北朝鮮の水害被災者「平壌行きチケット」巡り熾烈な争奪戦
北朝鮮の金正恩総書記は、先月末の大雨、洪水による被災地となった平安北道(ピョンアンブクト)義州(ウィジュ)郡を再び訪れたと、国営の朝鮮中央通信が10日、報じた。
「災害復旧のための重大措置を取る」と題されたこの記事だが、その中ではこう説明されている。
被害復旧期間、平安北道と慈江道、両江道の罹災民家族の全ての子供たちと生徒たちを平壌に連れて行き、国家が全面的に負担して安全で便利な環境の下で保育と教育を受け持って提供する非常システムを稼働させ、老人と病弱者、戦傷栄誉軍人と幼児の母親も平壌で国家的な保護・恩恵を提供しようとするという重大措置を発表した。
(参考記事:「罹災した子供たちを平壌に」金正恩氏、水害被災地で表明)
被災地は大騒ぎとなり、被災者は先を争って平壌行きのチケットを手に入れようとしている。平安北道のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
朝鮮労働党平安北道委員会(道党)は、平壌に連れて行く対象者を選ぶ作業を行っている。発表どおりに老人、病弱者、栄誉軍人(傷痍軍人)、幼児とその母親が対象だが、地域別に割り振って対象を選ぶと、平壌に行ける人が少なくなってしまう。そこで、国家功労者、最高指導者に直接会った経験を持つ接見者も対象に含めることにした。
さほど数の多くない平壌行きのチケットを巡り、現地では争奪戦が起きている。
ほんの少し体に不自由なところがあるだけなのに、話を盛ったり、子どもの年齢をごまかしたりして、なんとしてでも平壌に行こうと熾烈な争いを繰り広げている。
その理由は極めて単純だ。
「平壌に行けば、当分の間は災害復旧に動員されることもなく、避難所生活より楽なところで食事の心配をすることなく暮らせるから」(情報筋)
首都・平壌は「選ばれし者たちの街」だ。言動に問題がなく、成分(身分)がいい人でなければ、入市すらできない。居住はもちろんのこと、単純訪問であっても面倒な審査が必要になる。市民は、北朝鮮の地方とは比べ物にならないほど豊かで、タワーマンションや展示館など、地方住民にとってテレビでしか見たことのない有名施設も多い。そんな平壌にしばらく住めるというのだから、先を争って行こうとするのは当たり前のことだろう。
一方、極めて劣悪な状態に置かれていた現地の避難所だが、金正恩氏が訪れて以降、急速に環境が改善している。
食事はトウモロコシ飯、薄いみそ汁、塩漬け大根だけだったのだが、今ではトウモロコシが半分入った銀シャリにありつけるようになった。これだけでも、避難者の満足度が非常によくなったという。
また、水害以降続いていた停電も解消し、今では1日12時間以上、電気が供給されるようになった。これも金正恩氏の指示に基づくものだ。
さらに道党と郡党(朝鮮労働党義州郡委員会)は、被災者からの要望が絶えなかった飲水と体を洗うための水を3日に1度、供給することとした。避難する時に着ていた服しかなく、水が足りず体が洗えないため、避難所からは悪臭が立ち上り、被災者の頭はシラミだらけだったと別の情報筋が伝えている。道党と郡党は、トコジラミ、シラミなどの退治のために、消毒も行うと約束したとのことだ。
被災者の評判は非常に良い。
「今まで被災者の抱えていた問題が迅速に解決されて満足している。元帥様(金正恩氏)が来たことで、すべてが解決した」(情報筋)
08/17 17:43
デイリーNKジャパン