安全対策強化の中で起きた中国・深圳の男児死亡事件、日本人学校の保護者らに動揺広がる

 【深圳=田村美穂】中国広東省 深圳しんせん 市で日本人学校に登校中の男子児童(10)が男(44)に刺された事件は、男児が19日未明に死亡する最悪の結果となった。中国人に男児を悼む動きが出ている一方、日本政府が学校の安全対策を強化している中で事件は発生しており、保護者に動揺が広がっている。

 事件から一夜明けた19日、男児が通っていた日本人学校には朝から、弔意を示す菊や白いバラを手にした中国人が続々と訪れ、校門の前で手を合わせた。

日本人学校の校門前に供えられた花束(19日、中国・深圳で)=大原一郎撮影

 長男(12)と訪れた近くの主婦、陳秀蓮さん(56)は白い菊を手向け、「子供に罪はない。決して起きてはいけない事件だ。悲しくて哀悼の意を示しにきた」と話した。会社経営の劉敏さん(43)は日本人学校の前を毎日通って、亡くなった男児と同い年の長男(10)の送迎をしている。「悲しみに暮れている」と書いたカードを添えた菊の花を供えた。

 深圳市内で住民に話を聞くと、中国に根強い反日感情への疑問を投げかける人もいた。男性(54)は「もし日本人を狙ったのであれば、 復讐ふくしゅう 心を育てるような教育が起こした悲劇だ。子供を傷付けてはいけない」と怒りをあらわにした。

日本人学校に花束を手向ける人たち(19日、中国・深圳で)=大原一郎撮影

 複数の目撃者によると、男に刺された男児は大量の血を流して横たわり、近くで登校に付き添っていた母親が中国語で「助けて」などと大声で泣き叫んでいたという。

 深圳日本人学校は19日、緊急の保護者会を開いた。日本人学校や在広州日本総領事館によると、保護者会には約290人の保護者が出席し、学校側から経緯の説明などがあった。日本のスクールカウンセラーがオンラインで参加し、子供たちとの向き合い方についても話したという。塚本昌夫校長は男児について「きょうだい思いで動物好きな命を大切にする子だった」と涙を浮かべた。

 中国では6月、江蘇省蘇州市でスクールバスを待っていた日本人母子ら3人が刃物を持った中国人の男に襲われた。蘇州の事件を受け、深圳日本人学校では警備員を増員するなど対策を取ってきたという。保護者の中には涙ぐみ、放心状態の人もいたという。徒歩で子供を通学させることへの不安の声も寄せられた。塚本校長は「警備への対策を取ってきた中で再び起きた。とてもショックだ」と語った。

 事件を受け、日本企業も対応に動き始めた。パナソニックホールディングスは19日、中国本土で働くグループ会社などの日本人駐在員の希望者を対象に、一時帰国の費用を会社が負担すると決めた。配偶者や子供なども対象に含める。相談窓口を設け、在宅勤務も認める方針だ。

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