『ゴット・タレント』で話題のシューマッハ。「本番ではスベってた犬のネタ」

2024年7月、五味侑也・中村竜太郎で結成されたお笑いコンビのシューマッハが、『アメリカズ・ゴット・タレント』(以下、AGT)にてゴールデンブザーを鳴らし、日本でも大きな話題を呼んだ。

『AGT』は、アメリカで人気を博している公開オーディション番組。番組内には、審査員や司会者が1シーズンに1回だけ押せる「ゴールデンブザー」という仕組みがある。ゴールデンブザーを獲得した参加者は、一気に準々決勝まで進出する貴重な機会を得られるのが特徴で、日本の芸人で獲得したのは彼らが初めて。

そんな二人に番組出演に至るまでの経緯だけでなく、ネタ披露中のリアルタイムな心境から、今後の目標までをニュースクランチがインタビューした。

▲シューマッハ(五味侑也 / 中村竜太郎)【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

「詐欺だと思った」TikTokに届いたDM

――『AGT』出演で大きく注目されたシューマッハのお二人ですが、かなり以前から海外を意識して活動をしていたそうですね。

五味 侑也(以下、五味):2017年頃から、海外の方に向けてライブをしていたんです。東京オリンピックも控えていたし、これからはインバウンドの方々に向けてネタをするのが大事だと思い、かなり力を入れて活動していました。

中村 竜太郎(以下、中村):一緒にライブをしていたウエスPや、ゆんぼだんぷも『AGT』に出始めたのがその頃で、盛り上がっていく感覚があったんです。

五味:実際のライブも海外の方が多く見に来てくれて、右肩上がりといった感じだったのですが、COVID-19のせいで……。

中村:コロナね、カッコつけなくていいから。それで、一時期は活動が止まってしまったんですが、新型コロナウイルスが落ち着きだして、ウエスP、ゆんぼだんぷが海外でさらに活躍するようになっていったんです。でも、僕らだけはどこの国からもお呼びがかからなくて。

――そこから、どのようにして『AGT』へ出場することになったのでしょうか?

五味:このままじゃいけないと思って、ウエスPに「どうしたら『AGT』に出られるの?」と聞いたら、どうやらSNSに動画をあげてバズったタイミングで、“番組の担当者から直接オファーがきた”って。

中村:その話を聞いた当時の僕らは、SNSに力を入れていなかったんですよ。じつはTikTokの初期には手を出していたのですが、なにをどうしたらいいかわからなくて、動画を10本ぐらいあげてから、そのまま放置していたんです。

でも、ウエスPの話を聞いてから“これからはSNSの時代だ!”と思って、2023年からTikTokへ動物のネタを毎日投稿する日々が始まりました。

そこはTikTokのフォロワー数、1300万人超えのウエスPが指導してくれて、投稿を続けたんですけど、毎日投稿してフォロワーが40人。まさに地獄の日々でした。でも、ちょうど1か月が経った頃にアップした「ユニコーンで風船を割る」動画が、いきなり1500万回再生の大バズりを見せたんですよ。

五味:すると、すぐ『AGT』のプロデューサーから「私たちの番組に興味はありませんか?」とDMが届いたんです! こんなにすぐ結果が出るなんて信じられなくて、AIに「どう思う?」って聞いたら、「それは詐欺の可能性があります」って(笑)。

中村:“渡航費だけ振り込んで、お金だけ盗られて終わるやつかな”と思っていたんですけど、やり取りして、どうやら本物のプロデューサーだとわかりました。1年以上は根気強く活動していくつもりだったので、1か月で結果が出て、本当に驚きましたね。

――『AGT』のオファーが来てから出演するまでに、何か苦労したことはありましたか?

中村:オファーを受けたとしても、実際にステージへ上がるためには、数百組のなかから映像審査で選ばれなくてはいけなかったんです。ただ、そもそも映像審査にたどり着くまでが長かったんですよね。実際にパフォーマンスする動画を送り「他のネタにしたほうがいい」とか「このネタの意味がわからない」などの意見を聞きながら、1か月ぐらいかけてAGT用のネタをスタッフの方とブラッシュアップしていく作業が大変でした。

五味:日本とアメリカは、お笑いの感覚が違うので、そのあたりに苦労しました。まずは僕らの定番ともいえる犬のネタを送ったんです。そしたら「犬は別にいいから、ゾウになってくれない?」と言われて(笑)。

――(笑)。

中村:そもそも、ゾウなんてほとんどやったこともないし、「いや、まずは日本で人気の犬を見せたいんだ!」と要望を出して、なんとかゾウは免れたんです。次に、犬タワーという、文字通り犬と犬が重なっているネタを送ったんです。そしたら「どうして犬が重なっているんだい?」と聞かれて「そんな、理由を聞かれても説明できねえよ!」って(笑)。

中村:一番納得ができなかったのは「TikTokでバズったユニコーンをやってくれないか?」という要望。というのも、自分たちでは“ユニコーンのネタは、海外ではウケないのでは?”と思っていたので、固辞していたんです。でも、あまりにも強く要望してきたので“スベったら、この人のせいにしよう”と思い、乗っかってみました。

あんなに盛り上がってた会場が一気に「シーン」

――実際に『AGT』に出演したときの心境を、あらためて教えてください。

中村:司会のテリーさんが、僕らが登場する前に会場を盛り上げてくれてたんです。お客さんも、ずっと「フウー!」って盛り上がってて、そのままテリーさんに「いけいけ!」って煽られてステージに登場しました。

僕らもネタを披露する前のトークを頑張ってたんですよ。二人とも英語は話せないけど“一生懸命に喋る姿勢を見せよう”と決めていたんです。おかげで、お客さんとの距離を縮めた状態で、ネタをスタートできたと思っています。

五味:ただ、一発目に犬のネタを披露したとき、会場全体が「は? 何これ?」って、スベった空気になって、あんなに盛り上がってた会場が一気にシーンとなったんです。日本では鉄板だったネタなので、そこで心が折れそうになって。“でも、ここまで来たらスベっても堂々とやるしかない!”と頭を切り替えて、次のネタ、シマウマを披露したんです。

中村:出番前に舞台袖で「とりあえず最後までやりきって、悔いなく日本に帰ろう」って話し合ってたんです。でも、あの空気は怖かった。

五味:シマウマを披露したら、お客さんも段々とネタの方向性がわかってきたのか、笑い声が起こって、温かい空気が戻ってきて安心しました。

中村:でも、シマウマで空気を取り戻したけど、“あれ? 次のネタはユニコーンだよね!?”って気づいて。僕らが“これはウケない”と思ってたユニコーン。せっかく空気が温かくなったのに、またこれで冷えちゃうな……と思いながらユニコーンになって、ツノで風船を割った瞬間、会場から割れんばかりの歓声が起きたんです!

五味:最後まで折れずに「ユニコーンをやったほうがいい!」と言ってくれたスタッフの方に、“疑ってすみません!”って(笑)。

中村:その空気のまま、最後のキリンを披露したんですけど、僕が五味くんのお尻に顔を埋めた瞬間に、その日、一番のスタンディングオベーションが起きたんですよ。正直、“アメリカの人、意味わかんない!”って思いましたね(笑)。

▲中村「国が変わるだけでこんなにもネタのウケが変わるんだと思いました」

コンビ結成して初舞台は『笑っていいとも!』

――お二人がお笑い芸人を目指そうと思ったきっかけを教えてください。

中村:小学生の頃に爆笑問題さんをテレビを見て、“こんな面白い人がいるんだ!”と思ったのが、お笑い芸人を志したきっかけです。中学生の頃に『M-1グランプリ』が始まったときは、“自分も漫才のチャンピオンになる!”と強く思っていました。

五味:僕も子どもの頃からお笑いが好きでした。ただ、お笑いよりも、高島彩さんや中野美奈子さんなど、フジテレビのアナウンサーさんにときめきを感じていたんですね。でも、フジテレビを見ていて『はねるのトびら』『めちゃ×2イケてるッ!』など、面白い番組を見るなかで、お笑いにのめり込んでいく自分に気づいたんです。

それからは「ルミネtheよしもと」など劇場に通うようになりました。そして、漫才を終えた芸人が「ありがとうございます!」と言ったあとに、舞台からスーッと薄暗いなかを帰っていく姿を見て、“これをやりたい!”と思ったのがきっかけですね。

▲お笑い芸人を志したきっかけは「爆笑問題」と「女子アナ」

――お二人はどのようなきっかけで出会ったのでしょうか?

五味:僕と中村くんはNSCの同期で、最初から仲良くて。お互い選抜クラスには入っていたんですが、そのなかでは落ちこぼれだったんです。教室のすみっこにいる感じの二人だったので、気が合ったんですよね。でも、当時はそれぞれ違うコンビを組んで活動していたんです。

中村:じつは、犬のネタは最初、前の相方と組んでいたときにやっていたものなんです。『笑っていいとも!』に「ウルトラソウル選手権」という、一発芸を見せるコーナーがありまして、そのオーディションで自信のあった「でんぐり返しをしながらチャーハンを食べる」というネタをやったら、全然ウケなくて。

五味:そのネタの話、初めて聞いた! 面白そうじゃん、今度やろうよ。

中村:(笑)。で、帰ろうと思ったら、審査員の方が小道具で持ってた犬のかぶりものを「それ何?」って。内心“めんどくさいな~”と思いながら渋々披露したら、めっちゃウケて、“それいいじゃん!”ってオーディションに受かりました。実際に放送でもウケて、そこから『いいとも』で毎週、いろいろな動物のネタをするようになったんです。

これは売れるチャンスだと思って「これからは二人で動物のネタを極めていかない?」と相方に提案したんです。そしたら相方が「ごめん、俺はそういう恥ずかしいことはできない」って(笑)。ほどなくして、方向性の違いで解散しました。

五味:ちょうどその頃、僕の相方も逃げるようにいなくなってしまったんです。僕は、前々から中村くんとコンビ組みたいと思ってたんで、“こんなぴったり重なるタイミングある?”となり、声をかけて、シューマッハが誕生しました。

中村:だから、結成して初めての舞台は、いきなり『笑っていいとも!』なんです。

“1本”のネタを極めていくこと

――シューマッハとして活動してきて大変だったことはありますか?

中村:僕がネタでめちゃくちゃ噛むんですよね。それでいて演技力もないので、現存している芸人のなかでは、コントは僕が一番下手と自負してます。

――ええ! そんなふうに感じたことないです(笑)。

中村:いやいや、五味くんから教えてもらって、少し下手くらいにはなってるかもしれないですが、本当に下手なんです! その点、動物のネタは喋らなくてもいいので、僕にぴったりなんですよ。

普通の芸人と組んだら、五味くんは『キングオブコント』でも決勝の常連になっているはず、それくらい演技が上手なんです。個人的には犬のネタだけで、コンビとしてつなぎとめていると思っています。

五味:いやいやいや、絶対に違う! 僕も楽しく犬のネタをやっているし、絶対にそんなことはないから。

――お互いを尊敬し合っている様子が伝わります。お笑いをやっていくうえで、印象に残っている言葉はありますか?

五味:サンミュージックの諸先輩方からは、いろいろな言葉をもらました。

中村:犬のネタで少しテレビに出れるようになったにもかかわらず、それ以外のコントや漫才を模索していたとき、ゴー☆ジャスさんやスギちゃんさんから「犬のネタ1本でいいじゃん」「犬のネタはやり続けなよ」と言われたんです。そう、どちらも、“1本”のネタで人気を獲得した先輩なんですよね。

ただ、当時は内心“先輩と僕たちは違う”なんて生意気なことを思っていました。でも、僕らが輝けたのは、犬のネタをずっとやってきたからこそだったんですよね。“これなら売れる!”と思ったネタを極めることは、お笑いのひとつの答えなのではないかなと思いました。ダンディ坂野さんからも「自分でネタに飽きたらダメだよ」と言われてて、より“ 1本”へのこだわりが強くなりました。

五味:小島よしおさんには、芸ではなくメンタルの部分で本当にサポートしてもらったと思ってます。小島さんは「芸は人それぞれだから、自分たちが面白いと思ったことをやればいい」という考えの方で、ネタのアドバイスやダメ出しはなくて、それよりも「初めての仕事のときは、こう考えたほうがいいよ」というような思考の面を細かく教えてもらいました。

中村:僕は小島さんに会ってから、“性格が変わったかも”と思うくらい影響を受けてます。小島さんの話を聞いているうちに、根本的にネガティブな性格だったのが、かなり前向きになりました。

五味:二人で「どの事務所に入る?」という話になったとき、いろいろな事務所ライブを見に行ったんです。今でも理由はわからないのですが、サンミュージックの事務所ライブを見たときに、二人で共通して「入るならここしかない!」って。この事務所に入ってなくて、先輩との出会いがなかったら、今こんな結果を出せていなかったと思います。

▲五味「サンミュージックに入って本当によかったと思ってます」

――最後に『AGT』で優勝すること以外で、お二人が目標にしていることを教えてください。

五味:「超ときめき♡宣伝部」と共演することですね! 本当に大好きで、基本的には箱推しなんですけど、誰か1人を選ぶのであれば「辻野かなみ」さんかな。そういえば、先日の『ワイドナショー』で、僕たちの出番が終わったあとすぐ、「超ときめき♡宣伝部」が出演しているPIZZA-LAのCMが流れたんですよ。これって、コラボしたってことになりますよね?

中村:僕は『SoftBank』のCMに出たいんですよ。『ブリテンズ・ゴット・タレント』で話題になった、とにかく明るい安村さんや、ダンスチームのアバンギャルディも、『SoftBank』のCMに出ているので。でも、CMって「安心してください」みたいなフレーズがいるじゃないですか。だから僕たちも、ウケなくてもいいので何かフレーズを作ろうと思っています。『SoftBank』のCMに出るためだけに!

五味:僕らが急にフレーズを言い出しても見逃してください(笑)。

(取材:川上 良樹)


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