「本当の俺のことは誰も知らないんだ」谷中敦だけが気が付いたジョン・レノンと奥田民生の“共通点”

「冷めたユーモアや、力の抜けた笑いの感覚と……」谷中敦が奥田民生と意気投合した“もう一つの理由”〉から続く

 幾度となく共に酒を飲み「民生さんからダメ出しをくらい続ける」と笑いながら語る、東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦。演奏をしていく中で気が付いた、ジョン・レノンと奥田民生の共通点は……。(全2回の後編/前編を読む)

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聴いている人の心を震えさせる「歌声の魅力」

――「美しく燃える森」(2002)の民生さんのボーカルは艶っぽくて魅力的でした。民生さんの歌声の魅力は全般的にどこにあると思いますか?

谷中 かつてジョン・レノンさんが自分のボーカルを評してこんなことを言っていたんです。「僕はたいして歌がうまくないかもしれないけど、自分のシャウトで人を盛り上げることならできる」って。たぶん若い頃だと思いますけど、民生さんの声も人を盛り上げる、興奮させる声なんですね。しかもシャウトだけでなく、小さい声で歌っていても、聴いている人の心を震えさせる。

 スカパラのメンバーから聞いた話では、「俺がラブソングをマジに歌ったらみんな泣いちゃうから、そんなに真面目に歌わないんだ」と民生さんが言っていたそうです。「酒飲んで歌うくらいがちょうどいいんだよ」って。「だから楽しくてつい飲み過ぎてしまう。西日本では本当の俺の声は誰も知らないんだ」って嬉しそうにしゃべっていたのは見たことがあります。本気でそう考えてるのかはよくわかりません。

――民生さんは一緒にお酒を飲んでいて楽しい方ですか?

谷中 楽しいですよ、もちろん

――話していてためになるとか、そういうところもありますか?

谷中 僕が民生さんにいろんなことを言って、民生さんからダメ出しを食らいつづけるイメージです、つねに。それによって学ぶことはいっさいないんですけど(笑)。ずっとダメ出しを受けて、嬉しいなと思いながら聞いています。そして反省せずに、またダメ出しを食らう。そういう付き合いをずっとさせてもらっている感じです。面白がってくれたと思うんですよね、酔っぱらっていた僕を。だからまあ、それはそれでいいかなって。

「流星とバラード」は曲が歌い手を呼んでいた

――「美しく燃える森」の8年後、2010年に再びスカパラは「流星とバラード」で民生さんとコラボレーションを行います。どういう経緯でしたか?

谷中 あの時は曲が呼んでたんじゃないかな? メロディーができたあと、これは民生さんに歌ってもらうのがいちばんいいんじゃないかっていう意見がメンバーから出て。それで民生さんに合わせて、僕が詞を書きました。

――「流星とバラード」はどんなイメージから歌詞を書きましたか?

谷中 メロディーから感じられるイメージを一生懸命スケッチした覚えがありますね。難しい曲なんですよ。「タッ、タララ」で始まるんですけど、「タッ」の部分にどんな言葉を入れればいいのかいろいろ悩んで、最終的に「さっきまで」になったんです。

――8年ぶりに共同で曲作りをした、その時の印象はどうでしたか?

谷中 印象的だったのはミュージックビデオを撮影した時のことですね。撮影中に民生さんが、「スカパラと一緒に音楽をやると、音楽をちゃんとやれって言われている気がする」と話していて、珍しく殊勝なことを言ってるなと(笑)。へえ、そういうことも言うんだなと思いました。とはいえ、「いつも真面目にやってますよね?」って聞くと、「そりゃあやってるよ」って答えが返ってくるわけですけど。

――ステージ上で共演する機会もけっこうありましたよね。

谷中 そうですね。民生さん流に言うと「多くも少なくもない」(笑)。でもそれなりにあったと思います。民生さんはステージ上でカンペを見るのがうまいんです。「カンペなしで歌詞を覚えてくださいよ」って言うと、「難しくて覚えられない」って言下に否定される、そんなやりとりを何回かしてきました(笑)。

 民生さんは歌いながら後ろに下がって、下がりながら下に張ってあるカンペを見るんです。でもまわりからは見ていることが全然わからない。そうするとまた、「俺は技術が違うんだ」みたいなことを言うんですけど(笑)。

「やっぱり民生さんの歌声は人を興奮させるんですよね」

――思い出に残っているライブはありますか?

谷中 大阪だったかな、「美しく燃える森」を初めて観客の前で披露した時の熱狂はすさまじかったです。やっぱり民生さんの歌声は人を興奮させるんですよね。あらためて感じました。

 2010年、スカパラの20周年ライブを両国国技館で行った時は、アンコールのサプライズゲストとして民生さんに出てもらいました。民生さんが登場した時の爆発するような盛り上がりも忘れられませんね。

 と同時に、スカパラと同じ黄色いスーツで出てくれたんですけど、出てくるなり「ゲッツ!」のポーズをして、スカパラのステージでそれはやめてほしいと思ったのも覚えてます(笑)。お父さん、恥ずかしいからやめてっていう、家族みたいな気持ちでしたね。

――11月16日に行われるスカパラの35周年ライブ「スカパラ甲子園」にも民生さんは参加します。大事な場には欠かせない方なんですね?

谷中 スカパラにとって特大の人なんですよ。僕自身にとっても、民生さんに歌ってもらった曲はいまだに面白い歌詞が書けたなと思える楽曲なので。民生さんと一緒にできるのは、それだけで幸せなことですし、スカパラの節目にはこれからもずっと歌っていただきたいなと思ってます。

長く音楽を続けられる秘訣

――民生さんも、スカパラのみなさんも、長く音楽を続けられているのは、きっと音楽に飽きてないからですよね?

谷中 そうですね。なんだかんだ言って、民生さんも真面目に音楽と向き合ってきた方ですけど、真面目に向き合いすぎないことが大事なのかなって。頭の中が音楽だけになってしまうと、飽きが来る気がするんです。だから遊びを加える。

 僕もそうですね。もちろん真面目にやるし、努力もするけど、どこかしら遊びの感覚を持っていないと、マイナスの方向に加速してしまうこともある。だからゆとりを持つっていうのかな。ある程度ちゃらんぽらんな自分を受け入れてあげることが大事ですよね。

 集中することも、僕は諸刃の剣だと思っていて、集中と中毒には似たところがある気がするんです。たとえば楽器の練習に集中して、練習以外のことはしたくないみたいになってしまうのは、あまりいいことだと思えない。僕はそれを“集中毒”と呼んでいます。ひとつのことを考えていれば、他のことを考えなくて済むという、逃げでもあるじゃないですか。

――たしかにその通りですね。

谷中 すると、「あんた、また仕事に逃げてるの?」って家族に言われたりして(笑)。それだけになってしまうと、それがうまく行かなくなった時に、すべてなくしてどこかへ消えてしまおうと思ってしまうかもしれませんよね。

 そうならないためにも、遊びの感覚やちゃらんぽらんな部分を、自分の常備薬としてつねに持っておく必要があるのかなって。民生さんが意図的にそうしているのかわからないですけど、真面目さとユーモアのバランス感覚はどこかで取ってるんじゃないですかね。

――それはもはやミュージシャンとしてどうかというより、人としてどう生きていくかの話ですね。

谷中 そうだと思います。音楽の魅力って人の魅力ですから。魅力ある人の音楽は、やっぱり面白いですよね。

写真=三浦憲治

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(門間 雄介)

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