TikTokで人気! 芸歴20年を超えたラバーガールが賞レースとは違う道で見つけた居場所

今ではお笑い芸人が売れるための場所として、メジャーになったYouTubeやTikTok。芸歴20年を超えたラバーガールも、新たなファンを増やしている。さまざまな選択があるなかで、なぜ二人は動画投稿に力を入れ始めたのか。柔軟な考えで生きていくラバーガールの歩みにニュースクランチ編集部が迫った。

▲ラバーガール(飛永 翼 / 大水 洋介)【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

とにかく何かやらなくちゃで始めた動画投稿

――ラバーガールさんといえば、結成20年を超え、賞レースも常連の実力派の芸人さん、というイメージだったのですが、近年はYouTubeやTikTokで発表している動画が話題となっています。お二人のことを知らなかった若い層にも人気が広がっている印象がありますが、動画投稿はいつごろから始めたのでしょうか。

飛永翼 (以下、飛永):2020年とかですかね。コロナ禍になって、ライブもない、テレビもないとなったときに、何か発信しなきゃ!っていうことで、まずはYouTubeを始めました。

――無料で見られる場所にネタを上げていく。抵抗はなかったですか?

飛永:あのときは、とりあえず何かやらなくちゃっていうのが強かったので、抵抗はなかったですね。でも、昔だったらイヤだったと思います。『キングオブコント』や、もっと前だと『オンバト(爆笑オンエアバトル)』のためにネタを取っておきたかったので、ネタバレしたくないなっていう気持ちが強かったですよ。

でも、だんだんそういうのは“別にいいか”って思うようになりました。YouTubeを始めてからは、1週間に1本は上げようと思っていたので、まずは出してみようという意識で。反応がよくなかったら“しょうがない、じゃあ次どうしようか”って。

――反応を受けて、次に活かすようになったんですね。動画投稿に手応えを感じたのはいつごろですか?

飛永:YouTubeでいうと、喫茶店みたいな場所を借りて撮影した「やたらと豆にこだわったカフェ」とかを上げ始めたところですね。このあたりから再生数が一気に増えました。それまでは、あるあるネタとかもやってたんですけど、“やっぱ僕らはネタが求められてんだろうな”って、はっきりしましたね。

僕らは面白く見せることだけを考えてます

――2021年からはTikTokも並行して投稿していますが、こちらはすぐに話題になった印象です。

飛永:Twitter(X)で「ラバーガールがTikTokでバズってますよ」と言われて見てみたら、『エンタの神様』(日本テレビ)とかでやっていたネタ動画の違法アップロードが20万、30万とか再生されていて(笑)。それで、もしかしたらTikTokを見ている人たちにも受け入れられるかもと思い、自分たちでも発信し始めました。

大水洋介(以下、大水):あと、昔から東京03の飯塚(悟志)さんが「ラバーガールはネタのつかみがおもしろいよね」と言ってくれていたので、1ボケ目までだけだったら、TikTokにもハマるんじゃないかなと。

―― TikTokの動画ではどんなことを意識しているんですか?

飛永:TikTokでいうと、僕らが始めたころは、土佐兄弟の動画がすごく回ってたんで、土佐兄弟っぽいことを寄せてやってみたら……全然うまくいかなかったんですよ(笑)。

大水:あと、“あるある”ではなくて“全然ない”っていう一個先のことをやったら、複雑すぎてダメでしたね。僕らのネタはあるあるではないけど、こういう人いるかもなっていう共感が少しあるものが再生数も伸びます。

飛永:いろいろやってみた結果、そこがいいんだろうなってなりました。

大水:視聴者層もYouTubeは男性が多いんですけど、TikTokは若い女性が多いんで、そこも意識したほうがいいと思うんですが、どうしても自分たちの興味があることからネタを考えるので、やっぱり下ネタとか、野球ネタになりがちなんですよ(笑)。

――(笑)。「ベストドラマを聞いたらAVばっかり薦めてくる人」の動画も面白いです。お二人ならではの切り口での時事ネタも魅力だと思います。

大水:たしかに、時事ネタをどういう角度でイジるかは常に考えてるかもしれないです。普段の舞台だとできないんですけど、動画は思いついたらすぐできるので。でも、僕らは時事を切ってやろうとは、これっぽっちも思ってないです(笑)。面白く見せることだけを考えてます。

飛永:そんなに言いたいことがないから、何がおもしろいかで考えた結果、今のスタイルになった、というか。ただ、先日アップした「芸人とYouTuberはYouTuberの方が絶対面白い!」も、個人的には芸人のほうが絶対おもしろいと思うけど、本音をそのまま出すと炎上するから、ああいう感じで出していて。

――ちなみに、お二人はYouTubeを見られるんでしょうか。

大水:僕は『33歳酒飲み独身女あやかのぼっち宿泊記』とか『ダメ派遣男まさお』を見てます。僕もお酒が好きなんで、お酒を飲みながら見るのがいいんですよ。

飛永:僕は全然見ないですね……時々、好きなアイドルの好きなシーンだけを見たりしますけど(笑)。

東京03を近くで見ていたから“自分たちはこっち”

――動画投稿を始めて、ネタ作りに変化はありましたか?

飛永:確実にありますね。自分たちの芸歴や年齢も関係しているのかもしれないですけど、ライブでやるネタを作る機会がめっきり減りました。

大水:そうだね。たまにやる単独ライブのときに作るぐらいですね。

飛永:ちょっと前は自主ライブとかもやってたんですけど……ネタを作っても、それをテレビで披露する機会がまったくないので、 やる必要あるかな? みたいになって。だったら動画をアップしたほうがいいんじゃないか、と思うようになりました。

――先ほど、時事ネタは常に考えているというお話もありましたが、ライブでのネタ作りはどうしていたんですか?

大水:ライブのタイトルから連想してネタを作ります。去年でいったら『インフルエンサー』っていうタイトルの単独ライブをやったんですけど、そこからどういうネタができるかを考えていく、みたいな。

飛永:単独ライブの構成のなかでネタを考えていく、という感じですね。僕たち、普段から“これはネタになりそうだな”っていう目線をもってるわけじゃないんで、単独ライブをやるってなったら、ネタを作るって感じです。“こういうお笑いがやりたい!”がそんなにないよね?

大水:うん。“絶対これをやりたい!”は、ないかな。

飛永:“スベってもいいから、自分たちがやりたいネタをやる”とかは絶対ないです。ずっと、東京03が近くにいて、人間関係のおもしろさを表現したコントをずっとやって、それで全国ツアーをやって、どんどんお客さんを増やしていくっていう姿を見せられたら、自分たちは違う道を行かないと!って思うんですよ。

“他の人がこうやるんだったら、自分たちはこっちかな?”みたいな決め方、僕らは多いかもしれないです。時代の流れがあったら、じゃあ自分たちなりに違うアプローチでやってみるとか。

大水:東京03は、三人ともネタをやっているのがすごい楽しいらしいんですよ。単独ライブ後も、“今回も楽しかった~”とか言ってて。すごくないですか?(笑) 僕らもネタを楽しんではいるんですけど、楽しいよりもしんどいのほうが勝っちゃうときもあるから、あそこまでハイペースにライブはやれないなって。

飛永:好きなこととか、楽しいことだから突き詰められてるんだと思うんですけど、東京03みたいな熱は僕らにない。むしろ、いかに効率よくやるか、とかは考えてるかもしれないです。だから、スピード感をもって更新していくことが重要な動画は、僕らに合っていたんだと思います。

▲東京03を近くで見ていたから自分たちは違う道を選びました

――面白いことはもちろん、並行して効率の良さも優先しているということですね。

飛永:僕はどっかで挫折をしてるんだと思います。お笑いで食っていくには、ネタもそうだけど、バラエティ番組に出ていくとなったとき、すごい人がいっぱいいる。“自分はあそこにハマる人たちとは違うな”という挫折があるから、“じゃあ得意なことはなんだ?”って考えた結果、今、こういう考えになったのかもしれないです。でも、大水さんは、テレビに出ることを諦めてないところもあるよね?

大水:なんて言ったらいいんだろうな……。僕は、YouTubeとかでネタをやるのも好きなんですけど、ほかの芸人さんとワチャワチャしてるのも好きなんですよ。営業とか行かせてもらったとき、その道中とか楽屋の雰囲気が好きなんです。

『キングオブコント』に出る可能性は?

――近年は『キングオブコント』へのエントリーもされていないですが、個人的には2012年の準決勝で披露された「寿司屋」のコントが大好きです。

飛永:ありがとうございます。あのネタも、今はもうメディアではできないだろうなあ(笑)。

――(笑)。キングオブコントに出られてないのも、動画を優先するための選択ですか?

飛永:いや、単純に勝てないんですよね。 言い訳に聞こえたら僕らを好きな方に申し訳ないんですけど、“もしかして求められていないのか…?”というか。

大水:若手の人は、大会に向けて、1年かけてネタを仕上げてくるけど、僕らはそういう感じじゃなくなってるんで。その熱量のなさが伝わってるんだと思います。

飛永:キングオブコントの予選、あんなに1ボケ目でスベるライブないよね(笑)。

大水:キングオブコントでやれそうなネタができたとしたら、出る可能性は全然ありますけど、 そこだけに向けてがんばるっていうのは、もういいかなって。そもそも、僕らはコントで一番になりたい!っていう熱い気持ちがないんですよ。おもしろい人がたくさんいて、それでいいじゃんっていう考えなので。だから、若手の頃は、出なきゃ逃げてる感じもあるし……最初から“出なきゃいけないなあ……”くらいの感じでした。

――コンビを組んだときに思い描いていた将来と、現在のラバーガールはどんな部分が違いますか?

大水:今はこうして動画でも稼げるようになったりとかしてますけど、組んだときは、まずはネタ番組に出て、そのあとバラエティー番組に出て、という流れしか考えてなかったですね。あと、僕ら二人ともドラマとかにも出させてもらってるんですけど、それは想像してなかったな。

飛永:たしかに、昔はテレビのネタ番組がゴールデンタイムにあるから、ネタさえ続けていれば出られると思ってました。でも、だんだんメディアも多様化して、バランスが変わってきて、もう本当、なんでもやれないとヤバいんだなって。

――なんでもやるからこそ、ほかに作用することもあるんですか。例えば、ドラマの現場で得たことをコントに活かすなど。

飛永 逆はありますね。ドラマに呼ばれる可能性があることを、コントに盛り込むとか。コントで、しっかりお芝居もできますよ!っていう要素を増やしたり(笑)。たとえば、『有吉の壁』(日本テレビ系)とかだったら、なるべくドラマっぽいコントをするとか、そういうのは他の人より上手にできると思います。

――8月21日(水)には、人力舎の1年に1度のお祭りイベントとして『夏ネーター2024』が開催されます。5月から『人力舎ネタライブ「ルミナ」』も始まりましたが、こちらでは若手芸人の方と同じ舞台に立たれてましたね。

飛永 事務所のライブにずっと出ていなかったので、若手と絡むことがなかったんですけど、機会ができたのはありがたいですね。

――お二人が注目している芸人さんを教えてください。

飛永 バローズっていうグループがいて、2年連続、事務所の若手ライブの年間チャンピオンになってるんですけど、コントが人力舎らしい、ちゃんとした感じっていうか。あんまり見たことない設定のおもしろいコントをやってるなとは思いました。これからが楽しみですね。

大水 僕は鈴木ジェロニモですね。短歌の本を出したりとか、おもしろい活動をしているなって思います。

(取材:梅山 織愛)


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