ファイナリストにもなりテレビでも人気者となったミキが『M-1』に出場し続ける理由

2018年から47都道府県制覇を目標に掲げ、『ミキ漫 2024 全国ツアー』を開催しているミキ。今年は、6月下旬の東京・有楽町よみうりホールを皮切りに、秋田・佐賀・茨城・三重・熊本・北海道・徳島・沖縄・福井と日本全国を回り、11月には東京・浅草公会堂にて東京凱旋公演、大阪のなんばグランド花月にて千秋楽を迎える予定だ。

賞レースでは『M-1グランプリ』2017・2018ファイナリスト、テレビでも多数の番組に出演している二人。お笑い芸人が「手に入れたい!」と望む多くのものを、すでに手にしているようにも見えるが、彼らは何がモチベーションで、何が目標なのか。ニュースクランチ編集部が話を聞いた。

▲ミキ(亜生 / 昴生)【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

愛媛の芝居小屋で漫才をやらせてもらった思い出

――47都道府県制覇を目標に掲げた全国ツアー『ミキ漫』。このツアーを始めた経緯を教えてください。

昴生:最初は会社からお話をいただいて、普通のライブツアーとして主要都市を回ったんですけど、そのときに「ああ、いろんなところに行くのもありやな」と気づいたんです。

NGK(なんばグランド花月)やルミネ(ルミネtheよしもと)には来れないお客さんが、いろんな地方に居はるので、その人のところに行って漫才するって良いことやなって。僕らの経験にもなるし、旅好きやし。

――馴染みの劇場でやるのとは違うものですか?

昴生:全然違いますね。「この客席、なに!?」みたいな劇場もあって、そんな劇場で1時間半も漫才をやれるってあまりないですから。刺激になるし、楽しいです。

亜生:都市によって、ウケるウケないがめっちゃ違うのも発見でした。

昴生:せやな。お客さんの雰囲気は違うな。例えば、名古屋はチケットはすぐに売れるんですけど、会場が空気が重たくて“なかなか掴めへんまま終わっちゃったな”と思うことが多くて……。最初“僕らの力量なんかな?”と思って、先輩に聞いたら”俺らもそうやったで”って教えてもらって、じゃあ次はもっと沸かせられるようにしよう! とか。

あと、石川や沖縄の人はめっちゃシャイやったり、東北は冬場にやってもなかなか来てもらえなかったり……。そういうのも含めて、すごくおもろいなって。

亜生:僕らは関西出身やから、関西のあるあるを、全国のあるあるかなと思ってしゃべっちゃうんですけど、実際は全然あるあるじゃなかったりするんですよね。それは全国を回ることによって気づきました。

――たしかに、それは全国を回らないと気づかないですよね。これまで回った都市のなかで、特に思い出深いところはどこでしょう?

昴生:うーん、それぞれに思い出はあるんですけど……全国ツアーを始めて最初のほうに行った愛媛は印象に残ってます。国の重要文化財に指定されている芝居小屋「内子座(うちこざ)」で漫才をやらせてもらったんですが、“僕らに合ってる!”と思いました。普段から、新宿の「末広亭」に立たせてもらうのすごく好きで、とにかく“寄席小屋”みたいな雰囲気の場所がめちゃくちゃ好きなんです。

“ああいう雰囲気の劇場を吉本も作ったらいいのにな”って思うし、ああいうところにもう1回行きたいなと思います。愛媛は街ぐるみでその劇場を盛り上げてはる空気感も含めて、すごく良かったです。

亜生:僕は全国の良さを、ツアーで再確認しながら……結局はNGKが一番やなって思います。いまだにNGKに立たせてもらうと、漫才のオープニングから鳥肌が立つんです。お兄ちゃんと同じで、お笑いのためだけに建てられた建物とか、演芸のためだけに建てられている建物に惹かれるんやと思います。

昴生:あと、思い出に残っているのは山梨ですね。電車で向かったんですけど、事故で2〜3時間くらい止まっちゃったんです。その日、僕とマネージャーとスタッフさんは現地に早めに到着して、ご飯を食べようとしていたんですけど、結局、その事故が原因で僕らは開演ギリギリに到着したんです。

早めに出た僕らがそうやったから、通常通りの電車で来た亜生は30〜40分ぐらい到着が遅れる。……でも、ライブはスタートせなあかんとなって、僕一人で前説をやって、それでも時間が余ったんで、客席に降りて、写真撮影大会をやりました。その影響で、二人揃ってのネタ時間がギュッと短くなってしまったのもあって、もう1回ちゃんとやりに行きたいですね。

亜生:でも、僕がキャリーバッグを持ってステージに現れたとき、客席から大歓声が起こったのは良い気分やった~。

昴生:そう、なんでそこが一番盛り上がんねん! “一人で30〜40分つないでたのは俺や、シバいたろうか!”と思いましたもん(笑)。

芸人で僕らみたいな目立ちたがりは珍しい

――これまでのキャリアについても教えてください。そもそも、お笑い芸人を志した理由は?

昴生:僕は最初、同級生とコンビを組んでいたんですけど、その頃からずっとフットボールアワーさんに憧れていました。『M-1』で披露されたファミレスのネタを完コピしてたくらい。後藤さんみたいになりたかったんですよね……まあ、3年目ぐらいで“あ、無理や”って気がついて、今の路線でいってますけど(笑)。

亜生:僕は、松本人志さん、千原ジュニアさん……センスのある一言で落とす芸人さんたちに憧れていました、半年前まで。

昴生:つい最近やん!

――(笑)。

亜生:ただ、半年前に“僕は根っから、ただ目立ちたい、明るい大学生みたいなタイプやったんや!”と気づいちゃって、その道は諦めました。

昴生:もっとみんな早くに気づくねん! でも確かに、僕らみたいに芸人でここまでの目立ちたがり、珍しいと思いますよ。クラスの人気者で勘違いして、そのまま芸人になるヤツ、普通おもんないし、芸人になれたとしても仕事ないもん(笑)。それなのに、一応ちゃんと仕事しているから、同級生は腹立ってるんちゃうかなって思います(笑)。

――そうですかね(笑)。個人的に2022年のM-1の準決勝のネタがすごく好きで、売れてるミキがここまで面白いネタをやれるんだ!って感動したんですけど、落ちちゃって。

昴生:あ! それすっごくうれしいです。あのネタ、僕らもすごく好きで、手応えあったんです。

亜生:あの日、M-1の準決勝が終わって、そのまま『THE MANZAI』の収録ちゃうかったっけ?

昴生:やめ! 知らん人もおるんやから!

“害”はいいとしても“老”はイヤ

――敗者復活での進出も含め、決勝を2度経験した今もなおM-1に参加し続けてます。今、M-1に対してはどのようなモチベーションなのでしょうか?

昴生:“世代が変わったな”っていうのは、ほんまに思います。3年ぐらい前の3回戦の会場なんて、全員知らん芸人ばっかやって、そのときに“これはやばいな”と思いました。“出てる側を僕が知らんってことは、これ絶対、僕らがいつもやってるお客さんじゃないわ”って。特に今なんて、そこから輪をかけて、さらにわからんようになってきて。

亜生:いやでも、お兄ちゃんに至っては、特に知らんスピードが速いんですよ。“史上最年少老害”なんで。

▲お兄ちゃんは「最年少老害」と亜生

――そんなことはないと思いますよ(笑)。

亜生:“最年少老害”はニッポンの社長の辻さんから言われているんですけど、お兄ちゃん、すぐに師匠感を出すんです。若手の楽屋で「挨拶が弱い!」とか「ちゃんと漫才主軸にやってんのか?」とか(笑)。

昴生:ええやん、ちゃんとそういうの言ってかな。あと、最悪、老害の“害”はええねん。“老”がホンマにイヤや。僕、まだ40手前やで?

亜生:(笑)。

昴生:まあ、でも知らない人が多いのはほんまですね。あまり劇場で一緒になる機会もないので、今はM-1の予選前にYouTubeでチェックするようにしてます。どんな人らがいるんやろうって。

――気になる方はいましたか?

昴生:ミカボが面白いなあと思いましたね。いい感じで尖っているようにも見えて、ええなあって。

亜生:僕は皆さん言ってるでしょうけど、エバース。あとは吉本じゃないけど、TCクラクションさんは面白いなあと思いました。

僕らの最大の目的は上方漫才大賞

――世代の変化を感じるなかで、戦略的に変更されたことはあるのでしょうか?

昴生:んー……ぶっちゃけて言うと、僕らに“M-1=戦う”っていう感覚はもうないんですよ。全国ツアーをやって、応援してくれる人たちにたくさん会ったことで、その人たちが「M-1で見たい」と言ってくれはるから、その期待に応えたいなって。

もちろん、出るからには一生懸命やってますよ。でも、自分らがあかんかって落ち込むというより、「ああ、ファンの方々の期待に応えられんかったか……」が毎年続いている感覚なんです。日々の漫才とか、ミキ漫の延長線上にM-1があるというだけ。

亜生:僕もそうですね。僕の場合は、とにかく楽しくやりたいという気持ちが強いです。

昴生:せやから、M-1にとって邪魔やろうなとは思うんですよ。僕らみたいな存在って。

――え! どうしてですか?

昴生:だって、テレビにも出てるし、決勝も何度か出てるし、“これがきっかけで売れたい! と思っている人の枠を潰すなや”と思う人もおるんやろうなって。でも、僕らとしては漫才の最大のコンテンツであるM-1で、ずっと受け継がれてきたしゃべくりの漫才を見せたいんですよ。M-1優勝はもちろん目標ではありますけど「こういう漫才もまだ終わってないぞ!」というのを見てほしい。

▲「M-1の舞台でしゃべくりの漫才を見せたい」と昴生

亜生:M-1で優勝したら、漫才師としての空気感が変わると思うので、そういう意味では勝ちたいんですけどね。ミルクボーイさんも銀シャリさんも、優勝してさらに漫才してるのが楽しそうですもん。羨ましいなって。あと、きっと優勝したら新しくお客さんも入ってくるでしょうしね。

昴生:それはそうやな。M-1優勝っていう看板は、まあでかい!

亜生:全然違うアドバンテージを持てると思ってます。これまでよりも漫才が楽しくなりそうだなって。

昴生:M-1で優勝したら、上方漫才大賞も近づきますからね。僕らの最大の目的は、上方漫才大賞なんで。新人賞、奨励賞はいただいたので、あとは大賞だけなんです。獲ったら、一丁上がりやなと思います。

亜生:なかなか高い壁ですし、全然振り向いてくれへんけど。そういうのもあって、しっかりと漫才をやっていきたいですね。

とりあえず全部楽しんでみようと思ってます

――少し話は変わりますが、ミキのお二人は、劇場でもたくさんの舞台に立たれて、テレビやラジオ、イベントなどの場でも活躍している印象です。絶えず仕事が来る理由はなんだと思いますか?

昴生:正直、運だけで来てると思ってます。あえていうなら、運を見定める力はありますね。「ここ絶対チャンスやん!」っていうところで本気を出せる。どうしても全部が全部、本気でやってたらしんどくなっちゃうから、ほどほどに頑張って、ここぞの時に本気を出しているんです。

亜生:あとは、とりあえず全部楽しんでみようと思ってます。それは、楽しんでいるふうに見せようとかやなくて、本気で“楽しいな!”って思うのが大事で。そんな僕らを見て、楽しんでくれている方もいるのかなと思っています。

昴生:全部そうやな、とりあえず来たお話は1回やってみようって、実際やったら楽しかった! みたいな。

――ここぞのタイミングを見定める際、昴生さんと亜生さんで意見が割れることはないんですか? 例えば、この仕事はやりたくないとか。

亜生:お兄ちゃんは、釣り番組はNGやんな? 僕はやりたいんですけど。

昴生:釣れへんかったときに何もないやん。しかも、何時間も船に乗って、使われるのほんの数分とかザラにあるから。楽しい人は楽しいんやろうけど、僕は効率を考えてしまうので、ただただ効率が悪いなって。せやったら、その時間で子どもと公園に行けるやんって。

亜生:僕はクイズ番組が苦手なんです、ボケれへんから。でも、お兄ちゃんはクイズめっちゃ好きなんで、ボケなしでマジで悔しがったり、喜んだりしていて。

昴生:「10秒以内にお答えください」のときに、盛り上がりとか関係なしに、すぐ答えますからね。わかっててあえて言わずにドラマチックにするとか、せえへん。

――そうなんですね(笑)。

▲それぞれでNG仕事が違うらしい

もしも漫才がなかったら…?

昴生:そう考えると、やりたいことはバラバラなんです。でも、漫才というものが真ん中にあるから、成り立ってるのかもしれませんね。仕事の仕方も、プライベートも全然違うし。

亜生:お互いに乗り気じゃない仕事をやっているときって、相手のことをめっちゃ俯瞰で見られるし、それがエピソードトークにもできますから。ポジティブに捉えてます。

昴生:あくまでも主軸は漫才やから、そこは忘れずにいたいですね。漫才があるからテレビも出られてると思ってます。

亜生:そう思えるからリラックスして仕事できているのかも。もしも漫才がなかったら、ひな壇に座っても、目バキバキで、前へ前へ出てたと思いますもん(笑)。

昴生:テレビスターになりたくないっていうわけではないですけど、そっちよりかは上方漫才大賞が大事。

――そこはブレないんですね。

昴生:ほんまに楽しいんですよ。漫才もそうやし、ラジオもそうやし、しゃべるのがとにかく好き! みんなストレス発散でカラオケ行くけど、カラオケって歌うこと決まっているじゃないですか。だから、好き勝手にしゃべれる漫才、みんなやったらいいのにって思います。

亜生:お兄ちゃん、それはたしかにそうやけどな? みんな、やれへんねんって!

昴生:え、もしかして……?

亜生:やらへんのじゃなくて、やりたくてもできない。

昴生:じゃあ、俺たちがやれてるのって、もしかして……。

昴生・亜生:才能!?

――間違いないです!

昴生:……ごめんなさい、ごめんなさい! これだけはマジで使わんといてください!絶対に消して!

亜生:才能にあぐらをかいてるんですよね〜。

昴生:いやいや、才能はない! あぐらはかいてるけど! これでこのインタビュー終わんのイヤや!(笑)

(取材:於 ありさ) 


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