MORISAKI WINの“ライブに行く理由” MORISAKI WIN LIVE TOUR 〜MODULATION〜
大河ドラマ『どうする家康』で“偉大なる凡庸”徳川秀忠を愛嬌たっぷりに体現し、『燕は戻ってこない』では女性用風俗で働くセラピスト・ダイキを無邪気さと刹那性をまじえて好演。
森崎ウィンを知る多くの人は、役によって陰と陽を自在に操る俳優として認知しているのではないだろうか。だが、彼にはもうひとつの顔がある。
それが、アーティスト・MORISAKI WINとしての顔だ。2020年、『パレード – PARADE』でデビューを果たし、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の主題歌である『俺こそオンリーワン』がオリコンダウンロードランキングでウィークリー1位を獲得。昨年は自身初となる全国11箇所をまわるライブを成功させた。
そんな実力派が今年は東京・大阪の2大都市でライブを開催する。タイトルはMORISAKI WIN LIVE TOUR 〜MODULATION〜。前回の全国ツアーが2nd アルバム『BAGGAGE』を引っさげてのライブだったのに対し、今回の東阪ツアーはいわゆるアルバムツアーではない。では、今回のライブの目的は何か。狙いは、ツアータイトルに込められている。
「やっぱりライブをやる以上、お客さんに“ライブに行く理由”を感じてもらわないといけないと思うんですね。僕の憧れであるブルーノ・マーズはライブのたびに、そのライブならではのアレンジを披露してくれて。ライブでしか聴けない音があるということが、僕が“ライブに行く理由”になっている。それを今回のツアーではやりたいなと。今回のライブでしか聴けないフェイクだったりアレンジだったりを盛り込んで。馴染みのある楽曲がまた違う印象に変化するのを会場にいるみんなで楽しめるようなステージにしたい。そこで、『変調』や『転調』という意味のあるMODULATIONをツアータイトルにしました」
ツアータイトルの名付け親は、フィロソフィーのダンスなどへの楽曲提供で知られる宮野弦士。これまでMORISAKIのライブでバンドマスターを務めていた宮野が今回は音楽監修を手がけ、4ピースによるバンドサウンドでMORISAKI WINの世界に新たな色彩をもたらす。
「曲に愛着があるほど、アレンジが変わることに抵抗を感じる人がいるのもよくわかります。ただ、僕も今年でメジャーデビューから5年目。何か変化を起こすには、ちょうどいいタイミングかなって。楽曲って音源として最初に世に出した状態が正解みたいに思われがちですけど、本当は全然そんなことない。もっと自由なものだと思うんです。音楽の解釈ってこんなにもたくさんあるんだということを、みんなと共有できるライブにしたいですね」
確かな言葉の裏づけとなるのは、精力的なライブ活動だ。多忙な俳優業の合間を縫い、7月だけで5本のイベントやフェスに参加。着々と経験値を積み上げてきた。7月中旬に開催された音楽イベントでは、1stアルバム『Flight』で収録した『START IT OVER』のニューバージョンを披露。原曲が都会的なチルアウトR&Bだったのに対し、ライブでは力強いバンドアレンジが加わり、よりビート感溢れるナンバーへ「変調」を遂げた。
こうした変化には「僕自身の内面の変化も表れている気がします」とMORISAKIは言う。
「『START IT OVER』を発表したのは約3年前。当時は、これからどういう道を進んでいけばいいのか、僕自身が迷っていて。自分の悩みをそのまま入れてほしいって作家さんにお願いしてできた曲でした。だから、わりと音数の少ないゆったりした曲なんですけど、今回、後ろの音をガラッと変えてみたら一気に前向きな曲になった気がして。たぶんそこには僕がこの3年ちょっとの間で自分の目指すべき方向を少しずつだけど見つけられて、ちゃんと前に進んでいるんだっていう実感があって、だからああいうアレンジになったんだと思う」
楽曲は、生き物だ。産声を上げたそのときから歳月と共に熟成し、歌い手の歩みに合わせて変化していく。
「自分の立っている場所や見えている景色によって、同じ曲でも表現したいものが変わってくるのが音楽の面白さ。今回の〜MODULATION〜は、MORISAKI WINとして次はこういうステージに行くんだという意志を示せるステージにしたいです」
時計にもケータイにも目がいかない時間を
改めてMORISAKI WINの音楽性を説明すると、ベースとなるのはR&B。そこにファンクやディスコ、さらにはシティポップまで、さまざまなジャンルの要素を取り込み、独自の世界観を形成している。1990年代から2000年代にかけて、日本でも男性のR&Bシンガーが多く台頭したが、現在は男性ソロシンガーに限定すると、メジャーシーンで活躍している例はあまり多くない。MORISAKI WINは邦楽R&Bの貴重な担い手のひとりである。
「僕のライブは、『行くぜー! ウェーイ!』みたいなノリはあんまりなくて(笑)。大事にしていることは、常に音楽ファースト。僕らがつくり出す音楽を体で感じていただいて、気づいたらビートに合わせて軽く踊りはじめているような。終わったときにじんわり汗をかいて、『思った以上に踊ったね』なんて感想を言い合ってもらえるところへ持っていくのが僕の理想です」
洗練されたクラブミュージックのような、ムーディーでラグジュアリーな音楽空間。訪れたオーディエンスの脳内を痺れさせる、甘く、それでいてアーシーな歌声。それが、MORISAKI WIN のライブだ。
2022年には初めてコットンクラブに立ち、今月は待望のビルボードライブも実現。上質でアーバンなサウンドを求める音楽ファンならばフックアップしておきたいアーティストのひとりとして地歩を固めつつある。
「ライブをやっているその間だけは時計とかケータイとかに目がいかない時間にしたい。僕は飛行機が好きで、初めてのワンマンライブに『FIRST FLIGHT』と名前をけたのも、来てくれたみなさんにとってライブが旅行みたいな、日常と離れたものになったらいいなと思ったからなんです。ここにいる間だけは、普段自分を縛りつけているものから解き放たれた時間を過ごしてほしい。今回のライブでも、みんなと一緒に別世界へ飛んでいきたいです」
ライブだから楽しめる、森崎ウィンとMORISAKI WINのギャップ
トレードマークは、太陽の匂いがするような笑顔。取材中も何度となくボケを挟み込み、周りを笑わせようとする、天性のエンターテイナーだ。近年はバラエティ番組に出演する機会も多く、親しみやすいキャラクターはお茶の間にも知られつつある。
だが不思議なことに、ステージに立つとその印象も一変する。リズムに乗せて体を揺らし、軽やかにターンを決める足取りは、スマートでロマンティック。一方、終盤のバラードでは気だるい色気を身にまとい、額を汗で濡らしながら切なげに歌い上げる表情は月の翳りがよく似合う。
「確かに。急に変わるんですよね。本番の直前まではヘラヘラしてるんですけど(笑)」
そんな冗談に、周りのスタッフたちが同意するように笑う。愛される人だ、MORISAKI WINは。
「たぶんそれは俳優をやっているからかもしれない。芝居の現場でも結構あるんですよ、集中して一瞬周りが見えなくなる瞬間が。ライブもそうで、音楽が鳴りはじめた瞬間に急に変わる。あの場では一体何を考えてるんでしょうね。自分でもあんまり覚えていないので、そのときの僕に聞いてください(笑)」
森崎ウィンから、MORISAKI WINへ。その「変調」を見ることこそが、彼の“ライブに行く理由”かもしれない。
(取材・文/横川良明)
MORISAKI WIN LIVE TOUR ~MODULATION~
<東京>竹芝ニューピアホール
2024年8月31日(土)開場17:00 開演18:00
2024年9月1日(日)開場12:00 開演13:00 開場16:00 開演17:00
<大阪>COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
2024年9月22日(日)開場17:00 開演18:00
2024年9月23日(月・祝)開場12:00 開演13:00 開場16:00 開演17:00
音楽監修:宮野弦士
08/09 18:00
ぴあ