中露+「第3の隣国」 バランス外交に苦慮するモンゴル ウクライナ侵略で国際環境激変

【ウランバートル=三塚聖平】モンゴルが、ロシアのウクライナ侵略で国際情勢が激変する中でバランス外交に腐心している。歴史的に関係が深く今もエネルギー輸入で頼る隣国ロシアへの配慮が欠かせない一方で、民主主義国家として「第3の隣国」と位置付ける日米欧との関係強化を積極化させている。経済的に影響力を拡大させている中国との距離も慎重に保とうとしている。

ロシアにエネルギー安保を握られ

首都ウランバートル市街を一望する丘「ザイサン・トルゴイ」に社会主義時代に建てられた記念碑がある。旧ソ連との友好関係を描いたモザイク壁画があり「ソ連の16番目の共和国」と言われた歴史が残る。

1990年代に民主化したモンゴルだが、ソ連の後継国家ロシアのウクライナ侵略への表立った批判は避け、国連総会の対露非難決議は棄権した。ガソリンや電力の主要輸入相手国であるロシアの立場を完全に否定するのは難しいためだ。2021年にはロシアからのガソリン輸入が滞って混乱し、ロシアにエネルギー安全保障を握られた現実を国民に改めて実感させた。

「第3の隣国」との関係強化急ぐ

一方で民主主義国家として価値観を同じくする西側諸国との関係強化も急ぐ。オユーンエルデネ首相は昨年8月に訪米し、ハリス副大統領と協力深化で一致したほか、「民主主義」を双方が強調した。モンゴルには昨年、マクロン仏大統領、ローマ教皇フランシスコが、今年4月にもキャメロン英外相が訪問した。

モンゴルは隣国の中露両国に過度に依存することなく、日米欧などを「第3の隣国」と位置づけて重視してきた。ロシアが米欧との対立を鮮明にしたことを受け、バランスをとるためにも日米欧との関係強化を急いでいるもようだ。

現地メディアの記者は「外交上のバランスは、大国に挟まれたモンゴルの死活にかかわる問題だ」と指摘する。ウクライナ侵略後にモンゴルの地政学的な重要度が増しており、変化を活用して国際的な存在感を向上させようとするモンゴル政府の狙いも透ける。

ノモンハン事件85周年でプーチン氏は?

6月28日に行われた国民大会議(国会)の総選挙で与党モンゴル人民党が勝利しており、現在の外交方針が継続される見通しだ。

対露関係では、モンゴル国境付近で旧ソ連軍と日本の関東軍が衝突したノモンハン事件から今年で85周年を迎える。プーチン大統領は80周年の19年、75周年の14年にそれぞれモンゴルを訪問。フレルスフ大統領とプーチン氏は昨年10月に北京で会談した際、24年9月に戦勝を共同で祝うことで一致した。モンゴルは国際刑事裁判所(ICC)加盟国で、戦争犯罪容疑でICCから逮捕状を出されたプーチン氏を拘束する義務もあり動向が注目される。

「中国がくしゃみをすればモンゴルが肺炎に」

経済面で中国への依存をさらに深めた。23年の対中輸出は前年比約3割増で、輸出全体の約9割を占めた。石炭輸出の拡大が牽引した。ウランバートルでは中国企業の看板や中国人旅行客の姿も目立つ。現地の企業関係者は「中国がくしゃみをすればモンゴルが肺炎になるほど中国経済に依存している」と指摘する。

経済関係強化に従い対中嫌悪感は以前より減退したが、清朝の支配を受けたといった歴史的な経緯もあり対中依存増大への警戒感は根強い。ウランバートルで働く30代の女性は「中国は人口も経済規模も大きすぎるので飲み込まれないように注意する必要がある。中国が周辺国と抱えている国境問題もモンゴル人はよく見ている」と話した。

近年、中露が結束を深めていることも両国に挟まれたモンゴルにとっては警戒要因とみられる。現地では日本とのさらなる関係強化に期待する声も多い。

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