パックン「1日1食100円の生活から、東京に家を持ち、ものを自由に購入できる現在。それでも数十円の節約を続けるのは、精神的な安定を買えるから」
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友達の家族にも助けられて
年齢が上がってからは、ほかにもさまざまなアルバイトを始めました。工場や工事現場での力仕事から、夏は芝刈り、冬は雪かきまで。大変だったけれど、「母の役に立っている」「自分の力でお金を稼いでいる」という達成感と充実感が、僕を支えてくれました。
周囲の人たちが僕に注いでくれた愛情も忘れられません。たとえば友人のジェイソン家。近所に住んでいた3人家族なのですが、いつ僕が遊びに来てもいいように、常に4人分のご飯を用意してくれていたのです。
ジェイソンがいなくても上がり込んでいたのですから、まるでもう一人の息子みたい(笑)。今でも僕が帰ると、ジェイソンママがクッキーを焼いてくれます。
ほかにも、「勝手に入って、あるものを好きに食べていいよ」と、オートロックの暗証番号まで教えてくれた友達のママや、パソコンを使わせてくれた家。大学の願書もそのパソコンで提出しました。
経済的に大変だった日々は、僕が高校3年生の時に一段落。母が大学院で教育の修士号を取り、小学校の先生になったのです。そこからは安定した収入のある生活が送れるようになりました。小さい頃から働き詰めだった経験が、僕に大学卒業後の「冒険」を選ばせたのかもしれません。
母は今でも、「ちゃんとした生活をさせてあげられなくてごめんね」と謝ってくるんです。そのたびに僕は、「いやいや、結果を見てください。僕は今、やりたいことを全部やれている。僕は今の僕が一番好きだし、ママは世界一のママだよ」と言っています。
母は一人一食100円ほどしかかけられなかった生活のなかでも、上手にやりくりして栄養を考えた食事を用意してくれました。僕が今、身長が184cmもあって健康な体でいられるのは、間違いなくそのおかげです!
苦労続きの母に素晴らしい老後が
母はその後、コツコツ貯めたお金を投資で増やし、現在はノースカロライナにあるリタイアメントコミュニティ(退職した高齢者が集まって暮らせるよう設計された街)で、悠々自適の生活を送っています。
そこは入居の一時金が数千万円しますが、ホテルのような施設で、住人は一人ずつコテージを持ち、掃除はハウスキーピング任せという優雅さ。食事は共同のレストランで食べ、みんなでカラオケをしたりプールで泳いだり。時にはバスに乗ってスポーツ観戦に行ったりもします。うらやましいぐらいです!
苦労続きだった母ですが、こんなに素晴らしい老後を過ごすことができるようになって、本当によかったと思っています。
今年の7月は、僕の高校の35周年記念の同窓会でコロラドに帰りました。母が再婚相手と一緒にノースカロライナから、姉がカリフォルニアからきてくれて、久しぶりに家族全員が揃って。
僕と2人の子どもたちを加えた総勢6名で山の中にある素敵なリゾートホテルに泊まり、川下りをして遊ぶなど大盛り上がり! 思い出に残る、最高の夏休みになりました。
大学を出て僕が日本に行くと告げた際、母が口にしたのは「いつ帰ってくるの?」という一言だけ。僕は、「1年だけ行ってくるね」と言い残して家を出たのを覚えています。けれどそれが2年になり、3年になり、ついには遠い異国でお笑い芸人になってしまったのですから、想定外もいいところです。(笑)
母はその後も口を開くたびにいつ帰るのか尋ねてきましたが、15年が過ぎた頃から何も言わなくなりました。もちろん内心は寂しく思っているはずなので、最低でも年に一度は会いに行くようにしているんです。
1ペニーの節約は1ペニーの稼ぎ
現在の僕は、家庭を持ち、東京に家も購入し、よほど高価なものでなければ自由に買える生活を送れています。けれど今でも僕のなかには、ペン1本を買うにも躊躇していた子ども時代の自分がいて。ものを買う際には「これは本当に必要で、僕を幸せにしてくれるか?」と考えてから、お財布を開いているのです。
英語のことわざに、「1ペニーの節約は1ペニーの稼ぎ」という言葉があります。働いてお金を得るのもいいですが、「使わないこと」も立派な収入源なのです。
たとえば、今日はもうすでに二つも節約で稼いできました。一つ目は、今飲んでいるジュース。これは先ほど道中の自販機で買ったものですが、コンビニより30円、テレビ局の自販機より10円も安い! こういうものを見つけられただけで、僕は一日中ご機嫌になれます。
二つ目は運動です。実は午前中、区のスポーツセンターに行って、たまたま練習していた地元の大学と高校のバレー部のみなさんに交じって汗を流してきました。スポーツジムに通うと月に何千円もかかりますが、これなら数百円で健康を維持できる。こうやってゲーム感覚で節約して、コツコツ「稼いで」います。
お金を使うのは、自分がもっとも喜びや幸せを感じられるものがいい。ある知り合いの年配女性が、1回5000円でギターのレッスンを受けているのですが、そこでは若くて素敵な男の先生が優しく指導してくれるそうなんです。彼と一緒に弾いていると、上手くなったように感じるのだとか。
僕だったら、指導力が劣るとしても、年会費5000円の近所のサークルで十分。ですが、彼女がその教室で喜びと幸せを得ているなら、それはすごくいいお金の使い方かもしれません。
僕が節約によって貯めたお金で買ったもっとも大きいものは、「安心」です。むやみに消費しないことで、精神的な安定を買えたんですね。心の余裕が生まれ、生きるのが楽になりました。
気持ちの面で豊かに生きるために実践しているのは、明日の予定を入れること。
何でもいいんです。仕事でも、友達と会うのでも、ボランティアに行くのでも。それがワクワクすることなら、「明日は一日中ダラダラしてやる!」でもいいかもしれません。人間、予定があると生活に張りが出ます。
今はまだ仕事が忙しいのですが、もう少し落ち着いたら「子ども食堂」をやりたいと思っているんです。今まで僕が受けてきた恩を、これからは社会に還元していきたい。
近所の子どもたちに美味しいご飯を食べてもらって、「お腹いっぱいになったらトランプでもやろうぜ!」みたいな。そんな空間が作れたら最高です。
10/17 12:30
婦人公論.jp