サバンナ・八木真澄「芸人の僕がFPの資格を取った理由。心が満たされていれば大富豪。相方の年収が6倍になったとき、羨ましさを感じなくなった」

「お金は必要なものを手に入れるための道具です。そこを勘違いして、お金の有無だけにとらわれていると、本当に大切なものを見落としかねません」(撮影:岸隆子)
2024年6月に、ファイナンシャル・プランニング技能検定1級の学科試験に合格したお笑いコンビ「サバンナ」の八木真澄さん。そして10月25日に金財実技の合格を発表、ついにFP1級の資格を得ました。倹約家としても知られる彼は、誰でも《心の大富豪》になれると説きます。今回は、『婦人公論』10月号のインタビュー記事を配信します(構成:丸山あかね 撮影:岸隆子)

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【写真】お金持ち自慢をされたときの対処法は…

1個のティーバッグで3回は抽出

お笑い芸人の僕が、なぜファイナンシャルプランナー(FP)の資格を取ったのか。理由の一つは、60歳を過ぎてテレビに出続けているお笑い芸人は一握りしかいないと思ったからです。

僕自身、30代半ばまではたくさんのテレビ番組に出演させてもらっていましたが、2年前からレギュラー番組はゼロに。49歳の今、「たまにテレビで見かける人」になりました。

でも、これは想定内。浮き沈みの激しい芸能界、いい時がずっと続くとは思っていませんでした。だから、50代半ばで「たまにも見かけない人」になることを見越して、FPの資格を取り、カルチャーセンターなどで教える道を作っておこうと考えたのです。

それと僕は昔から、毎月の生活費を項目ごとに封筒に分けてやりくりするなど、お金を賢く使う方法を考えるのが好きでした。売れない若手芸人時代だって、赤字を出したことはありません。

当時は、食費を抑えるために弁当とお茶を持って仕事へ行っていたのですが、周りから「お前のお茶は薄い」っていじられましたね。それはそうです。だって、1個のティーバッグで3回は抽出していましたから。

でも、そういう生活を苦しいとか恥ずかしいと思ったことはなく、少ないお金で暮らすにはどうすればいいかと、むしろゲーム感覚で楽しんでいました。

お金は必要なものを手に入れるための道具です。そこを勘違いして、お金の有無だけにとらわれていると、本当に大切なものを見落としかねません。だから僕はこう思うのです。今日、心が満たされていれば大富豪。100億円持っていても心が満たされていなかったら大富豪とは言えないのではないか、と。

日本は、30年も給与水準が上がっていないのに物価は上がる一方です。そんな時代だからこそ、お金に対する考え方や使い方を見直して、《心の大富豪》になることが、人生を豊かにするコツではないでしょうか。

そこで、僕が実践する《心の大富豪》になる方法をいくつかご紹介します。少しでも皆さんのお役に立てたら嬉しいです。

【1】見栄、優越感、劣等感を手放す

人と自分を比べる相対的な価値観の持ち主には、幸福感は得られないように感じます。上には上がいますから。

見栄を張ったり優越感を得るために、価値があると言われているものや流行っているものなど、世の中の基準にあわせてお金を使っていたら、いくらあっても足りません。いつまでたっても満たされることはありませんしね。

たとえば、100円均一で売っている腕時計も、スマホの時計機能も、高級腕時計も、教えてくれる時間は一緒です。

こんなふうに、見栄や優越感、劣等感にとらわれず、自分が求めているものは何かを見極めれば、不必要にお金をかけることはなくなる。視力が悪い人には眼鏡が必要ですが、悪くなければ必要ない。そういうことだと思います。

【2】人は人、自分は自分と割り切る

相方の高橋茂雄と「サバンナ」を結成したのは20歳の時です。デビューして10年くらいはコンビで忙しくしていたものの、ある時期から相方だけがテレビ番組に呼ばれるようになりました。

正直、収入格差が3倍くらい開いた頃は相方が羨ましかった。でも、それが6倍くらいになると同じ土俵で考えなくなり、羨ましくなくなったのです。

たとえ近しい人でも、「人は人、自分は自分」だと思えば悔しくなくなるのではないでしょうか。

【3】モヤモヤしたら税金のことを考える

生きていれば、経済的に豊かな人と自分を比べてモヤモヤすることもあるでしょう。そんな時におすすめなのが、税金について思いを巡らせることです。

日本は累進課税なので、稼げば稼ぐほど納める税金が高くなる仕組み。たとえば個人事業主の場合、年収4000万円以上は45%の所得税、1億円以上の場合は60%の税金がかかります。さらに、住民税、消費税もかかる。つまり、お金を稼いでいる人は、高額納税をしているということです。

僕はよく公園で鳩を眺めて過ごしているのですが、園内がきれいに整備されているのも、公衆便所にトイレットペーパーがあるのも、たくさん稼いだ人、現役で稼いでいる人が納めた税金のおかげだと思うと、妬むどころか感謝の気持ちが湧いてきます。

治安を守ってくれる警察官や消防士の給与も税金です。ありがたいことです。

ただ、金持ち自慢を聞かされるのは気持ちのいいものではありませんよね。そんな時は「奢ってくださいよ!」と言ってみましょう。そこで話が止まる人は金持ちではなく、金持ちに見えるただのケチだと認定すればOKです。

【4】費用対効果は《自分値段》で決める

お金は、必要としている何かと交換してこそ、初めて価値が生まれます。ただ、商品についている値段が、自分にとっての価値とイコールとは限りません。

僕はものを買う時、「それが手に入らなくなった時に、いくらまで払えるか」ということを一つの判断基準にしています。

たとえば僕の場合、卵は1個100円、カレーのルーは1箱800円までなら払ってでもほしい。でも実際は、卵もカレーのルーも300円前後で購入できる。費用対効果の高い、お得な買いものだと言えるわけです。

逆に、こだわりのないものや、どれを選んでも効果や結果にさほど差がないと感じるものは、安ければ安いほうがいい。僕は、バッグにはものが入ればいいと思っているので、ブランドものは必要ありません。プールは泳げればいいので市民プールで十分。新幹線は自由席もグリーン車も、到着時間は一緒です。

僕が好きでよく行くカレー店は、ポークカレーが591円、ビーフカレーは718円です。でも、ご飯と福神漬けが一番好きな僕にとってルーはどちらでもいいので、当然いつも値段の安いポークカレーを頼みます。

値段が高いから価値があるというのは思い込み。自分が本当に必要としているものがわかっていれば、おのずと費用対効果の高いものを選ぶことに繋がるのではないでしょうか。

【5】視点を変える。工夫を楽しむ

実は去年、インフレ(物価高の状態)に強い固定金利で32年の住宅ローンを組み、建売住宅を購入しました。もちろん、ローンの契約者である僕が死んだら返済を肩代わりしてくれる団体信用生命保険制度にも加入済みです。損をしないためには、やはり知識は欠かせませんね。

たった14坪の土地に立つ3階建てのわが家は、総面積105平米。「家が細すぎて通り過ぎてしまう」と自分でネタにするくらい、極細の狭い家です。けれど、リビングに作り窓を取りつけたり、カーテンを天井のギリギリから吊るしたりと、目の錯覚効果を利用して狭さを感じさせない工夫を楽しんでいます。あるもので工夫する。これ、大事です。

大人になるとなぜか、「楽しいこと=消費」という発想になりがちですが、楽しいことをお金に結びつけずに探してみれば、思いのほかたくさん見つかるものです。

僕にとっては、FPの勉強もその一つ。問題集を1冊買えば、勉強に費やす約1年分の時間を楽しく過ごせます。飽きた頃には試験に受かり、お金の知識も増えるわけですから、こんなにコストパフォーマンスのいいものはありません。

お金は必要ではあるけれど、幸せとは比例しない。これが体に染みつくと、だいぶ人生が楽しくなります。大富豪かどうかは、心の持ち方次第。自分で決められるのです。

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