泉里香『光る君へ』であかね(和泉式部)を演じて。放送が始まってからのキャスティングに驚きつつ、役名にご縁を感じた
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泉姓の自分が和泉式部を演じる
大河ドラマ『光る君へ』の登場人物のなかでも、とりわけ鮮烈な印象を残し、話題をさらっているのがあかね(和泉式部)ではないでしょうか。情熱的な恋の歌を詠む天才肌の女流歌人であり、ふたりの親王に愛された恋多き女性――そんな魅力的な役柄をチャーミング、かつ妖艶に演じる泉里香さんに、お話をうかがいました。
――泉さんは京都市のご出身だそうですね。京都を舞台とした大河ドラマに出演された感想をお聞かせください。
大河ドラマ出演は、私にとって憧れであり、目標でもあったので、お話をいただいたときは本当にうれしかったです。しかも、京都の平安時代を題材にした作品で……。大河ドラマは幅広い年齢層の方が観てくださるので、反響の大きさを日々実感しています。両親も親戚もとても喜んでいて、毎回、楽しみに観てくれているようです。
――泉さんが“和泉”式部の役を演じることになったことも、何かのご縁を感じます。
同じ名前の和泉式部を演じさせていただくのは、たいへん光栄なこと。「泉さんだから、和泉式部の役になったの?」と、よく聞かれるのですが、本当のところはどうだったのでしょう。キャスティングしてくださった方に、ぜひうかがってみたいです。(笑)
実は、出演のお話をいただいたのは今年の3月頃だったんです。『光る君へ』の放送は既に始まっていて、一視聴者として放送を観ていたため、とてもびっくりしました。
恋する女性の気持ちは1000年前も同じ
――ずいぶん急なお話だったのですね。
そうなんです。出演が決まってから、慌てて和泉式部について調べたり、『和泉式部日記』や『源氏物語』の現代語訳を読んだり。5月頃から撮影に入ったため、あまり時間はなかったのですが、京都にある和泉式部ゆかりの誠心院(せいしんいん/和泉式部が初代住職となり創建)や貴船神社(歌に託して夫〈他の男性という説も〉との復縁を祈願したと伝わる)にも足を運びました。
(『源氏物語』の舞台である)宇治をはじめ、紫式部や『源氏物語』は、以前からわりと身近な存在ではあったんです。でも、この作品のおかげで平安時代に興味がわき、京都をもっと知りたくなりました。
訪ねたい場所もたくさんあります。祇園祭にも、和泉式部ゆかりの山鉾(注)があるそうなので、ぜひ見てみたいです。
注・「保昌山(ほうしょうやま)」のちに和泉式部と結婚する丹後守・平井(藤原)保昌(やすまさ)が、彼女のために御所・紫宸殿の紅梅を手折ってくる姿を表現している。古くは「花盗人山」と呼ばれた。
――夫のある身で、冷泉天皇の皇子、為尊(ためたか)親王と恋に落ち、親王の死後は、その弟・敦道(あつみち)親王と結ばれる。ところが、敦道親王も若くして亡くなり、その服喪後に、中宮彰子に仕えることになるわけですよね。そんなドラマチックな人生を送った和泉式部について、どんな印象をお持ちですか。
自分の心に正直に生きていて素敵ですよね。親王さまを立て続けに亡くしただけではなく、晩年は娘(小式部内侍)にも先立たれたと聞きます。恋多き華やかな人生だったかもしれないけれど、同時に、大切な人たちとの別れに苦しむ日々でもあったのでしょう。
和泉式部は1000年前を生きた女性ですが、恋する気持ちは、今も昔も変わらないんだなぁ、とも思いました。恋愛が生きがいになったり、日々の励みになったりする。同じ女性として、共感できます。
パッションのあるあかね像を
――「四条宮の和歌の会」にやってくる初登場シーンのインパクトは絶大でしたね。自由奔放で、色っぽくて、それでいて知性的で品もある。そんなあかね(和泉式部)に、がぜん注目が集まりました。演じるうえで、どのようなことに気を配られたのでしょう。
資料などを読んで準備していたときは、和泉式部は色香のあるキャラクターなのかなと想像していました。ところが、初登場のシーンのリハーサルで、「パッションのあるあかねさんで」との演出があったのです。場の空気を大胆にかき乱すような、明るさが求められたのだと思います。
中宮さまの女房になってからも、物怖じしないというか、突き抜けているというか……。和泉式部という呼び名に対して、「別れた夫の官職は嫌でございます」と、はっきり不満を言ったりする(笑)。藤壺にはいなかったタイプの女房ですよね。
台本をもらったときに、私自身もちょっと驚いたほど。どう表現するのか、明るさと上品さとの塩梅は、その都度、試行錯誤していました。
和歌の節回しを猛特訓
――和歌といえば、「黒髪の みだれもしらず うち臥せば まづかきやりし 人ぞ恋しき」という自身の恋歌を、ジェスチャー付きでまひろに聞かせたのも印象的なシーンでした。「あの夜、この髪をかき撫でてくれた人が、恋しくてたまらない」という有名な歌ですよね。
あの時代としては大胆な表現を使っているところに、彼女らしさが表れていると思います。だから情景が思い浮かぶし、彼女の心情や情熱がストレートに伝わってくる。
あのシーンでの、自分の髪を撫でるような振りは、監督の演出です。このドラマの和泉式部は感性豊かなキャラクターなので、踊るようなしぐさで和歌を詠み上げるんですよ。
和歌の節回しは、かなり練習しましたね。リズムや間の取り方はもちろん、歌の意味や詠まれた背景などを先生に教えていただき、さらにそこに感情をのせて……。流れるような節をつけたり、音を消すように音程を下げたり、と、いろいろな決まりがあるのですが、これが難しくて。歌が出てくる場面の撮影では、毎回、リハーサルの前に歌を練習する時間を設けていただきました。
――和泉式部の和歌のなかで、特に好きな歌、気になる歌はありますか。
「あらざらむ この世の外の 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな」です。(もうすぐ私は死んでしまうでしょう。あの世へ持っていく思い出に、もう一度だけお会いしたいものです、という意味)
百人一首にも入っている有名な歌ですが、恋に生きた彼女の人生そのものを表しているのではないでしょうか。「死ぬ前に、あの人にもう一度会いたい、抱かれたい」という「あの人」は誰だったのだろう、などと、想像を掻き立てられます。
今と違って、平安時代の貴族の恋愛では、相手と簡単に会うこともできない。だから、『光る君へ』のまひろと道長のように、月を見上げてお互いを想ったり、歌を交わしたり。歌に想いをのせて恋人に贈るなんて、雅で素敵だなあと思います。
――そんな恋の歌に、1000年後の私たちも感動する。和泉式部や紫式部の才能はすばらしいですね。
本当ですね。そんな和泉式部を演じられたこと、この役に巡り合えたことを、とてもありがたく思っています。だからこそ、「丁寧に演じ上げたい」という気持ちが強かったんです。
10/27 19:55
婦人公論.jp