Amazonを成功に導いた「リーダーシップ・プリンシプル」が正しい使われ方をしなくなりつつある

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Amazonは、どのようにビジネスを行い、どのようにリーダーたちが導くのかを示した「リーダーシップ・プリンシプル」を掲げています。これらの原則はAmazonが成功するために役立ってきた一方で、2021年にジェフ・ベゾス氏がCEOを退任して以来、徐々に好ましくない方向に変わりつつあると指摘されています。
Jeff Bezos’ famed management rules are slowly unraveling inside Amazon. Can they survive the Andy Jassy era?
https://fortune.com/2024/07/31/amazon-leadership-principles-questions-future-jeff-bezos-departure-andy-jassy/
How are Amazon’s leadership principles holding up under Andy Jassy? - The Verge
https://www.theverge.com/2024/7/31/24210633/how-are-amazons-leadership-principles-holding-up-under-andy-jassy
Jeff Bezos' management rules are slowly unraveling inside Amazon | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=41120201
リーダーシップ・プリンシプルとは、Amazonが新しいプロジェクトの議論や問題解決の模索などあらゆる場面で活用する原則で、「顧客へのこだわり」「リーダーの責任意識」「最高の人材を採用し育成する」など、16項目が設定されています。
アメリカのビジネス雑誌のFortuneが報じた内容によると、Amazonでプログラムマネージャーを務めたパメラ・ヘイター氏が直面した、新型コロナウイルスの流行に伴うロックダウンとその開放に伴う業務形態の変化が、リーダーシップ・プリンシプルに反すると考えられるそうです。Amazonは新型コロナウイルス感染症の対策として在宅勤務を許可していましたが、これは期間限定で、繰り返し延長されたものの大手IT企業の中ではAppleと並んで厳しい制限でした。最終的にアンディ・ジャシーCEOは2021年10月12日に、オフィス勤務を再開した際の最低出勤日数を各チームの裁量に任せる方針を発表しましたが、「リモートワークは、おそらくAmazonではうまくいかない」と発言しています。
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by Tony Webster
このリモートワークと出社に関する方針の一環で、Amazonは2023年2月に「オフィス復帰計画」を更新して「最低週3日の出社を義務付ける」という形に切り替えました。合わせて、シアトルの本社やニューヨーク、サンフランシスコのオフィスなどに出社できるように転居を求めていることも明らかになりました。ヘイター氏はこれに対し、「Amazonの方針は、実質的にオフィス近くに住んでいる人だけが働き続けられるように取り決めたもので、『最高の人材を雇用し、育成する』という原則に違反していると思いました」と語っています。
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リーダーシップ・プリンシプルとは別に、Amazonには「6ページの原則」と呼ばれるものがあります。これは、重要な会議でも軽いブレーンストーミングでも1対1の打ち合わせでも、プレゼンテーションで説明するのではなく、アイデアを提示して議論を促進するための6ページの資料を用意して、それを読み込んだ上で会議するというもの。ヘイター氏も実際に社内チャンネルに集まった社員3万人の協力を経て、職場復帰命令に対する「6ページ」を用意しました。しかし、以前は6ページの原則を優先して禁止されていたプレゼンテーションが、次第に実施されるようになっているとも指摘されています。
FortuneがAmazonの現役員やマネージャー、近年退職した役員など24人にインタビューしたところ、多くの人は「主要な原則や慣行はAmazonにおけるビジネスの中核ではあるものの、あまり広く受け入れられなくなっている」という旨を回答したとのこと。また、一部の内部関係者によると、リーダーシップ・プリンシプルは顧客や従業員を保護するものではなく、薄められ一貫性を欠いた形で、社内の誰かを攻撃する口実として使われるようになっているそうです。
Amazonのこういった原則について、かつてAmazonプライムで責任者を務めたビル・カー氏は「文書化の徹底や独自のさまざまな慣習は、確かに行き過ぎたこだわりのようにも聞こえます。しかしその見返りとして、歴史的にAmazonの従業員は社内の上層から下層部まで、自社で何が起こっているか、指標、チームが行っている取り組み、何がうまくいっていて、何がうまくいっていないかなどについて、物事を細かいレベルで理解できているのです」と語っています。


一方で、コロンビア大学ビジネススクールの経営学部長であるステファン・マイヤー氏は「組織にとって、実際に意味のあることであれば、さまざまな制度を持つことは極めて重要です。しかし、もしそれが実践されず、人々の心に残らず、どのように決断するか、あるいはお互いをどのように扱うかに何の影響も与えないのであれば、それはまったく無意味です」と原則の有用性を認めつつも、反転して良くないものとなる可能性を指摘しています。
Amazonは2021年7月に、創業以来初めてリーダーシップ・プリンシプルに新しい項目を2つ追加しました。新しい原則は「地球上で最も優れた雇用主となるよう努める」「ビジネスの成功と規模の拡大には幅広い責任が伴う」の2つで、当時は倉庫ネットワークの労働組合の動きが活発だったり、独占禁止法や環境保護の注目が高まっていたりした状況であり、それらに応える形の原則だと考えられます。しかし、Amazonの元上級管理職である人物はFortuneに対し「これらは明らかにマーケティング戦略であり、リーダーシップ・プリンシプルの残りの項目の価値を下げています。追加した原則は、社内の考え方を指導するものではなく、外部の評判を狙ったものです」と語りました。
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by Ben Mortimer
Amazon内部関係者の一部によると、2項目が追加されたのと同時期に原則への信頼が損なわれつつあるとのこと。また、ベテランの管理職数名は、「原則の全体的な意図は、今では多くの状況において、正しい決断を下す方法に関するガイドラインから、主に欠陥を指摘することを意図した懲罰的な用法へと移行していると感じています」と考えを述べています。
リーダーシップ・プリンシプルなどの原則への考え方が変わりつつある理由として、2021年2月にAmazon.comの創業者であるジェフ・ベゾス氏が退任し、クラウドサービス「AWS」のトップであったジャシー氏がCEOに就いてからの変化だと考える関係者もいます。一方で、Fortuneの取材に応じた多くの人は、CEOの交代よりも新型コロナウイルスの流行による混乱や、Amazonの従業員数が2倍近くまで急増したことが原因だと述べました。実際に、2020年から2021年に入社した社員にもビデオ会議を通して原則の学習が実施されましたが、従来のやり取りに比べて、浸透につながりにくかったと多くの人が指摘しています。
Amazonプライムのグローバルリーダーを務めるジャミル・ガニ氏は、リーダーシップ・プリンシプルやAmazonの慣習について指導することが自身の仕事で重要な部分だと語り、「私はチームによく、仕事の目的は文書ではなく、適切な会議、適切な議論を喚起できる文書を作成することだと伝えています。原則が誤って解釈されたり適用されたりした場合、すぐに介入して『それはちょっとおかしい。その理由はこう』と何度も言ってきました」と原則の重要性について説明しています。
ソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも、Amazonの従業員と名乗るユーザーの意見が挙がっています。あるユーザーは、Amazonでは5年以上務めていないと昇進できず、チームを運営するキャリアの長い人はチームメンバーに知識を共有しないため、新しい製品の開発が妨げられているという現状を述べ、「Amazonが変化を望むなら、相当数の常勤従業員を削減し、実際に若いエンジニアを意思決定の立場に昇進させる必要があります」と語っています。逆に、AWSでは昇進が早すぎるため、プロジェクトを立ち上げる目的が昇進することになってしまっている問題点を指摘するユーザーもおり、議論が交わされています。

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