黒沢清監督×川上洋平 最新映画「Cloud クラウド」の見どころを語る 川上「今の時代を反映しているなと思いました」

ロックバンド[Alexandros]の川上洋平がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「おと、をかし」。この番組は川上が毎週、その日の空気感、季節感、そして世の中の雰囲気を加味して、洋邦ジャンルを問わず“今の気分”で極上の音楽をセレクトしていきます。

9月21日(土)、28日(土)の放送では、ゲストに映画監督・黒沢清さんが登場。ここでは、21日の模様をお届けします。映画「Cloud クラウド」の制作秘話、[Alexandros]が書き下ろしたインスパイアソングについて語ってくれました。


(左から)黒沢清さん、パーソナリティの川上洋平



黒沢さんは高校時代から映画を制作し、立教大学在学中に蓮實重彦(はすみ・しげひこ)氏に学ぶ。長谷川和彦(はせがわ・かずひこ)監督、相米慎二(そうまい・しんじ)監督らの助監督を経て、1983年に商業映画デビューを果たします。

1997年に映画「CURE」で世界の注目を集め、「回路」「アカルイミライ」などがカンヌ国際映画祭に出品。数多くのジャンル映画を撮るなか、ホームドラマという新境地に挑戦した「トウキョウソナタ」でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞。2024年9月27日(金)から監督の最新作「Cloud クラウド」が上映されています。

映画では、ネット社会でつながる現代にしのびよる日常と隣あわせの恐怖が描かれています。[Alexandros]は作品のインスパイアソング「Boy Fearless」を書き下ろし、9月18日にリリースしました(「SINGLE 2」収録曲)。

◆日本独特のホラー表現に衝撃を受けた

川上:インスパイアソングを書かせていただきまして、ありがとうございます!

黒沢:こちらこそありがとうございました。素晴らしい曲を作っていただいて光栄です。映画そのものを音楽で表現していただいたと感じました。

川上:サントラというか、あまり歌ものにしたくないなという思いがありました。僕は1997年に海外から日本に帰国したんですけども、そのときに監督の作品に出会ったんですね。たぶん、最初は「CURE」でした。

黒沢:公開はちょうどその頃ですね。

川上:そこから日本のホラー、「リング」とか「呪怨」「回路」とかあったなかで、やはり日本独特のものがカッコいいなと思うようになりました。どうしても音に落とし込みたいという気持ちは昔からありましたね。本当に素敵な機会をいただきましてありがとうございます。

黒沢:僕も昔からジャパニーズホラー的な映画を撮っておりますけども、カッコいいこととは無縁の世界でやっておりましたので、日本映画がカッコいいと言われるのは本当に嬉しいことですね。

川上:僕にとって(ホラーは)2種類あると思っていまして。まずはハリウッドのわかりやすい怖さ、お化け的なものが脅かして血が出るもの。そしてジャパニーズホラーの恐怖、ジメっとした生々しいもの。僕は海外に住んでいたので、日本のホラーって怖いなって帰ったときに思ったんですよね。

黒沢:なるほど。

川上:そのなかでも黒沢監督のホラーは何かが違うなってずっと思っていたんです。それを今回の「Cloud クラウド」を観てやっと理解できたというか、怖さの種類が感情的なものを超えていて、とても不気味で謎なんですよね。

そこが本当に怖くて魅力的な部分なんだろうなと思いました。「Cloud クラウド」はホラーとは違うのかもしれないですけども、僕にとっては怖い部分がすごく大きかったです。

黒沢:一般の観客の方が僕の映画を観ると「訳がわからない」と言われることが多々ありますね(笑)。今でこそ「CURE」はいろんなところでみなさんが観てくれていますけども、「CURE」を撮った当時は忘れもしませんね。

うちの親戚のおばさんが映画好きで、「怖いからやめたほうがいいよ」と言ったんです。でも、どうしても観たいっていうから観てもらったんですね。「どうだった?」と聞いたら「まったく怖くなかった。その代わり、まったく訳がわからなかった」と言われて(笑)。訳がわからない人には怖さも感じないんだなとけっこうショックを受けました。

川上:そうなんですね。

黒沢:誰にでもわかる映画というのは難しいんだなって、そのときに痛感しましたね。

川上:そういう意見もあるんですね。

黒沢:それにめげずに同じようなことをやり続けております。

◆もともと菅田将暉のキャスティングを想定していた

川上:「Cloud クラウド」の着想はどこから湧いたものですか?

黒沢:ごく普通の人たちが何かで、最終的には殺すか・殺されるかののっぴきならない関係に陥ってしまう映画を作りたいなと思っていたんですね。1つの娯楽映画という形式なんですけども、1970年代ぐらいにはアメリカ映画でけっこうあったと認識しているのですが、近年では海外でもほとんどなくなっていて。

そういう一種のアクションとか暴力的な関係性というと殺し屋とかスパイといった、その道の専門家の方々が激しいバトルを繰り広げる作品はあるんですけど、基本的に暴力とは無縁で生きてきた人々同士がそうなるっていうのは近年ではなかなかないんですね。だからこそやりたいなという思いがありました。

物語は作ったんですけども、最初はお金が集まらなくてですね、しかもオリジナルの物語だと商業映画としてなかなか成立しづらい状況が続いていました。菅田将暉さんが出てくれることが決まってから、とんとんと話が進んだ感じでしたね。

川上:ハマり役でしたね。

黒沢:菅田さん、ピッタリでしたね。何とも言えない、いい人だか悪い人だかわからない、曖昧な感じが本当にうまい方です。あの感じを魅力的にやれる若い俳優はなかなかいないと思います。当初から菅田さんが出てくれたらいいなと思っていたんです。

川上:最初から決まっていたんですか?

黒沢:イメージキャストは菅田将暉さんだけど、無理だと思っていました。幸運な出会いで成立しました。

◆アクションで表現できることはたくさんある

川上:「Cloud クラウド」は、今の時代を反映しているなと思いました。インターネットを通じてどんどん暴力的になっていくのって、これまでの映画ではあまり表現されていないんですけど、わりとニュースでは普通に目にすることなんですよね。

黒沢:インターネットで知らない人たち同士が集まって悪いことをするのは近年ニュースでよく見ますね。それがやりたいと思っていたわけではないんですけど、悪者たちと戦う、わかりやすいアクション映画という構図にしたかったんです。それをどうするかというのはものすごく高いハードルだったんですよ。

お互いのことをほとんど知らないような人たちだけど、主人公に対してはちょっとした恨みがあるっていうことだけが共通している。インターネットだったらそういう人たちが集まってくるよねってところで、悪者たちを作っていきました。知らないからこそ無茶ができる人たちですね。

川上:そこが本当に怖かったですね。理解できない恐怖って今の時代背景にもあるし、ニュースで「なんでこんなことをするんだろう」と思うようなことがちゃんと描かれていました。後半はかなりアクション映画でしたね。

黒沢:それがやりたかったことなんですよ。悪い奴と戦うという古典的な映画の1つのパターンを、現代日本の普通の人たちでやるっていうのはなかなか技が必要でした(笑)。

川上:そうですよね。僕は前情報なしに観賞させていただいたんですけども、ファンにとっては「黒沢監督はアクションがやりたかったんだ!」って衝撃を受けたと思います。

黒沢:昔からアクションはやりたかったんですけど、なかなか日本では成立しないんですよ。原作とかあれば、まだいいのかもしれないですけども。

川上:「CURE」の前はVシネをやられていますよね。そこの影響もありますか?

黒沢:そうですね。その頃は少しだけアクションめいたものはやらせていただきました。

川上:では、久々にアクションを撮られたということですね。

黒沢:若い頃、アメリカ映画を中心にアクションものをたくさん観て、見惚れていたんですよね。ワクワクもするんですけど、同時に話がどうとでもなるなと思ったんですよ。楽しくもなるし悲惨にもなるし、ユーモラスにもなる。

一言でアクションと言いますけども、実に多様でいろんなドラマをそこに盛り込めるんですよね。かつ、娯楽映画として見ごたえもありますから、アクションをやりたいと常々思っていました。

<番組概要>
番組名:おと、をかし
放送日時:毎週土曜日15:00~15:25
パーソナリティ:[Alexandros] 川上洋平
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/okashi/

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