうといった、思いを誓い合う歌詞が感動的。最後は手拍子をしながら、荒井と会場の全員で指切りの替わりに〈ラララ〉と歌って、改めて約束を交わした。
アンコールでは1stアルバム『声』に収録の「おくりもの」と「Always」を歌唱。しっとり始まり最後は壮大に展開するバラードの「おくりもの」は、「自分が一番辛かった時期に立ち止まることも休むことも大切なことだと教えてくれた曲」と話し、「この曲がみんなのことも守ってくれますように」と言って、目を閉じて祈るように歌った彼女。「歌っていたら、いろんなことを思い出しました」と涙ぐみ、ファンやスタッフへの感謝の気持ちも改めて伝えた。
「もともとグループ活動をしていて、たくさんのことを学ばせてもらいました。当時のことは今も胸にある。私にとって人生の宝物なので忘れることは絶対ありません。私の青春のすべてでした。当時があったから今もこうやって、私らしく歌を続けることができているのだと思っています。
「みんなと作っていくこれからが、今はすごく楽しみです。荒井麻珠は荒井麻珠として、これからも変わらず歌い続けていく。今よりずっと力強く歌い続けるから、人生で苦しいことがあったら、私のライブや音楽を聴きに来てほしい。私はいつでも、歌と音楽で皆さんの心を救えるように準備しています。だからずっと、私の側にいてください!」
ラストは、デビュー曲「Always」を披露した。温かみのあるEDMのサウンド。〈重なり合う声 胸に抱えて走り出すよ〉〈君の代わりなんていない〉と、ファンに向けたメッセージを託した歌詞。いつしか会場には手拍子といっしょに歌う観客の声が広がり、荒井の優しくも力強い歌声が会場をまるごと包み込んでくれた。
文字通りポテンシャルの高さを証明してみせたライブ。まだ次のワンマンの予定は決まっていないとのことだが、彼女の歌声をまた早く浴びたいと思わせる、そんな渾身のステージだった。
<公演情報>
荒井麻珠 東名阪ツアー Song !~I'm here~
2024年9月15日 東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
セットリスト
01. ENJOY !
02. Higher
03. 永劫回帰
04. I like me
朗読 紡木吏佐×荒井麻珠
05. Partner in crime
06. epilogue
07. Listen
08. メモリィ。
09. Share Life feat.紡木吏佐
10. 気分上々↑↑
11. 計画的プラトニック
12. 革命大恋愛
13. イマジナリーフレンド
14. KOE
15. I'm here
16. おくりもの
17. Always
公式サイト:
https://araimaju.com/
09/25 12:00
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