抗がん剤の副作用で心肺停止寸前になった宮川花子。神妙な顔の医者が告げた、大助からのまさかの伝言は「オリックスが…」

(写真提供:Photo AC)
夫婦漫才コンビの宮川大助・花子さんは、2024年11月にコンビ結成から45年を迎えます。妻・花子さんは2019年、血液のがん「多発性骨髄腫」と診断され、現在も闘病中。夫・大助さんは、ご自身も腰の痛みを抱えながら、花子さんを懸命に支え続けています。そんな大助さんに対し、花子さんは「どれだけ深刻なときでも、あの人といると笑ってしまう」と語っていて――。今回は、お二人の闘病・介護の日々が綴られた著書『なにわ介護男子』から一部引用、再編集してお届けします。

* * * * * * *

【イラスト】神妙な顔の医者が告げた大助からの伝言は「オリックスが…」

心肺停止寸前。「花子、がんばれ!」

2022年10月29日のこと。

ベッドに横になっていると、ものすごく胸が苦しいんです。

大助くんに頼んで車椅子に乗せてもらいました。

不思議なことにストーブの前に座っていると、胸が少しスーッとして「あれ? 大丈夫かな」と。

理屈はわかりませんが、空気が温もってスチーム状になり、吸い込みやすくなるんでしょうか。

でも、またベッドに横になると苦しい。耐えられないくらい苦しい。

まったく息ができず、海の底で溺れ死にしそうな感じです。

私が呼吸困難に陥っている様子を見て、大助くんが「これは、あかん」と慌てて救急車を呼んでくれました。

深刻な状態

救急車に乗るなんて初めてのことです。

救急隊員の方々が家に来たところまではわかっていましたが、それからの記憶はまったくありません。

『なにわ介護男子』(著:宮川大助・花子/主婦の友社)

のちに聞いた話だと、一緒に乗り込んだ大助くんは、私の手をギューッと握り、「花子、がんばれ! 花子、がんばれ!」と大声で励まし続けていたそうです。

その声が救急車のスピーカーから外にガンガン響いていたというんですから、えらいことです。

折しも、統一地方選挙に向けた選挙活動の真っ最中。

私が立候補していると勘違いした人もいたんでしょう。

開票してみたら「宮川花子」に3票入っていたそうです(笑)。

<イラスト:すぎやまえみこ 『なにわ介護男子』より>

というのは、のちに作った漫才のネタですが、大助くんが叫んだのはほんまの話。

嫁が抗がん剤の副作用で肺に水がたまり、死にかけていたんですから、動転するのも無理はありません。

奈良県立医科大学附属病院に担ぎ込まれたときは、心肺停止寸前・意識不明という、これ以上ないほど深刻な状態でした。

毎日病院へ

目を覚ましたのは3日後。

気がつくと、集中治療室(ICU)のベッドの上でした。

当時は、コロナウイルス感染予防のために家族との面会は一切禁止です。

それがわかっているのに大助くんは毎日、病院にやってきては、居ても立ってもいられない様子でウロウロしていたそうなんです。

見かねた先生が「花子さんに伝言があれば伺いますよ」と声をかけてくださったみたい。

大助くん、うれしかったんでしょうね。

メッセージを預けて、ようやく安心して帰っていったそうです。

大助くんの伝言

その先生がICUに来て、「大助さんから、ご伝言を預かりました」と神妙な顔でおっしゃるから、何かあったのかとドキドキしながら「はい、お願いします」と言うと、「オリックスが優勝したよ」。

は?

確かに救急搬送されるまで二人で日本シリーズのヤクルト対オリックス戦を見てました。

見てましたけど、心肺停止の状態で救急搬送され、生きるか死ぬかをさまよって、ようやく意識が戻ったばかりの嫁にそんなこと言います?

それも毎日病院に通ってきて、なんとか会えないかとウロウロして。

後日、「なんであんなこと言ったん?」と聞いたら、まじめな顔で「気になっているやろうから、ちゃんと教えておいたほうがええと思って」ですって。

おかしいでしょう。

どれだけ深刻なときでも、あの人といると笑ってしまうんです。

※本稿は、『なにわ介護男子』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。

ジャンルで探す