金星のような極端な環境でも動作するデータストレージが開発される


極限環境下での電子機器の開発には、高温下で安定に動作するSSDなどの不揮発性メモリデバイスが必要とされています。しかし、一般的な不揮発性メモリデバイスは、およそ300度の温度に達すると故障してしまいます。ペンシルバニア大学の研究チームが発表した新しい強誘電体ダイオードを基にした不揮発性メモリデバイスは最高600度までの温度で動作可能で、金星のような極端な環境で運用できることが期待されています。
A scalable ferroelectric non-volatile memory operating at 600 °C | Nature Electronics
https://www.nature.com/articles/s41928-024-01148-6
Turning up the heat on data storage | Penn Today
https://penntoday.upenn.edu/news/penn-engineering-jariwala-turning-heat-data-storage
AI computers could run in extreme environments like Venus thanks to heat-proof memory device | Live Science
https://www.livescience.com/technology/computing/ai-computers-could-run-in-extreme-environments-like-venus-thanks-to-heat-proof-memory-device
研究チームが開発したのは、強誘電性窒化アルミニウムスカンジウム(AlScN)と呼ばれる材料を使ったダイオードです。メモリデバイスはニッケルとプラチナの電極にAlScNダイオードを挟んだような構造になっています。AlScNダイオードの層は厚さ45ナノメートルで、人間の髪の毛のおよそ1800分の1ほどのサイズだとのこと。
研究チームによれば、材料の厚さが薄すぎると活性が高まって劣化が激しくなり、厚すぎると強誘電性が失われてしまうため、最適な厚さを見つけるために数カ月を要したそうです。
論文の筆頭著者であるディレン・プラダン氏は「AlScNの結晶構造により、原子間の結合が著しく安定し、強力になります。これは耐熱性だけでなく、非常に高い耐久性があることを意味します。さらに注目すべきは、我々の開発したメモリデバイスの設計と特性により、電気的状態の高速な切り替えが可能になるということです。これは、高速でのデータの書き込みと読み取りに不可欠です」と述べています。


研究チームによると、このAlScNダイオードを使った不揮発性メモリデバイスは100万回のデータ読み取りに対応し、6時間以上にわたって安定したオン/オフ比を維持できるそうで、「この結果は前例のないものです」と評価しています。
研究チームによって開発されたメモリデバイスは最高600度で動作可能。例えば、地球よりも太陽に近い惑星である金星は、昼も夜も気温が約460度という極限環境であり、従来のメモリデバイスを搭載した装置だとうまく動作しない可能性がありました。しかし、このAlScNダイオードを使ったメモリデバイスであれば、問題なく動作することが期待できるというわけです。

金星のような極端な環境でも動作するデータストレージが開発される - 画像


by NASA's Marshall Space Flight Center
ペンシルバニア大学の電気・システム工学准教授であるディープ・ジャリワラ氏は「我々の開発したメモリデバイスは、地球深部掘削から宇宙探査まで、他の電子機器やメモリデバイスが対応できないような高度なコンピューティングを実現する可能性があります。これは単にデバイスを改良するだけではなく、科学技術の新たな境地を開くことになります」とコメントしています。

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