今日の1杯目のビールのために命を懸ける。松岡昌宏が語る目標をもたない生き方

「目標? ないよ」、「俺は、今日の1杯目のビールをどれだけうまく飲めるのかってところに命懸けてるからね」――。

こちらの質問に対し、間髪入れずに小気味の良い回答がポンポンと口を突いて出る。“竹を割ったような性格”という形容がピッタリのその様子と、ドラマの中で終始見せている眉間にしわを寄せた表情との違いに驚かされるが、このギャップこそ『連続ドラマW 密告はうたう 警視庁監察ファイル』が、松岡昌宏に俳優として新境地を拓かせることになった一因と言える。

2021年にWOWOWで放送・配信され、大きな話題を呼んだ同作の続編となる『連続ドラマW 密告はうたう2 警視庁監察ファイル』がまもなくスタートする。警察内部の不正を取り締まる警視庁人事一課(ジンイチ)監察係の面々の奮闘を描く本作。松岡演じる主人公・佐良正輝は、特殊詐欺の捜査情報の漏洩事件の捜査にあたると共に、前作に続いて、後輩の殉職事件の核心に迫っていく。

時折、くだけた口調を交えつつ、松岡が本作の魅力、そして自身の仕事への向き合い方について語ってくれた。

演じる佐良のことは全然分からない。だけど、そこがいい

――シーズン1が放送・配信された際の周囲の反響はいかがでしたか? ご自身でも手応えを感じた部分はありましたか?

松岡 僕はSNSを一切やってないので、何もないですね。いつもそうなんですけど、タイプ的に撮影が終わったら何も気にしないんです。そういう意味で“手応え”と言うのなら、今回、この(続編の)お話をいただけたということですよね。

――今回のシーズン2での佐良に関してはどのような印象を?

松岡 相変わらずですね。笑うシーンはひとつもないし、いつも苦悩している男ですよね。苦悩との戦い……いや、苦悩だけならいいけど、周りでこれだけ人が死んでいく中で、戦っていかなければいけない――それと、同じ気持ちでいる皆口(泉里香)の気持ちも背負わなくてはいけない。

あとは、(佐良の上司である)能馬さん(仲村トオル)と須賀さん(池田鉄洋)が、全部を説明してくれるわけではないから、そこに疑心暗鬼になり「この人たちはいったい何を考えているんだろう?」と考えながら……モグラちゃんですよね(笑)。手探りだけで光を見つけようとする男の話ですね。重いよ(苦笑)!

――シーズン2の制作が発表された際に「また大変な時間が始まる」というコメントを出されていましたが、実際に大変だった部分や苦労されたところは?

松岡 なんせ疲れるんですよね、この作品(苦笑)。体力面もそうだし、すごく頭を使うんですよ。雰囲気だけでできるものじゃないので。

あとは、(シーンの)つながりがめんどくさいね。連続ドラマで「つながりがめんどくさい」と言い出したら、いよいよなんだけど(苦笑)。俺も結構、ドラマはやってきたけど、この作品はめんどくさいね。そこでの心の持ち方です。ここで(気持ちが)上がってるのか? 下がってるのか? あぁ、そうか、あれがあったから今は下がってるのか。そこから「よーい、スタート!」っていうのがね。

順撮りじゃないのは当たり前だし、他のドラマならそこそこ普通にできるんですけど、これは起伏が激しいし、よく人が死ぬんですよね。それがあるのかな。

――逆にこの作品に参加することの面白さを感じる部分は?

松岡 経験したことのないもの、自分の中にないものが100%なので、それをやることで、自分がどういう人間なのかというのを分からせるための作品なんだと思っています。

――自分にないものを求められる?

松岡 全部そうですね。シーズン1でもそうでした。

――松岡さんから見た佐良はどんな人物で、どんなところに魅力を感じますか?

松岡 正直、俺には彼のことが全然分からないんだけど、それが良くて、逆に分かってしまうと佐良正輝という役に違う色が着いてしまうので、俺が分からない方が良いんだろうなと思っています。

だからこそ演じきれたというのはあるし、何でもかんでも「彼は良いやつだ」「こういう男だ」って思ってやっていれば良いわけではなく、「彼は俺には合わない」「ダメだ、彼は」くらいの距離の置き方をした方が演じやすかったりするんです。そういう意味で、佐良正輝が考えていることも行動も自分には分からないです。分からないから、自ずと壁にぶつかったり、疑心暗鬼になっているときの表情が出せるんだと思います。そこは分かろうともしないです。

変に知ったかぶって「こんな感じ」というニュアンスでやるより、そっちの方が良いと思います。「執念を背負った男」だからね。すごいですよね。かなりのドMですからね。(自身が)こんな人間だったら、1分たりとも生きられないよ(笑)。

これまで関わった作品で、飲みに行かなかったのはこの現場だけ

――シーズン2に関して、その魅力を“団体戦”という言葉で表現されていました。松岡さんから見て『密告はうたう』のキャスト・スタッフ陣はどんなチームなのでしょうか?

松岡 “団体戦”ではあるんですけど、この『密告はうたう』のメンバーは全員が個人事業主なので、“チーム”ではないんですよ。そこが面白い!

普通のドラマだとチームになるし、役によってはそのチームに入らない方が面白かったりするんだけど、この作品に関しては、全員が個人事業主。自然にそうなってるんですよね。おそらく、(内片輝)監督がそういう形を望んでるんじゃないかと思います。全部を一緒くたにするんじゃなく、それぞれを活かすために「この人はここ。こいつはこっち」と。お弁当でいろんなおかずの味が移るのを嫌がる監督なんですね。薄味の卵焼きの横にミートボールを置くようなことはしない人なんです。

――現場で座長として、立ち位置やコミュニケーションなどを意識することは?

松岡 一切ないですね。他の現場ではいろいろするんですよ。酒を飲みに行くことだってあるし。でも、この現場では1回もないです。別にそれが楽しいというわけじゃないんですけど、楽しいとこの作品は成立しないと思います。僕がこれまで関わった作品で、酒を飲みに行かなかったのはこの現場だけですね。

――今、松岡さんのモチベーションの源泉は何ですか? 目標はありますか?

松岡 目標は持たないです。モチベーションはその日、その日ですね。やる気を出してどうにかなるんだったら、やる気出せばいいんだろうけど、やる気だけでまかり通るような時代でもないし、今は昔みたいに汗水たらして頑張ればいいってもんじゃない。そうなると、自分の中でモチベーションとなるものをつくるしかないんじゃないかな? それは人それぞれ違うもので、仕事終わりのビール1杯なのかもしれないし、帰ってから見る子どもの笑顔なのかもしれないけど。俺の場合は「おつかれさまでした。撤収!」という言葉を聞くことかな……?

――佐良のモチベーションは何だと思いますか?

松岡 斎藤(戸塚祥太)の謎の死をどうやって解決してやろうかってところにとり憑かれた男だからね。それがなかったら、ここまでしないでしょ。

――忙しいときやキツいとき、どうやって気持ちをコントロールしているんですか?

松岡 落ちたとき、無理して上がろうとしない。落ちているときは落ちる。それでいいと思ってます。

――そうすれば、そのうち自然と上がる?

松岡 今まではそうだったね。それが上がってこなくなったら終わりだね。そんなもんだよ。

――松岡さんの言葉の端々からは、どこか執着のなさが感じられます。そうした考え方、生き方は若い頃から?

松岡 10代の頃からですね。それは誰よりも濃い生活をしているからじゃないかな? 一般の方がされている生活の100倍くらいのスピードで動いてるから、(ひとつひとつに執着してしまうと)時間がないよね。

――そんな松岡さんが「これだけは譲れない!」と執着するものはあるんでしょうか?

松岡 今日の1杯目のビールがどれだけうまく飲めるのかってところに命懸けてるね。俺が、どうしてこうやって働いてるかって、その日に飲む1杯目のビールがどれだけうまいかというところに懸けてるから。だから働くんだよ! それ以上でもそれ以下でもないね。

――ちなみに、お好きなビールのつまみは?

松岡 これは難しいね……(笑)。日によって変わるから……今日は漬けものじゃない? 塩がほしいかな。しば漬けとか。一番良いのはテメェの汗なんだろうけどね(笑)。自分の汗をつまみに飲めるようになったら、いっぱしの呑んべえだよね(笑)。

俳優人生の最後に演じたいのは……?

――いろんなお仕事をされる中で、今、俳優業の面白さはどんなところに感じていますか?

松岡 嘘が好きなんだろうね。俳優の仕事って嘘つきじゃない? 人間が普段、本音と建前を抱えて生きているとしたら、俳優は“セリフ”を介して大っぴらに嘘をついたり、悲しくないのに泣いたりするでしょ? そういうのがたまんない。それが好きなんだろうね。小さい頃から“ごっこ”が好きだったしね。

――作品や役への向き合い方は年齢を重ねていく中で変わったと感じますか?

松岡 たぶん、変わってると思います。自分ではなかなか分からないけど。ただ“役作り”がどうだとか、そういうのは「うるせーよ」って思うんですよね(笑)。そんなのやらなくても、できるやつはできるし、やってもできないやつはできないんだから、手段はどうでもよくて結果が面白いかどうかだけなんだよね。

誰がどんだけ苦労してやっても、面白くなければそこまでだし、何も考えずにやってみて面白いこともあるんだよね、この世界。俺は、努力とか苦労は大嫌いだからしないんだよね。この作品を成功させるために、いろんな手段は使ったけど。

――年齢と共に、オファーされる役も変わってきているかと思います。

松岡 それこそ、この佐良はまさにそうだよね。「俺にこういう役がくるのか」って。俺には絶対に来ないタイプの役だと思ってたから。俺自身の(世間がイメージする)キャラクターもあるし、普通に考えて、ないでしょ? カレーライスにあんこ入れるようなもんだもん(笑)。

でも、それをおいしいと感じる人にはたまんないのかもね。俺自身、新しい発想で何かするのは大好きだし、他人と同じことするのは大嫌いな人間だから、よく分かるし、この作品に俺を呼んでくれた人は面白い人なんだろうって思います。

――目標は「ない」とおっしゃっていましたが、俳優として今後、演じてみたい役はありますか?

松岡 俳優人生の最後に吉良上野介をやりたいですね。自分は時代劇デビュー(『大忠臣蔵』1994年放送)が大石主税(※大石内蔵助の息子)だったんです。内蔵助をやりたいとは思わないけど、最後は吉良上野介をやって、殺されて終わりたいですね。

――年齢を重ねるのは楽しいですか?

松岡 楽しいよ。全部、斬り捨てていく楽しさかな。若い頃はやらなきゃいけないことがたくさんあったけど、それをしなくてよくなって、どんどん引き算をして、身軽になる感じですね。


取材・文:黒豆直樹
撮影:川野結李歌
ヘアメイク:赤塚修二
スタイリスト:井元文子(Creative GUILD)

WOWOW『連続ドラマW 密告はうたう2 警視庁監察ファイル』

8月11日(日・祝)スタート
毎週日曜午後10時 放送・配信【第1話無料放送】
【WOWOWプライム】【WOWOW 4K】【WOWOWオンデマンド】
TVer/FODで最新話無料見逃し配信

ジャンルで探す