EVのバッテリーが突然発火した時のために知っておくべき対応法

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多くの電気自動車(EV)には、スマートフォンやモバイルバッテリーと同じリチウムイオンバッテリーが搭載されているため発火のリスクがあり、2024年8月には中国製バッテリー搭載のメルセデス・ベンツ製EVが韓国のマンションの地下駐車場で全焼し1580世帯に被害が出る火災事故が起きたことがあります。通常の車両火災とは違った対応が必要になるEVのバッテリーの発火について専門家が解説しています。
Electric vehicle battery fires—what to know and how to react | Ars Technica
https://arstechnica.com/cars/2024/08/electric-vehicle-battery-fires-what-to-know-and-how-to-react/
What causes lithium-ion battery fires? Why are they so intense? And how should they be fought? An expert explains
https://theconversation.com/what-causes-lithium-ion-battery-fires-why-are-they-so-intense-and-how-should-they-be-fought-an-expert-explains-214470
◆EVの安全性
EVのバッテリーは基本的に安全で、例えばオーストラリアで2010年~2023年に起きたEVのバッテリー火災は4件しかないとのこと。2023年から2050年までには合計900件発生すると予想されていますが、オーストラリアを走る車の総数からすると大きい数字ではありません。
アメリカのジョージア工科大学先端バッテリーセンターの共同ディレクターであるマシュー・マクドウェル氏は、「バッテリー製造時の欠陥による発火は大変まれで、特にEVにはバッテリー管理システムも搭載されています」と話します。
しかし、EVのバッテリーは膨大なエネルギーを蓄えており、一度事故が起きると猛烈な火災になることがあるため、EV火災を消火するために消防士が特別な訓練を受けることもあります。

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◆EVの車両火災はどのように起きるのか?
何らかの理由でEVのバッテリーが損傷すると、熱暴走と呼ばれる現象により火災が発生するおそれがあります。EVのバッテリーは1つの巨大な電池ではなく、セルと呼ばれる小さなバッテリーの集合体になっており、熱暴走が起きると1つのセルが化学反応で発火してから隣のセルに延焼し、EV全体の火災へと発展していきます。
EVのバッテリーはさまざまな理由で損傷しますが、ミシガン大学バッテリー研究所のグレッグ・レス所長はEVバッテリーの火災を「事故」と「製造時の欠陥」というカテゴリに大別しており、バッテリーに穴が空くような衝突事故や充電の手違いなどはすべて「事故」に分類されます。
レス氏は「ひとまず事故でのバッテリー火災は脇に置いておきましょう。なぜなら、事故で火災になるのはどんな種類の車でも同じだと、誰もが知っているからです」と話しました。
原因がどうであれ、バッテリー火災はすべて消火が困難ですが、製造時の欠陥による火災はいつ発生するかわからないため、消費者にとっては特に恐ろしいものです。例えば、2016年にはSamsungのスマートフォン「Galaxy Note 7」でバッテリーが爆発する事故が相次ぎ、最終的に大規模なリコール問題に発展したことがあります。
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レス氏によると、欠陥によるバッテリーの発火の原因は設計にあるとのこと。レス氏は「設計のどこかに問題があると、セルがショートして熱が発生し、これによって液体の電解質が蒸発してセル内にガスが発生します。そして、熱でそれが爆発し、他のセルへと波及していきます」と述べました。
前述の韓国のEV火災も、このメカニズムにより大規模な火災へと発展した可能性が高いと指摘されています。
◆もし事故でEV火災が発生した場合の対応方法
全米防火協会は、運転中にEVが火災を起こした場合はただちに安全な場所に車をとめて、幹線道路から離れるよう指示しています。車をとめたらエンジンを切り、乗員の全員が手荷物を探したりせずに速やかに降車する必要があります。また、消防署に通報する際は燃える車から100フィート(約30メートル)以上離れなければならないとのこと。
火災が発生したら、真っ先に思い浮かぶのは水をかけて初期消火をすることですが、EV火災の場合は自分で水をかけて火を消そうとしてはいけません。バッテリーの発火は化学火災であり、EVの火災の消火にはガソリン車の10倍から40倍の水が必要になるため、多少の水をかけたぐらいでは消し止められないからです。また、車に近寄ったときに火炎が吹き出したり、爆発で破片が飛散したりして大けがをするリスクもあります。

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もし発火したEVのバッテリーに水をかけると、消火どころかむしろ火勢を強める原因になる可能性があります。これは、水がリチウムと反応して可燃性の水素ガスを発生させ、爆発するおそれがあるからです。
EV火災の対応にあたる消防士は、これまでバッテリーを冷却するために水をかけてきましたが、場合によっては放水せずにバッテリーが燃え尽きるまで監視するという判断をすることがあります。例えば、テスラはModel 3の(PDFファイル)緊急ガイドに、「バッテリー火災は完全に消火するまで最大24時間を要する場合があります。周辺の可燃物を保護した上で、自然消火を待つことも考慮してください」と記載しています。
火が収まったら車内に置いてきた貴重品を取りに行きたくなりますが、これも厳禁です。火が消えてもバッテリーにはエネルギーが残っており、消火から数時間、場合によっては数日間が経過した後で再び炎上する可能性もあるからです。
また、バッテリー火災では有害な煙を吸い込む危険性もあります。そのため、火災を起こしたEVに近寄る場合は地元の消防当局が全体的な状況を評価し、安全だと宣言するまで待つ必要があるとのことです。

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◆安全にEVに乗るには?
まず、欠陥があることが判明したバッテリーは速やかにリコールで交換してもらう必要があります。また、バッテリーを過充電すると発火するリスクが高まるため、過充電も避けなければなりません。
記事作成時点ではほとんど普及していませんが、専門家は固体電池を搭載したEVの登場に期待を寄せています。
マクドウェル氏は「固体電池はリチウムイオンバッテリーより優れた熱安定性を示す可能性があります。液体電解質も使われていないため、バッテリーの最も燃えやすい要素は除外されます」と話しました。

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