俳優・監督・ミュージシャンとして活躍する森崎ウィン「ずっと歌は続けていきたい」
ミャンマー出身でワールドワイドに注目を集めるスター、森崎ウィン。俳優として、大河ドラマ『どうする家康』の徳川秀忠役など多くのドラマに出演する一方、映画やミュージカルでも名演技を披露してきた。また、2020年にはアジアから世界に発信するエンターテイナー・MORISAKI WINとしてメジャーデビュー。抜群のボーカル力を持つアーティストとしても注目を集めている。
そんな彼が東京・大阪の二大都市で『MORISAKI WIN LIVE TOUR 〜MODULATION 〜』と題するツアーを開催。デビュー5年目を迎えたタイミングで、今回のツアーに込めた思いとは?
アーティスト活動は自分の人生の記録
――今回のツアータイトル「MODULATION」に込めた意味から教えてください。
森崎 : MODULATIONの意味は「変調」とか「転調」。今までの楽曲に、このツアーならではのアレンジを加えることで、変化や進化を感じてほしくて、このタイトルにしたんです。オシャレな響きがいいなと思って「MODULATION」というワードにしました。
――楽曲に変化をもたらそうと思ったキッカケはあったんですか?
森崎 :メジャーデビューから5年目になると、僕のライブに何回も足を運んでくださってる方もいるので、そういう方たちに驚きを感じてほしくて。とはいえ、アレンジすることで、その楽曲が持つ良さは失わないようにもしたいんです。初めて僕のライブに来てくださる方に、“聴いていたのと全然違う”とマイナスに受け取ってほしくないですから。
そこはせめぎあいなんですが、うまくアレンジすることで「CDや配信もいいけど、ライブバージョンもいいから、こっちも音源化してほしい」となったら成功ですね。
――この曲をこう変化させた、という具体例を教えてください。
森崎 :「START IT OVER」(アルバム『Flight』収録)は、MODULATIONバージョンがもう仕上がっていて、YouTubeの公式チャンネルで直近のライブ映像を公開してます。
――なぜこの曲をアレンジしようと?
森崎 : この曲には、デビューしたての“どう進んでいいかわからない”という自分自身の当時の悩みが込められているんです。その頃に感じていたことを作詞家の方に伝えて、落とし込んでもらいました。僕はファンの方を“Crew”と呼んでいるんですが、Crewに“ウィン君に求めすぎたのかな?”と思わせてしまった曲でもあって……。
でも、僕にも悩みはあるし、アーティスト活動って自分の人生の記録でもあるから、その瞬間を単純に記録したかったんです。今は、その悩みも少しは晴れて、曲を俯瞰的に見られるようになったし、成長した自分だからこそできるアレンジに変えてみたいなって。
こんな時期もあったけど、鳴っている音とともに僕は前に進んでいける。そう思える瞬間が訪れたからこそ、このバージョンができた。そういったことを、今回のライブで表現できたらいいなと思います。
――ご自身のアイデアは、どうやってアレンジに反映させているんですか?
森崎 : アレンジ面は、ずっと一緒にやってる宮野弦士さんが音楽監督として主軸になってくださってます。「これはR&Bっぽく」とか「ここはもうちょっとテンポを上げてクラブチューンっぽい感じに」とか、ざっくりとアレンジしたいジャンルの方向性を彼に伝えて、それをもとにアレンジしてもらっています。
みんなで打ち合わせのテーブルを囲って、そこにアイデアを投げ込んでいる感じです。僕が出したアイデアに、みんなから「こっちのほうがいいんじゃない?」ってリアクションが返ってくることもあるし、逆に僕が誰かのアイデアに「それ面白いね」と乗っかることもあります。
ゼロをイチにすることがアーティストの醍醐味
――今回はバンドのメンバーも一新されるとか。
森崎 : 宮野さんは今回ステージには立たず、サウンドのクオリティをキープする裏方に徹してくださいます。バンドメンバーは全員、新しい方だから、僕もどうなるかわからなくて。プレーヤーによっても変わるでしょうから、そういう意味でもタイトルどおりのチャレンジになりそうです。
――最新の配信シングル曲『U』も、これまで歌ってこなかったジャンルにトライした楽曲でしたが、そういう新しい試みというのは、ご自身の今のテーマなんですか?
森崎 : 常に過去の自分を壊して、新しいものに取り組んでいきたいんです。時代は前に進んでいますからね。でも、だからといって自分のスタイルを大きく変えたいわけではなくて、R&Bをベースにした自分のポップス感や、バリバリのロックサウンドではない、見に来たら体が勝手に動くようなサウンドが流れているライブ作りは変えずにいたいです。
――ミュージカルやドラマ、映画でのお芝居とのスタンスの差は?
森崎 : ゼロをイチにすることが、できるかできないかだと思います。俳優は最後のピースとしてオファーをいただくことが多いから、脚本家さんとお会いする機会もあまりありません。その“ゼロイチ”ができることがアーティストの楽しさだと思います。
逆に責任重大でもありますが……。思えば、ソロでアーティストデビューをする前、PRIZMAXというダンスボーカルグループにいた頃から、「もっとここをこうしたい!」など意見を出すことが多かったと思います。
――アーティストとして歌うこと、パフォーマンスすることの醍醐味は?
森崎 : 単純に歌が好きなんです。ステージに出るまではめっちゃ緊張するし、“大丈夫かな?”って気持ちもよぎるんですけど、出ちゃって第一声を発したら「もういける!」ってなります(笑)。歌ってるだけで楽しい!
音楽のルーツは祖母と一緒に聴いていた洋楽
――森崎さんはスカウトされてこの世界に入ったんですよね。小さい頃から歌を専門的に習っていたわけでもなく、それでいてこのクオリティなのはすごいですよね。
森崎 : たしかに! 才があったんでしょうね(笑)。でも、ミャンマーにいた小さい頃から、音楽はずっと身近にあったんです。祖母が音楽が大好きで、いつも洋楽が流れていて。カーペンターズやマイケル・ジャクソン、マドンナ。ボーイズグループだとバックストリート・ボーイズやウエストライフ……。それらを聴いて育った環境は大きいかも。
――そして、日本でボーイズグループに入って、さらに音楽性が覚醒したと。
森崎 : 一緒にやっていたボーカルにも負けたくないって頑張りましたから。負けず嫌いなんです。もしも、彼が歌が下手だったら、自分もボーカリストとして成長できなかったかもしれないです。
――今後、アーティストとして突き詰めたい音楽性はありますか?
森崎 : 自分の音楽がどんなジャンルか? と聞かれたら説明が難しくて。ファンクでもあるし、R&Bっぽさもある。とにかくグルーヴィーな音楽が好きだから、それをずっとやっていきたい気持ちは根底にはあります。だけど、そこだけにこだわらず、幅広くやりたい気持ちも同時にあります。
ひとつ信念として持っているのは、ずっと歌は続けていきたい。コロナ禍みたいなことが襲ってこない限り、ライブ活動は続けたいし、森崎ウィンを形成するうえで、大事な要素でもあります。僕が目指すのは“エンターテイナーとして生でも勝負できる人”。そのためには、ライブという生の現場は必要不可欠だと思っています。
自分の音楽を直接渡して、共有して、それでみんなが笑顔になって……。明日への糧を与えられる場所がライブだと思うんです。“与える”とか言ってますが、ライブをするたびに僕のほうがもらってばかりですけど(笑)。見に来てくださる方がいるから頑張れます!
初監督映画『せん』がグランプリを受賞
――いろいろなお仕事にトライされていますが、この6月には初監督したショートフィルム『せん』が「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア2024」という権威のある映画祭でグランプリを受賞。肌触りはリアリティがある映画なのに、登場人物が歌い出すというユニークなミュージカル作品ですが、その構想はどこから?
森崎 : オリジナルのミュージカル映像作品が、日本にはなぜこんなに少ないんだ? という思いがずっとあったんです。しかも、ミュージカルというとハリウッド映画の『ラ・ラ・ランド』みたいな、車の上で踊り出すイメージがありますよね。あのハリウッド映画のノリは日本語には合わないけど、日本には日本のミュージカルが絶対あるはず! というのを証明したかったんです。
――そもそもの企画は、WOWOWで放送された俳優がメガホンを取るシリーズ『アクターズ・ショート・フィルム』の第4弾だったわけですが、オファーをもらって“チャンスだ!”と思われたんですね。
森崎 : 最初に「ミュージカルを作りたい」と言ったら、予算的にも時間的にも無理だと言われて。いや、違うんですと、“日常のなかでもミュージカルはできるんだ!”とプレゼンしたんです。
僕、映画ならではの長回しのワンカットが好きなんですが、そういう昔ながらの感覚を意識して撮ろうとしていたら、撮影監督が「4対3のブラウン管の画角にしよう」とアイデアを出してくれて。撮り方も全部、手持ちカメラにして、最後の中尾ミエさんの寄りのカットだけ三脚を使いました。
そういう手持ちカメラの揺れが、リアリティのある肌触りにつながったのかもしれません。主演をお願いした中尾ミエさんとは、ミュージカル『ピピン』でご一緒していて。目の前でお芝居をしていると、この瞬間の表情をアップでお客さんに見せてあげたい! という表情をされるんです。舞台では伝わらないのが悔しいと思っていたので、それを映像で切り取りたいと考えました。
――初監督にして、これだけの高評価。また監督をしたいですか?
森崎 : 自分の中に撮りたいものが出てきたうえで、撮らせていただく機会があれば挑戦したいです。監督をしたことで、俳優部にいるだけでは携わらないスタッフの方にも会えたのは大きくて、“こういう思いで作品って作られているんだ”ってことが発見できましたし、これからの現場での過ごし方もきっと変わるだろうなって思います。それがプラスに働いて、俳優としての自分がどう変化していくかにもワクワクしています。
(取材:本嶋 るりこ)
08/24 12:00
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