SNSや匿名掲示板で起こる芸能人・一般人への誹謗中傷…“開示請求”事例や手続きについて弁護士が解説

日頃SNSで芸能人に寄せられるリプライやコメント、ふとした投稿……その中には被害者が自身の権利を侵害されたとして「開示請求」の手続きを行うことも多い。実際に開示請求が行われると、投稿者の情報が特定され、さらにその情報に基づき投稿者に対して慰謝料請求等がなされるという。

インターネット社会において、誰もが無縁ではいられないかもしれない“開示請求”。認められるのはどのような場合なのか、またその後の手続きなどはどうなるのか。アディーレ法律事務所 重光勇次 弁護士に聞いた。
○軽い気持ちで行ったことが問題に…「プライバシー」「肖像権」の侵害

――そもそも、開示請求とは?

開示請求は、「プロバイダ責任制限法」(※正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)という法律の「発信者情報開示請求」に基づく請求です。芸能人のSNSに寄せられるリプライやコメントをした人、あるいは自身のアカウントで権利利益を侵害する投稿をした人を特定するため、投稿者の氏名・住所・電話番号・電子メールアドレスなどの発信者情報を開示する手続きを取ることができます。

――権利侵害になる投稿には、どのようなものがあるのでしょうか?

インターネット上の誹謗中傷において問題になることが多いのは、「プライバシー」「肖像権」「名誉権」「名誉感情」の侵害など。イメージが湧きやすいのは、ネット上で公にしていない氏名や住所、電話番号が投稿されたといった「プライバシー侵害」が問題になるケースや、顔写真を勝手に投稿されるといった「肖像権侵害」の問題でしょうか。

「プライバシー侵害」とは、個人の名前や実名、住所、電話番号が晒されるような事例です。例えば軽い気持ちで芸能人の卒業アルバムをインターネットにアップしたり、街中で目撃したことを書いたりしたとしましょう。そういう情報は社会的に公表する正当性もないので、もしも本人から開示請求が行われれば、プライバシー侵害にあたるとして認められ、投稿した側の情報が開示される可能性があります。

社会的状況を鑑みて重要性が大きいとされる犯罪報道などにおいては、一般的に被疑者の名前と顔が報道されることが法的利益になるとされています。しかし報道においても、例えば「大谷翔平選手の家を知らせる」ことの公益性はありません。

そういった投稿や報道が膨大すぎるために、開示請求のコストをかける方はそれほど多くはないですが、法的には可能です。実際に、SNSにプライバシーに属する事実が投稿された事案において「公表されない法的利益」と「公表する理由」を比較し、「各ツイートの削除を求めることができる」(最高裁令和4年6月24日判決)と判断した判例もあります。

――「肖像権侵害」についてはいかがですか?

「肖像権」は、承諾なしに他人から撮影・公表されないという権利です。例えばSNSに投稿した日常生活上の写真、YouTube撮影などに誰かが映り込んでいた場合も、本人が承諾していなければ、肖像権侵害にあたるとして開示請求が認められる場合があります。

実際に、「人の肖像等を無断で使用する行為が不法行為法上違法となるか否かは、対象者の社会的地位、使用の目的、態様及び必要性等を総合考慮し、対象者の人格的利益の侵害が社会生活上の受忍限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」(東京地裁令和4年10月28日判決)と判断した裁判例があります。
○他人の社会的評価を低下させる意見や中傷…「名誉権」「名誉感情」侵害

――「名誉権侵害」についてはいかがでしょうか?

名誉権の侵害とは、人の社会的評価を違法に低下させる行為をいいます。事実を記載して人の社会的評価を違法に低下させるケースとして、例えば「○○さんは不倫している」などと、インターネット上のSNSサイトや電子掲示板に投稿された場合が考えられます。このような投稿は、○○さんの社会的評価を低下させることになります。

「名誉権」でよく問題になるのは、事実なのか、単に意見や感想が述べられているだけなのか、ということです。例えば飲食店に行った時に「味がまずかった」というのはその人の意見・感想なので、基本的には名誉権の侵害にはあたらず、開示請求が認められない可能性が高いといえます。また「料理に虫が入っていた」となると、事実の摘示ではありますが、それが真実であれば名誉権の侵害にあたらず、開示請求は認められないでしょう。

一方で、事実の記載を前提として意見や感想を記載した場合は、人の社会的評価を低下させると判断されることもあります。例えば、美容施術の口コミで「週2回、たった5分、顔ひき上げて、あと10分肩冷やして、月35,000使ってほうれい線も消えず、いくら通っても効果なし 高すぎる!!」と投稿された事案では、「いくら通っても効果なし 高すぎる!!」という部分が、意見や感想であっても、「施術の時間が短く、効果もなく、施術代が高い」という印象を与えることから「債権者の社会的評価を低下するものと一応いうことができる」と判断されています(東京地裁平成30年9月14日決定)。

――最後に「名誉感情侵害」はどのようなものですか?

「名誉感情侵害」で問題になりうるのは「限度を超える侮辱行為」かどうかです。線引きが難しいところですが、投稿内容や投稿の前後の文脈、投稿の経緯などを踏まえて判断されます。

例えば何の脈絡もなく、特定の芸能人に対し、容姿や能力に対する否定的な言葉を投稿した場合は、名誉感情侵害と判断される可能性があります。一方で、番組や作品の論評の中でそれらの言葉が登場する場合などは、文脈によって名誉感情侵害にあたらないとされる場合があります。ただし、ひどく侮辱的な言葉を使っていた場合、また「死ね」と言った直接的な罵声などは名誉感情の侵害にあたるとして、開示請求が認められることが多いです。

――本人へのコメントやDMだけでなく、自身のSNSアカウントや動画、ブログなどでの発言も開示請求にあたりますか?

第三者のSNS上のリプライやコメントだけでなく、投稿者自身のSNSアカウントや動画、ブログ、または匿名掲示板で投稿をした場合も、発信者情報開示請求の対象となります。

その一方で、開示請求の対象にならないものもあります。具体的には、電子メールやSNSのダイレクトメッセージ(DM)です。「プロバイダ責任制限法」は、開示請求できる対象を「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」(プロバイダ責任制限法5条)と定めています。ここでいう「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)を意味するとされており、具体的にはインターネット上において公開された投稿を指します。電子メールやDMなどは、一対一の通信であり「不特定の者によって受信される」通信とはいえないため、対象になりません。
○開示請求からの民事裁判で、損害賠償請求に

――実際に開示請求を行う時には、どういう動きになるのでしょうか?

対象となるコメントが投稿された場合、まずはSNSサイトや電子掲示板の運営会社(運営者)であるコンテンツプロバイダに対して、「発信者情報開示命令の申立て」や「発信者情報開示仮処分命令の申立て」という裁判を起こします。コンテンツプロバイダから迅速に発信者情報の開示を得るために、2つの裁判を並行して起こす場合もありますし、いずれか一方の裁判だけを起こすこともあります。

裁判所において、「被害者の権利利益を侵害する違法な投稿である」と認定されると、コンテンツプロバイダからIPアドレスやタイムスタンプ(投稿日時)といった通信記録(アクセスログ)が開示されます。その後、被害者は開示された通信記録から、発信者が投稿に利用した接続プロバイダを調査し「発信者情報開示命令の申立て」という裁判を起こします。こちらでも違法な投稿であると認定されると、接続プロバイダから、発信者の氏名、住所、電話番号、電子メールアドレスなどが開示されます。

投稿者が特定された場合、投稿者は、民事上の責任追及として、被害者から損害賠償請求(慰謝料請求)をされる可能性が高くなります。被害者本人からされる場合もありますし、代理人弁護士からされる場合もあります。多くの場合、示談交渉からスタートしますが、いきなり裁判を起こされる可能性もあります。仮にいきなり裁判を起こされた場合でも、まずは話し合いが行われ、和解できない場合に、裁判所の判決が下されることになります。このように裁判外、裁判上、いずれの場合でも和解が中心となります。

和解のための話し合いでは、支払金額や、支払方法(一括払いや分割払いなど)を決めることになります。その他、記事を投稿したことへの謝罪や、「今後、被害者を誹謗中傷する投稿をしない」こと等を記載した“再発防止条項”、これに違反した場合に違約金を支払う旨の“違約金条項”、投稿や和解の経緯、「和解内容を第三者に口外しない」という旨の“口外禁止条項”などを、和解内容に盛り込むこともあります。

また、記事が投稿されたSNSサイトなどによっては、加害者である投稿者が被害者を誹謗中傷する記事を投稿したことについて謝罪投稿をする旨の条項(“謝罪広告条項”)を被害者から要望されるケースもあります。この場合には、被害者と加害者の間で具体的にどのような謝罪文面を投稿するのかを決めることになります。

――芸能人ではなく一般人が開示請求を行いたい場合はどうすればいいですか?

発信者情報開示請求は、被害者が芸能人か一般人かで、取り得る手続きが異なるわけではありません。ただし、一般的な接続プロバイダは、通信記録(アクセスログ)を3カ月~半年程度しか保存していないことが多いです。投稿から時間が経った状態で開示請求をすると、接続プロバイダがアクセスログを消去してしまっていて、投稿者を特定できなくなる可能性もあるので、手続きは速やかに進める必要があります。裁判は大変なので、ご本人だけで行うのは難しく、1日でも早くインターネット問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

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