『メイ・ディセンバー ゆれる真実』精神科医が登場人物の内面を語る 新たな本編映像も公開
ナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーアが共演する映画『メイ・ディセンバー ゆれる真実』が公開中だ。
本作は、『キャロル』のトッド・ヘインズ監督最新作で、90年代に実際に起き全米に衝撃を与えた13歳少年と36歳女性のスキャンダル(メイ・ディセンバー事件)の真相を、様々な角度から見つめる心理ドラマ。
登場人物たちの内面について、専門家はどのように見つめるのか。本編を鑑賞した精神科医で批評家の斎藤環が本作を語る。
本編では、全米を騒がせた36歳の女性・グレイシー(ジュリアン・ムーア)と13歳の少年・ジョーの不倫騒動「メイ・ディセンバー事件」から23年後、事件の映画化が決まり、グレイシー役に抜擢された女優(ナタリー・ポートマン)が、役作りのため当事者らを執拗にリサーチする過程が描かれる。
斎藤氏は、夫婦がどんなに幸せに暮らしていようとも、妻・グレイシーが13歳のジョーにしたことは「不倫」である以上に「児童虐待」であると明確にした上で、「彼女の“手口”はグルーミングだ。通常の夫婦以上に愛し合い、深く信頼しあっているように見えても、信頼関係を築くことで、それを愛情と錯覚させるのは、典型的なグルーミングの手口でもある」と語気を強める。
物語の前半で、成人したジョーが「世間は僕を被害者だと言うが、僕自身は被害者だとは思っていない」と女優に訴えかける印象的なシーンがある。斎藤氏は、精神科医として患者と対峙をする際、一定の距離を保ちながら患者と関わり合うことを意識するものだが、劇中の女優は、あまりにも当事者との距離が近すぎる点に着目した。
「女優はグレイシーに“転移”しており、“同一化”を遂げようとしているかに見える。“転移”とは、密室内で主従関係におかれたふたりの間に生じがちな強い感情である」と解説し、「まさに、ふたりが鏡の前で化粧をしあうシーンは、グレイシーが女優の顔に化粧を施しつつ、同一化の呪いをかけていくかに見えて、戦慄を覚えた」と振り返る。
また同シーンにおいて、斎藤氏は、私たちは“鏡像”を本当の自分だと思いながら生きていることについても指摘する。鏡に映った姿“鏡像”は、反転した姿であるため、厳密には本当の姿であると言い切れない。ともすると自由に理想の姿を重ね合わせて、自分を認知している可能性も示唆する。悲劇のヒロインとして生きるグレイシーのように。女優の役作りは、この鏡のシーンを境に、益々拍車がかかっていく。
また、斎藤氏は「私の視点から言えば、グレイシーの子どもたちも一種の被害者であり、その立場から「(映画制作は)やめてほしい」と直接言われても動じない女優もなかなかのものだ……」とも語っている。
併せて、斎藤氏が着目した“ふたりが鏡の前で化粧をしあうシーン”の本編映像が特別に公開された。
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』メイクシーン本編映像
<作品情報>
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
公開中
公式サイト:
https://happinet-phantom.com/maydecember/
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07/19 12:00
ぴあ