池畑慎之介「72歳ひとり暮らし、海の見える秋谷の家を手放して、エレベーター付きの安全な終の住処を建設。新居では、ご近所さんと親しい仲に」
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階段もコンロも安全第一で
相模湾を望む、神奈川県横須賀市の佐島に新しい家を建て、3年前に引っ越しました。引っ越しを決めた理由はただひとつ。52歳のときから暮らしていた、新居と同じ三浦半島の秋谷(あきや)の家が、「階段だらけ」だったからです。
16歳で上京し、若い頃に1年間だけ同棲した経験はあるものの(笑)、それ以外は72歳になる今日までずっとひとり暮らしをしてきました。
誰かと一緒にいるほうがリラックスできるという方もいますけど、私の場合は、家でひとりきりの時間を過ごすことで自分自身をリセットできる。心身ともにくつろげて、「帰りたい」と思える家を持つことが、食べることや着飾ることより大事だと考えています。
秋谷の家も、自分で設計し、インテリアなど細部までこだわったお気に入りだったので、ここを終の住処にしようと考えていました。
ただ、リビングや屋上から海が見える眺望を優先したため、丘の斜面の土地を購入してしまったのです。必然的に、どこへ行くにも階段が必要な家になってしまって……。
カーポートに車を停めてから20段もの階段を上ってようやく玄関にたどり着き、1階に入るにはそこからまた6段、さらに螺旋階段を上って2階のリビングへ。ジャグジーを設置した屋上に出るには、2階からさらに20段ほどの螺旋階段を上らねばなりません。
この家を建てた50代の頃は元気いっぱいだったから、階段が多くても平気でしたが、この先10年、20年とひとり暮らしをすることを考えると、ここは「危険な家」になってしまうだろうなと思って。
実際、この家に住んでいる間に足首を骨折し、しばらく松葉杖を使わなければならない時期があったんです。階段の上り下りはもはや命がけ。それがきっかけとなり、もっと安全な家を建てることにしました。
残念ながら、秋谷の家の近所には新たに家を建てられる土地がなく、秋谷から少し南に下った佐島の住宅地に土地を購入。今の家を建てるにあたり「マスト」だったのが、エレベーターをつけることです。そうすればこの先、松葉杖を使うことになったり、年齢とともに体力が衰えたりしても安全に暮らせるでしょう。
とはいえ、今からエレベーターに頼っていると足腰が弱ってしまうので、積極的に階段を使っています。段の高さを低くし、踏面の幅を広めにして。万が一、足を踏み外して頭を打っても大ケガをしないように絨毯を敷き、手すりもつけました。
お風呂場にもL字形の手すりを設置。ひとり暮らしなので、入浴中に溺れても誰も助けてくれませんからね。
キッチンの調理用コンロは、安全を考えてIHにしています。ひとり暮らしで火を使うのはやっぱり怖い。IHなら、うっかり消し忘れても自動で電源が切れるので安心です。
作りすぎた煮物はご近所さんと食べる
佐島に引っ越してきてからは、それまでの生活ではしてこなかったご近所づきあいもするようになりました。自宅があるのはアメリカの郊外のような開放的な作りの住宅地で、両隣の家との間に塀がなく、玄関の位置も対面する家と向かい合わせになっています。
おかげで、近所の方たちと自然に言葉を交わすようになって。煮物をたくさん作ったときなどは、「食べる?」と聞くと、向かいの奥さんが「食べる!」と保存容器を持ってうちまでやってくるんです。
ご近所の方と連れ立ってショッピングに出かけることもありますし、先日は家族ぐるみで初めてスシローに行きました。(笑)
ひとり暮らしだと病気になったときに不安、という方もいますけど、何かあったときに助けてもらえるかもしれないという下心があって、ご近所づきあいをしているわけではありません。たまたまいい人たちばかりだったから、おつきあいを楽しんでいるだけ。
そもそも、近くに親しい人や家族がいても、面倒を見てくれるとは限らないじゃないですか。しんどいときに夫が、「チェッ、俺の飯は?」とか言ったら、そのほうがイヤでしょう?(笑)
「ひとり暮らしは寂しい」と思われがちですが、それはひとり暮らしのよさを知らないからだと思います。自分の好きな暮らしを存分に楽しむには、むしろ誰かと一緒ではできないこともある。夜中の思いつきで、キャンピングカーに乗り旅に出ても、誰も文句は言わないし。(笑)
もちろん、今までずっと家族と暮らしていた方がひとりになったら寂しいだろう、というのは想像できます。だけど、最後はみんなおひとり様になるわけですから、家族と同居しているときから、ひとりで過ごすのに慣れておくに越したことはない。まずは、「1日2時間だけ秘密の時間を持つ」ことから始めるとかね。
夫に「今日はどこに行くの?」と聞かれても、「内緒」って家を出て、その2時間で映画を観てもいいし、図書館に行って本を読んでもいいし、行きたかった街をぶらぶらと散歩してもいい。
そんなふうに自分だけの時間を楽しむ練習をしておけば、実際にひとりになったとき、途方にくれずに済むのではないのでしょうか。
09/27 12:30
婦人公論.jp