池畑慎之介「72歳ひとり暮らし。終活にとらわれず、新たに2ヵ所の家を手に入れて。《やりたいこと》リストが常にいっぱいだから、寂しさを感じる暇はない」

「次はこれをやろう、あれをやろう、と忙しくて、〈寂しい〉と感じているヒマもありません」(撮影:鍋島徳恭)
50年以上ひとり暮らしを続ける、おひとり様のベテラン・池畑慎之介さんは、自宅の居心地のよさをなにより大事にしているそうです。賃貸物件を転々としていた時期もありましたが、今は老後を見据え、工夫を凝らした一軒家を建て、自由なひとり暮らしを楽しんでいます(構成=内山靖子 撮影=鍋島徳恭)

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【写真】池畑さんの自宅屋上からの眺望は絶景

前編よりつづく

キッチンが広くなりほしいものを揃えて

私はひとり暮らしのベテランですから(笑)、やりたいことが常に山積みです。10年ほど前から「やりたいことリスト」を書くノートを作り、自分が挑戦したいと思ったことはすべて書き留めるようにしています。

「豚汁を作りたい」「車の床に落ちているパンくずを掃除したい」などの小さなことから、「居間の壁紙を張り替えたい」「海辺の平屋に住みたい」といった大きなことまで。実行できた項目はどんどん消していくので達成感があります。

ただ、消したそばからまた新たな目標を思いつくので、ノートには常に30項目以上の「やりたいこと」が残されている。それだけあると、人は後ろ向きにならないんですよ。次はこれをやろう、あれをやろう、と忙しくて、「寂しい」と感じているヒマもありません。

近頃は、ひとり暮らしになって時間ができると断捨離や終活を始める方も多いですけど、やみくもにモノを減らすのはどうなんでしょう。

もちろん、今の自分にとって不要なモノを処分するのは賛成です。私も数年前に、父から相続した高輪のマンションを筆頭に、ハワイの別荘や福岡県の糸島にあったマンションをすべて手放しました。

50代までだったら、飛行機に飛び乗って、あちこちの家を渡り歩くのも楽しかったけれど、この年齢になったら、もう少し落ち着いた暮らしがしたいですからね。

一時期夢中になって80体以上も集めた、女の子のファッションドールもすべて売り、若い頃にオーダーして作ったケリーやバーキンなどバッグの数々も、70代の私が持つには重すぎるので、本当に好きなものだけ残して手放しました。

でも、それは単に興味がなくなっただけ。もともと飽き性なんですよ(笑)。その証拠に、必要なものは今でもどんどん買っています。佐島の家は以前よりキッチンが広くなったので、ジュースを作るためのミキサーや糖質をカットできるというロカボ炊飯器など、ほしいものを次々と揃えました。

さらに先日、熱海にマンションも買ったんです。長年、一緒に卓を囲んでいる麻雀仲間の女性たちと、「みんなで温泉に行きたいわね」ってしょっちゅう言い合っていたのがきっかけ。だったら温泉つきのマンションを買い、みんなが泊まりこみで麻雀できるように改装しようと思い立ちました。

糸島も、別荘を手放した翌年に観光大使に任命されたので、地元でゴルフ場を経営している知人の土地に大型のトレーラーハウスを置かせてもらって。昔から「トレーラーハウス暮らし」が夢だったんです。

結局、新たに2ヵ所、家が増えましたけど(笑)、これからまだ10年、20年と生きていくわけでしょう。「終活」という言葉にとらわれず、今の自分にとって必要なものは手に入れていったほうが、人生がはるかに楽しくなると思うのです。

リバースモーゲージで最後はゼロに

熱海と糸島の住まいはいわば趣味の家ですから、いつでも手放せる気軽さがあります。一方、私が気にかけているのは、終の住処となるであろう佐島の家です。

伴侶も子どももいない私が死んだら、この家はどうなってしまうのだろう?それを考えると、死んでも死にきれない。大阪に姉がいますが、すでに70代半ば。姉の息子ともあまりつきあいがないので、この家を譲る気はありません。友人に処理を頼むのも迷惑な話でしょう。

そこで、いずれはリバースモーゲージというシステムを利用しようかと考えています。

自宅を担保にお金を借りて、死後に銀行に家を買ってもらって返済する。このシステムなら、誰かに迷惑をかける心配もなく、安心して死ぬまで今の家に住み続けられます。

借りたお金は自分の好きなことに使って、最後はゼロにしてしまえば、相続で揉めることもなく、おひとり様には好都合。

大好きな家だからこそ、生きているうちに行く末を決めておきたい。安心して成仏するためにも(笑)、それが目下、私に残されている課題です。

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